第十八話 特訓の成果は?

 その後も順調に競技は進み、いよいよ姫華が出場する玉入れの時間となった。

 姫華以外に理沙も一緒に出場するらしく、並んで入場してきた。

 姫華の特徴的な金髪青目の容姿に小さな体躯も相まってか、周囲が少しザワザワとなっていた。

 当の姫華は、数少ない話し相手の理沙と一緒に話をしていたので周囲のことは全く気にしていなかった。

 俺は後半戦に用意する大玉転がし用の大玉を準備しつつ、玉入れの数かぞえも行うことになっていた。

 といっても、大玉は既に空き時間で準備をしてあるのでなにも問題はなかった。

 ということで、俺は玉入れの籠を押さえる係も仰せつかった。


「熊、籠を傾けて」

「流石にそれは出来ない。というか、少し離れて見ると直ぐにバレるぞ」

「えー」


 姫華が籠を押さえている俺に不正の指示をするが、そんなことをする勇気は俺にはない。

 そして、委員長の理沙が追加で姫華に注意をしていた。

 健も玉入れにエントリーしていたが、俺たちのやりとりを見てニヒヒと笑っていた。


「それでは、さっそく玉入れを始めます。よーい、スタート!」


 相変わらず実況席にいる美緒のアナウンスで、玉入れはスタートした。

 すると、各クラスの生徒が籠にお手玉を入れるのに苦戦している中で、天才的な才能を発揮したものがいた。


「ほっ、ほっ、ほっ」

「ちょいや、せいや!」


 それは、うちのクラスの姫華と健だった。

 姫華はギリギリ届く作戦で、練習の成果を発揮していた。

 そして、もう一人がなんと健だった。

 健も変な声を上げながら変な投げ方をしていたが、結果的には姫華と同じギリギリ届く高さでお手玉を投げていた。

 姫華と健が次々とお手玉を籠に入れるので、理沙なんかは啞然としてしまったのだ。

 もちろん、俺もこの結果にはびっくりだった。


「しゅーりょー! おーっと、ひとクラスだけ明らかに籠の中に入っているお手玉の数が違うぞ。果たして、結果はどうだ?」


 一輝がマイクパフォーマンスをするが、もはや結果は目に見えていた。

 なんせ、うちのクラスは二人の活躍で全てのお手玉が籠の中に入っているのだから。

 そして、俺が籠の中からお手玉の数を数えながら宙に投げるのだが、全然終わらない。


「三十、はいA組はなんとパーフェクトです! A組の圧勝ですね」


 美緒がアナウンスすると、周りからどよめきが起きていた。

 ここ数年、玉入れでパーフェクトなんて起きていなかったからだ。


「玉入れクィーン」


 姫華が珍しく陽気に手を上げていて、クラスメイトがいるテントに手を振っていた。

 もちろん、クラスも予想外の結果に大盛り上がりだった。


「ふむ、俺は玉入れキングだな」

「二人とも、本当に凄かったわ。健にこんな才能があるなんてね」

「ははは、お手玉を籠に入れるだけなら高く投げる必要はないからな」


 得意げな健の肩を、理沙が苦笑しながらポンポンと叩いていた。

 すると、二人のやりとりを見た姫華が後片付けをしている俺に頭を差し出してきたのだ。


「熊」

「うん?」

「褒めて」


 どうやら、姫華は俺に頑張ったから褒めて貰いたいらしい。

 そんな姫華の行動に苦笑しつつ、俺は右手で姫華の頭を撫でてやった。


「練習した成果が出たな。良かったな、姫華」

「えへへ……」


 姫華は、表情をによによさせながら俺に頭を撫でられていた。

 すると、理沙が呆れ顔でツッコミを入れてきた。


「ほらほら、二人ともイチャイチャしないで撤収しなさい。姫華は、私たちのところよ」

「はーい」


 姫華は、上機嫌で理沙の後をついて行った。

 俺も、この後の競技を頑張ろうと改めて思ったのだった。

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