【KAC202501】一年に一度だけの

青月クロエ

第1話

 うちの雛人形は八段飾り。

 毎年飾るんだけど、その存在感は圧巻。

 存在感もさることながら、人形に取り付ける小物の数も大道具小道具もとにかく多い多い。組み立てから飾り付けまで半日近くかかる大仕事をママひとりでやってる。片付ける時も三月三日の内に全部片づけちゃう。

 あ、学校が休みの時はあたしも手伝ってるけどね。


 でもさ、雛人形出すのって、結構な重労働じゃん?

 ぶっちゃけママもそろそろトシだし?あたしも雛人形見てキレ~、かわいい~とか喜ぶトシでもないし?

 大変そうだからもう出さなくてもいいよって、ここ何年かママにちゃんと言ってるんだよね、なのにさーあ……。


『ひいなちゃんには幸せな結婚してほしいから』だって。


 んー、なんかよくわかんないだけど、雛人形しまいっぱなしにしてても女の子が結婚できなかったり?幸せになれないんだってね。

 三月三日の内に片付けちゃうのもおんなじ理由からなんだってね。ただの迷信じゃんねーえ?今時本気で信じ込んでるの、ママくらいじゃないかな。


 雛人形の出し入れもだけど、ママってひなまつりに関して変にこだわりみたいなの持っててね。三月三日が平日休日関係なく、あたしとママの二人だけなのにパーティーかよってくらい料理に気合が入るんだ。

 ちらし寿司には錦糸卵、桜でんぶ、イクラ、海老、とろサーモン以外にも大トロ、中トロ、キャビアまで入ってるでしょ、蛤のおすましでしょ、鯛の天ぷらでしょ。あとは……、ゴディ〇風の手作りチョコレートケーキ!(もちろんワンホール)ね、豪華でしょ~!


 そりゃあ、一年分の贅沢を一気に三月三日に使ってるんだもん。

 この日のために、普段はスーパーの特売品で食費やりくりしてるし、お菓子なんて滅多に買わないし買えない。一日三食食べられればラッキーな生活。

 八段飾りの雛人形なんて飾ったら、あたしとママの布団一枚敷くのがやっとな広さの1DK。『結婚に失敗しなきゃ、こんな暮らし』がママの口癖。


 立派な八段飾りの雛人形も、年に一度の豪華な食事も。

 あたしの幸せ願うママの強い想いが込められてるの。


 ママの気持ちは嬉しいし、願いにも応えてあげたい。


 でもね。

 ごめんね。


 あたしだけの幸せは自分で見つけたいの。

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