第3話 答え合わせ

 事務所に戻って来た私は浅利さんの静止を振り切り真っ先に社長室へと向かう。

 この時間に社長がいるかわからないけど、今はあの人と話したい!

 アイドルとは一体何なのか。その答え合わせがしたかった。



「社長!!」


「おぉ! 誰かと思ったら一条君じゃないか!」


「実は私、社長に話したいこ‥‥‥」


「こら!! カレン!! 何勝手に社長室に入ってるの!!!」


「痛っ!? 浅利さん!? そんなに強く叩かなくてもいいじゃないですか!?」


「ノックもなしにいきなり社長室に入ったあんたに言われたくないわ!!!」



 まずい、浅利さんが本気で怒っている。

 これはお説教だけじゃ済まないだろう。下手をすれば自宅謹慎になり、しばらくアイドル活動が出来なくなる。



「社長。うちのグループのカレンがすいません。今後このような事がないように指導致しますので‥‥‥」


「気にしなくていいよ! 元気が良くていいじゃないか」


「ですが!?」


「それに一条君の目が以前よりも輝いている」


「えっ!?」


「もしかするとアイドルとは何なのか、答えが出たのかもしれないね」


「はい! 答えが出ました!」



 今日の握手会を得て、自分の中ではっきりと答えが出た。

 それを社長に聞いてもらう為に私はここに来た。ここまできておいて、今更後には引けない。



「それじゃあ聞かせてくれないかな? 君の中のアイドルというものの答えを」


「はい!」



 大丈夫! 今の私ならその答えを伝えられる!

 目標も何も見つけられなかった、昔の私じゃない!

 私の思いを社長このひとに伝えるんだ!



「私にとってアイドルとは‥‥‥‥‥太陽のような存在だと思います!」


「太陽か」


「はい! ファンの人達の暗くなった心を明るく照らすような、キラキラと輝く太陽のような存在だと思います!!」



 今日出会ったあの女の子と話して確信した。アイドルというのはファンの人達に勇気と希望を与えられるような存在にならないといけない。

 あの女の子と触れ合って私はその事に気づいた。



「(あの子のような人達を1人でも多く笑顔にさせることが、アイドルという存在なんだ!)」



 だから人々はアイドルという存在に熱狂する。

 私が導き出したアイドルとはそういうものだった。



「素晴らしい! 君はよく自分の中でアイドルという存在を見つけ出せたね!」


「それじゃあこれが正解なんですか!」


「いや、それはわからない」


「どういうことですか!?」


「僕はね、アイドル像というものは1人1人の心の中にあるものだと思うんだよ」


「1人1人の心の中‥‥‥ですか?」


「そうだよ。君にも思い当たる節があるんじゃないかな?」



 そういえばアイドルについて色々な人に聞きまわった時、人によってアイドルに抱くものが違っていた。

 そのことを社長は私に伝えているんだと思う。



「どうやら君もわかってくれたようだね」


「はい」


「だからアイドルという存在は無数の答えがあるというのが私の意見かな」


「そうなんですか‥‥‥」


「そんなにがっかりしないでよ。今君が導き出した答えを見つける方法がたった1つだけあるよ」


「それはどういう方法ですか!」


「それは君がこの業界でトップになることだ」


「私が1番になるってことですか?」


「そうだよ! 君がこの業界で1番になれば、君の考えが正しいということになる」


「逆にいえば売れなければ、その考えが間違っていると言いたいんですか?」


「そうだよ。この業界とはそういうものだ」



 つまり社長は私の考えが間違っていなければ、業界のトップに立てると言っている。

 確かにその考えは一理ある。それがアイドルという存在の答えを出す1番の近道だと私は思った。



「一条君に迷いはないみたいだね」


「はい! ありがとうございます! 私は絶対にこの業界でトップになります!」



 私のことを応援してくれたあの女の子の為にも私は業界のトップになる。

 もうあの時のような迷いはない。業界のトップに立って私の考えが正しい事を証明する。



「それじゃあ頑張ってね。一条君のことを応援してるよ!」


「はい!」



 社長に一礼した私は堂々と社長室を出ていく。

 この日の出来事が私、一条カレンがトップアイドルを目指して活動する契機となる出来事になった。

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私だけのアイドル 一ノ瀬和人 @Rei18

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