私だけのアイドル
一ノ瀬和人
第1話 アイドルという存在
この春晴れて芸能界デビューをした私、一条カレンは悩んでいた。
それはデビューの時、事務所の社長から言われた言葉がいまいち理解出来なかったせいだ。
『君達5人にはこれからアイドルになってもらう!』
メジャーデビューが決まったということで私以外のメンバー全員が大喜びしている。
中には腰が抜けてしまったのか、その場に座り込んで大泣きをしてしまったメンバーもいた。
「(メジャーデビューをしたのは嬉しいけど、何で素直に喜べないのだろう?)」
その理由は自分の中ではっきりしている。私が困惑しているのはさっき社長話した言葉のせいだ。
「アイドルって何なんだろう?」
1年前に日本に帰国するまで海外で生活していた私にはアイドルという概念がわからなかった。
それこそ歌うだけなら歌手と名乗ればいいだろう。演技をするなら女優と言えばいいし、人を笑顔にしたいなら芸人と名乗ればいい。
アイドルという文化に触れてこなかった私には、アイドルというものがどういう存在なのかわからなかった。
「すいません、社長! ちょっといいですか?」
「どうしたんだい? 一条君?」
「アイドルって何をすればいいんですか? 私にはわかりません」
私がした質問を聞いて他の人間はぎょっとした表情をする。
メンバーの人達がそんな表情をしてしまうのもわかる。メジャーデビューなんて一握りの人にしか与えられないチャンスなのに、それを台無しにしようとしている私に対して非難の眼差しを向けられてもしょうがない。
「そういえば一条君は海外からの帰国子女だったね?」
「はい、そうです」
「それならアイドルがなんなのかわからなくても仕方がないか」
「すいません社長、私は真剣に質問しているんですが‥‥‥‥‥」
「もちろんそれはわかってるよ。ただここで僕がアイドルについて話しても君の為にはならないと思う」
「えっ!?」
「だから僕からの宿題だ。君なりの考えでいいから、アイドルというものについて考えて見なさい」
「わかりました」
優しそうな笑顔で社長は私の質問に答える。どうやら私の質問は社長にはぐらかされてしまったようだ。
それを見て周りの人達はほっと胸を撫でおろしている。彼女達は私が社長に喧嘩を売っているように見えたようだ。
「それじゃあこれからミーティングをするから、メンバーは会議室に移動して!」
『はい!』
プロデューサーである浅利さんに促され、私達は社長室を後にして会議室へと向かう。
移動している間も私の心には靄がかかっている。その原因はアイドルという存在のせいだ。
「(アイドルという物がわからないなら、それがどんなものなのか探してみよう!)」
歌手でも女優でも芸人でもないアイドルという職業。
それがどういうものなのかわからないのであれば探せばいい。その答えを探し出した後、再度社長に答えを聞こう。
「絶対に答えを見つけて、社長の鼻を明かしてやる!」
「誰の鼻を明かしてやるって?」
「浅利さん!?」
「社長の鼻を明かすのもいいですが、まずは自分の心配をしましょうね」
「すいません!?」
私のことを見て、他のメンバーはクスクスと笑っている。
どうやら私の行動が面白かったらしい。そう思ったら急に恥ずかしくなり、彼女達の目を見れなくなってしまった。
「貴方達も笑わないの! そんなことよりもこれから行うミーティングに集中しなさい!」
『はい!!』
プロデューサーの彩里さんに注意された後、私達は会議室でミーティングを行う。
そしてこの日から私のアイドルという存在を探す旅が始まった。
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