桃カステラ

星之瞳

第1話

「さ、始めましょうか」私は雛人形の箱を座敷へと運んだ。

私は箱の中から設置の説明書を取り出した。

「えっと、座卓の上に緋毛氈ひもうせんを引いて、台を組み立てて、その前に段ボールを引かないと」私は座卓に段ボールを引いて緋毛氈を敷き台を置いた。

「次は段の設置」きれいな蒔絵の描かれた段の板を台の上に置き、ゆるみが無いのを確かめた。

「ぼんぼりに、屏風に、後は小物を置いて、雛人形を置いてっと」

「これでいいかな?」私は説明書を見ながら確認した。

そういえば、お内裏様とお姫様の位置ってこれでいいのかな?後でお義母様に確認しよう。

綾乃あやのさん、愛美まなみが起きたわよ」

「お義母かあさんすみません、後掃除機かけますから」私は急いで掃除機をかけた。

「お義母さん終わりました」そう言うとお義母は愛美を抱いて座敷に入って来た。私はお義母さんから愛美を受け取った。

「あら、綾乃さん綺麗に飾れたわね」

「お義母さん!すみません愛美を見ていただいて」

「いいのよ。愛美ちゃんいい子にしていたわよ。女の子っていいわね初節句にこんなに華やかなひな人形を飾れるなんて、ひな祭りには毎年飾れるのね」

「お義母さん、よかったんですか?私の両親が雛人形を買ってしまって」

「いいのよ、母方が雛人形を送るという風習がある所もあるしね、それにちゃんとこちらに連絡してから贈ってくれたんだもの、ご両親初節句のお祝いにこちらに来られるのよね」

「はい、3月3日の昼には着くと連絡がありました」

「雛人形頂いたからね。当日はごちそうにしましょう」

ピンポーン。チャイムが鳴った。

「はーい!」義母はそう言うと玄関に向かった。

暫くして戻ってきた義母は箱を抱えてきた。

「綾乃さんのお父さんから荷物が届いたんだけど、品名が桃カステラと書いてあるんだけど」

「桃カステラ!なつかしい。これは私の郷里長崎市のお菓子ですよ。桃は古来から魔除けとか幸運を呼ぶものとされていて、桃の節句のころに作られるんです。ひな祭りに供えたり、贈り物にしたりするんですよ」

「本当に桃そっくり」

「桃の形に焼いたカステラに、白いすり蜜を塗って、それに練り切りなどで作った緑の葉などを飾って食紅でお化粧して、本当に桃そっくりですよね。私桃カステラがあるのが当たり前で、よその土地ではないこと知らなかったんです」

「そうなのね。でも綺麗なお菓子ね食べるのがもったいないみたい」

そう言うと義母は桃カステラを仏壇と、雛壇にお供えした。

「主人とまさるが帰ってきたら食べてみましょうね」

「はい!あ、そういえばお義母さんお内裏様とお姫様この位置でいいんですか、逆の地方もあるようなんですが?」

「え、そんなことがあるの、私は知らないわ。説明書通りでいいんじゃない?」

「そうですね。ひな祭りが楽しみですね」


雛人形の前で私達は雑談を楽しんだ。私達の様子を雛人形が見下ろしていた。








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桃カステラ 星之瞳 @tan1kuchan

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