依頼、報酬、剣、魔法!〜異世界 ニキークにようこそ〜

日戸 暁

第1話 こんにちは。ここはどこ?

 赤いレンガの敷かれた広場の中央で、年の頃は10代半ばの男子が一人、その場から動かず突っ立っている。オレンジ色の髪に緑の目を持つ彼は、帽子から靴まで全部ベージュ一色の衣類を身に着け、腰には一振りの剣を下げている。


彼は途方に暮れていた。

目が覚めたら、自分はここに居た。

そもそも、それ以前にどこに居たのかも思い出せない。

僕は誰で、ここはどこだろう。


知らない人々がみんな、彼に向かって『〇〇〇○、ルフェニャ』と話しかけてくるので、『ルフェニャ』というのが自分の名前だろうということは分かった。


……なんでみんな僕の名前を知っているんだろう?


 ルフェニャの正面には大きな掲示版があって、周りに人集りができている。人間ではない容貌の者もいる。羽があったり、獣の姿をしていたり、様々だ。

「@#$%%、ルフェニャ」

 犬の頭の被り物を身につけた誰かがルフェニャを手招いてくる。近寄ると、犬頭の誰か(とりあえず、イヌと呼ぶことにする)は、今度は広場の隅の屋台を指さした。そこへ行けということか。ルフェニャはイヌに手を振り返し、教えられた店へ行った。

「?~||+--}<¿、ルフェニャ」

 恰幅の良い、店主のおっさんに声をかけられたが、やっぱり何を言っているのかわからない。店先には、革紐で括られた羊皮紙の巻物がたくさん並んでいる。何の気無しに一つ手にとり、紐を解こうとしたら

「うわぁ!?」

 巻物の留め具から火花が散って、ルフェニャの手に刺すような痛みが走った。

店の主が笑って何か言いながら、1本の巻物を差し出してきた。その留め具に恐る恐る、指先で触れてみる。

……良かった、火花は散らなかった。

内心、胸を撫で下ろして、ルフェニャは巻物を開けた。青く光る、文字と思しき知らない記号がたくさん並んでいる。

なぜ文字が光っているのだろう。好奇心から、文字を指で辿ってみた瞬間。

「え!?」

羊皮紙に書かれていた文字が消えた。ただの皮になってしまった。どうしよう。

慌てていると

【チュートリアル1達成:言語習得】

という文字がルフェニャの視界をよぎった。

【チュートリアル1報酬:ステータス・スキル・クエストウィンドウオープン(右手のブレスレットを見よ)】

【クエスト開放:チュートリアル2:倉庫利用登録】

【クエスト開放:チュートリアル0:この世界を知ろう1:リリンと話す】

立て続けにそんな文章が浮かんで消えた。

 ルフェニャは瞬きをし、この状況、それから今しがた見た文字列について考えた。


この異世界(仮)に来たばかりの自分は、言語の技能書を読み、異国語が分かるようになった。その上、この世界特有の仕様であろう自分の身分ステータス技能スキル依頼クエストを把握できるようになったらしい。

……チュートリアル、1をクリアしてから0開放って何なんだ。なんのバグだ。


「言語習得スキルの書の代金を貰おうか」

スキル屋のおじさんがにこにこしながら手を差し出してくる。

初めて聞き取れた会話が、料金請求とは。

「100ピヨだ」

ピヨ。可愛らしい通貨単位だ。

いやいやいや、そんなことを言っている場合ではない。

服のどこを探っても、硬貨1枚出てこない。

「何だ、金が無いのか。仕方ない。クエストを達成してこい」

おじさんの言葉とともに、

【チュートリアル3:採集をしよう:スビーノ高原のフフワワ草を30個集める】

【チュートリアル4:狩猟をしよう:スビーノ高原のコボボコを5体狩ろう】


視界を覆った文字列に頭がくらくらするルフェニャであった。

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