浮気について彼女が考えたこと

またたびやま銀猫

第1話

 土曜日、一緒に買い物をして休憩にカフェにいるときのことだった。

「不倫とか浮気って、そんなにダメかなあ?」

 私の言葉に、親友は飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。


「急になにを言うのよ。ダメに決まってるだろじゃない」

 けほけほと咳き込みながら、彼女は言う。


「ダメなのはわかってるよ。言いたいのはそうじゃなくて」

 私は親友が落ち着くのを待ってから続きを言った。


「いつも思うんだけどさ。不倫とか浮気が嫌だっていう人をパートナーにするからもめるんであって、OKだよって言う人と結婚して、浮気相手もちゃんと、二番目でいいって言う人ならもめることないよね」


「うーん、そうかな」

 親友は首をかしげる。


「文句を言う人がいなくなるから平和じゃない?」

「それは、そうかもだけど」


「私はただ浮気がOKって言ってるんじゃなくて、ちゃんと許可をとれ、ってことなの」

「独占欲があるから、なかなかムリじゃない?」


「そこをうまくできないなら浮気も不倫もしなきゃいいのに。技量がないのに不倫するからダメなのよね」

「その理論にうなずく人は少ないと思うよ」


「やぱりそうかあ。最初にちょっと確認するだけでトラブルを回避できると思うんだけどなあ」

 私は残念に思いながらジュースを口にした。


「浮気のスリルが楽しいって言う人もいるから、そういう人は絶対に了承をとるなんてしないよね」

「そういうのは確かに了解なんてとらないね」

 うーん、と私はうなった。




 夕方、親友と別れた私は、そのまま夜の街に向かう。


 待ち合わせをしていた男は私を見つけると破顔した。


 この男には恋人がいる。それでもいいから付き合いたいと私は言ったのだ。相手にも承諾を得てね、と言ったところ、OKだったらしい。


 ただセックスかしたいならセフレでいいのかもしれない。

 でも、私は恋人がほしいのだ。甘いときめき。同じシチュエーションでも他の人なら違う反応がある。その差が楽しい。


 だけどほかの人には言ってない。倫理観が崩壊していると思われると面倒だから。親友ですら反応が微妙だったのだから、やはり言わなくて正解だ。


 男と一緒にホテルに入ろうとしたときだった。

「やっぱり浮気してたのね!」

 女の声がして、私は驚いて男を見た。


「恋人?」

「……うん」

 男は顔を青ざめさせた。


「彼女のOKはもらってるって言ってたのに、嘘だったのね」

 男は目をそらした。


「あんた、許さないから!」

 女がキーキー喚いて私を殴ろうとするが、私はさっと避ける。


「約束が違う。別れるから」

 私は怒って彼に言う。こういうずるい人がいるから、ダメなんだ。


「待って、この女とは別れるから!」

 彼は私にすがる。


「なに言ってるのよ!」

 女性が怒る。


「もう私には関係ないわ。約束を守れない人は嫌いなの」

 そのとき、私のスマホが鳴った。


「彼からだわ」

 私はうきうきとスマホに出た。

「彼って……」

 戸惑う男にかまわず、電話の彼と話す。


「……うん、大丈夫、今夜はあいてるから。じゃ、すぐに行くね」

 私がスマホを切ると、男が怒り出した。


「お前、ほかに男がいたのか!」

「最初にそう言ったじゃん。それでもいいって言ったのはあなたなのに。なんで自分だけが特別だと思うの?」

 私はあきれた。


 浮気をしているのが自分だけだと思うなんて、なんてバカだろう。女を大事にしてないくせに大事にされて当たり前なんて、どれだけ女をバカにしているんだろう。


 しかも、私は最初にちゃんと言ったのだ。浮気相手だよ、と。


「俺のこと好きだって言ったじゃん」

「五番目くらいに好きだったよ。一番好きな人にプロポーズされたから、今日で別れるつもりだったけど。結婚したら浮気はしないって決めてるの」


「五番目かよ!?」

 男が愕然と言う。


「あなたみたいなちんけな男とつきあうと、彼の素敵さを再確認できて良かったわ。今までありがと」

 私がそう言うと、女性ははっとしたように男を見た。


「私もあなたと別れるから!」

「え?」


「目が覚めた。キープですらない、五番目程度の男にこだわってても仕方ない。もっといい男探す」

「そんな!」


 私と女性は男を置いて立ち去った。


 男はただひとり、ホテルのロビーにポツンととりのこされていた。




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浮気について彼女が考えたこと またたびやま銀猫 @matatabiyama-ginneko

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