【短編/1話完結】ちらし寿司の現代版【KAC20251】
茉莉多 真遊人
本編
とある家族が3月3日、楽しいひな祭りを迎えるときのお話。
その家族は父がまだ帰宅しておらず、母と10歳の娘が家にいた。母が父に連絡し、帰り時間を確認し終えた後に夕ご飯の支度を始める。
「さーて、今日はひな祭りだから、ちらし寿司を作らないと! 具材は何を入れましょうかね」
「何があるの?」
母は訊ねたわけでもなくてただの独り言だったのだが、娘が耳ざとく反応した。
「エビ、レンコン、錦糸卵、いくら、豆かしらね」
母が娘にそう答えると、娘は首を傾げている。
「なんでその具材なの?」
「うふふ、具材のそれぞれにね、想いとか意味とかがちゃんと込められているのよ」
娘の疑問に母は微笑ましくなり、意味を詳しく聞かれるだろうとスマホを取り出して縁起物説明サイトを開く。
「どんな意味?」
「エビはね、腰が曲がるまで長生きできますように、ね」
母がそう言うと娘は両腕でバツを作る。
「じゃあ、なし」
「え?」
娘の不要発言に母が驚く。
「私、長生きしたくない」
「したくないって……」
「レンコンは?」
母の動揺などどこ吹く風の娘は次の疑問に移っている。
「えっと、レンコンは、物事を見通せるように、ね」
「まあ…………それはあってもいいかな。たまごは?」
娘がしばし悩んだ末、可と判断して次に移る。
「錦糸卵は……お金持ちになるように――」
「たくさん入れて!」
娘が即答した。
「たくさん!? そ、そうね、お金はたくさんあっても困らないからね」
母は娘の露骨さに驚きつつ、大事なことだとぎこちなく首を縦に振る。
「あと、なんだっけ?」
「いくら、ね。子孫繁――」
「いらない」
「いらない!?」
母は思わず大声で返してしまう。
「だって、私子ども嫌いだし、子どもって、うるさいじゃん。あと、豆だっけ?」
母は「あなたもまだ子どもでしょ」という言葉をどうにか引っ込めた。
「そうね、豆は、まめに勉強や仕事に励めますように、ね」
「いらない」
「いらない!? なんで!?」
「だって、働いたら負けなんでしょ? 生活保護の方が楽でいいって聞いたもん」
「ええ……いや、ええ? えええ……」
こうして、伝統的なちらし寿司の具材はシビアな現代っ子の娘の指示によって、現代に即した形に生まれ変わるのであった。
【短編/1話完結】ちらし寿司の現代版【KAC20251】 茉莉多 真遊人 @Mayuto_Matsurita
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