KAC20251 ひなまつり

@wizard-T

KAC20251 ひなまつり

「昔っから兄さんってそうよね」

「今年がラストなんだろ。

 母さんもさすがに尻を叩いてもいいんじゃねえのか、っつーかお前の話を真に受ければお前は一生嫁に行く気がねえって事じゃねえか」

「兄さんも案外考えが古いんだから」


 妹は呆れていた。

 まったく、毎年きちんと片付けてるのにもう三十二にもなってお嫁にも行かねえで……。

 あ、そう言えば今付き合ってる彼氏が婿入りしてえとか言ってるそうだからもしそうなら本当の本当に嫁「入り」はしねえよな。ま、見栄張ってるだけかもしれねえけど。


「でもおばさん」

「私はまだおばさんじゃないわよ!」

「でもお父さんの姉妹だからおばさんでしょ、サザエさんでもカツオくんはタラちゃんのおじさんだし」

「そうだけどね……」

「おばさんは知ってるの、パパが食べる人だって」


 で、七年前に結婚したうちには一応雛人形がある。嫁の実家が嫁入り道具とかって持たせてくれたもんだ、本当古めかしい…と言いたいけど実際お内裏様とお雛様しかいねえちっぽけな飾りであり、年に一度しか出番のねえ代物としてはまあんなもんだろうなってリーズナブルなお値段の代物だ。


 で、そこには本来あるべきかもしれねえもんは、もうない。

 いや、去年までは、あった。そして昨日までも、あった。




「誰に似たんだろうな実際、本当うまいのに」

「コンビニとかじゃなく和菓子屋で買って来たそれ、兄さん全部食べちゃってたよね」

「だって母さんもお前も手を付けないから」

「兄さんの好物って、割と本気で菱餅なんじゃないの?」


 しかし何でだろうな、俺の嫁も娘も、菱餅のたいして手を付けようとしないのは。

 あんなうまいもんそうそうないのに。


 和菓子屋と言ってもそんなに御大層なもんじゃないが、それでも母さんが買って来ては乗せてくれた三食の餅。妹も母さんも父さんも食わねえもんだから食べてみたところ、これがもううめえのなんの。

 それこそひなまつりが終わって値崩れした菱餅を小遣いかき集めて食いに行き、その後歯医者にレッツゴーになったのはいい思い出だよ。まあ普段菱餅が手に入らねえ時は団子を買ってるけどさ、この味がやめられねえんだよ。

 なんでわからねえんだろう、みんな人生損してるな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAC20251 ひなまつり @wizard-T

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説