【3人台本】烏の黎明

夜染 空

烏の黎明

【登場人物】


亜輝:(あきら) 人間、祓い屋 。家の教えに従い妖怪退治をしている。妖怪は悪だとしてきたが、珠里との出会いで考えを改めるようになる 性別女性


珠里:(しゅり) 人に変化できるカラスの妖怪。害はないが身を隠しながら暮らしていた所を亜輝に目をつけられてしまう ◾︎印でぬらりひょんと兼役 性別男性


蛇ノ目:亜輝の家憑きの妖怪 土地の守りも担う蛇の妖怪。外見は片目を布で隠し、長い髪を雑に結っていて和装 ☆で声を変えて下さい 性別不問


叫ばないキャラはいませんので、ご注意ください


0:以下、本編



珠里:「M/今から200年ほど前、私は生まれた。名もないただのカラスだった私は、人間に世話をされ、人間と共に育った…だが、人間の寿命は短く、私はあっという間に1人になってしまった。」


珠里:「M/それから私は各地を転々としながら過ごした…だが、私を育てた人間とは違い、この姿を嫌う人間がいる事を知ると、私は隠れるようにひっそりと日々を過ごした…」


珠里:「M/それから時は目まぐるしく変化し続けた…そして今、私の目の前には1人の祓い屋がいる……」


0:森の中にある小さな社前


亜輝:「お前、カラスの妖怪だな?こんなところで何をしている。力を蓄え、人に悪事を働く算段でも取っていたのか?」


珠里:「…」


亜輝:「応えろ!まさか喋れない訳ではないだろう?」


珠里:「…私はただ、ここで寝起きするだけの無害な妖怪だ」


亜輝:「嘘だ、妖怪は皆悪事を働く…お前だってそうだろう!」


珠里:「妖怪だから悪事を働く?バカを言うな。無害なモノがいるとなぜ分からない」


亜輝:「妖怪は皆悪だと教えられてきた!」


珠里:「…ならば、私がどんな悪事を働いたか教えてもらおう。答えろ、私はお前達に何をした?」


亜輝:「……それは」


珠里:「お前の短い尺で物事を計るな。」


亜輝:「……」


珠里:「分かったら立ち去れ。私はただ、静かに暮らしていたいだけだ」


亜輝:「…。」


0:何も言えずにその場を去る亜輝


珠里:「…ふん、久しぶりに人間の顔を見たかと思えば…だが、祓い屋か…。あの人間には少し興味がある…人里になど降りたくは無いが…様子を見に行くか」


0:淡い光と共に珠里の姿はカラスから人に変化する


珠里:「…この姿も久しぶりだな。」


0:そして無言で社を出る


0:一方、亜輝。虚空を眺めて独り言を呟いている


亜輝:「…おじーちゃん…妖怪は悪さをするから、全部退治しなきゃ行けないんだよね…?」


亜輝:「皆そうやって人助けをしてきたんだよね……?」


亜輝:「でも、あの妖怪は…」


亜輝:「無害な妖怪なんて、本当にいるのかな…」


0:教えられてきたことに疑問を抱きながら、亜輝は家に帰る


亜輝:「ただいまー…」


蛇ノ目:「おかえりなさい亜輝様」


亜輝:「ただいま蛇ノ目、変わり無かった?」


蛇ノ目:「はい、問題ございません」


亜輝:「そっか、ありがとう」


蛇ノ目:「なんの。この家を護ることが私の役目。どうぞお気になさらず」


亜輝:「M/家憑き妖怪の蛇ノ目。私が産まれるよりもずっと前からこの家に仕えている。そう言うモノだと思っていたから、今まで全く気にすることがなかった…」


亜輝:「ねぇ蛇ノ目…」


蛇ノ目:「何でしょう」


亜輝:「蛇ノ目は、どうしてこの家に憑いているの?」


蛇ノ目:「…ただの、恩返しです」


亜輝:「恩返し……」


蛇ノ目:「その昔、私は大層な悪事を働きました、ですが当時の御当主様…亜輝様のお爺様がそれを許したのです。半ば強引なところもありましたが、祓われるよりマシかと思い…結果的に、恩返しという形で私はこの家憑きになったのです」


亜輝:「…蛇ノ目は、悪い妖怪だったんだ…」


蛇ノ目:「はい。」


亜輝:「…ねぇ蛇ノ目……悪くない妖怪も、いるのかな」


蛇ノ目:「…少なくとも、この地に溢れる妖怪の全てが、悪な訳ではございません。ただ…亜輝様は『妖怪は悪だ』と言われて育った…その考えを急に改めることは難しいでしょう」


蛇ノ目:「……急にどうしたのですか?」


亜輝:「…カラスの妖怪に会って、祓おうとしたら『私は無害だ』って」


蛇ノ目:「それで…」


亜輝:「その妖怪がどんな悪さをしたのかも…本当に悪さをしていたかも知らないで、私はただ妖怪だって言うだけで祓おうとした…祓うだけの理由が浅くて…何も言えなくなって…」


蛇ノ目:「そう言う家に生まれてしまったのです、仕方がありません」


亜輝:「仕方ないで済むのかな…今まで私が祓ってきた妖怪は、何かしら人を困らせていた…でも、あの妖怪は…」


蛇ノ目:「私のような悪党も改心するのです。亜輝様は、これから少しづつ妖怪を知れば良いかと」


亜輝:「……うん」


蛇ノ目:「さぁ、今日はもう遅い。お風呂に入って温まってきてください」


亜輝:「…ありがと」


0:促されて風呂場に向かう亜輝、その外から妖気を感じて警戒する


亜輝:「…誰だ!」


珠里:「ご挨拶だな、私だ。」


亜輝:「…その声、さっきのカラス?なぜこんな所にいる!」


珠里:「お前に興味があってな。見に来た」


亜輝:「……ふざけた事を…私はまだ、お前が無害なモノだと認めた訳では無い!」


珠里:「認めようが認めまいがどちらでも良い。それに、危害を加えるために来たのでは無い。言っただろう、見に来た、と。」


亜輝:「それがふざけた事だと……」


珠里:「ならば問おう人間…お前達人間が我ら妖怪を狩る理由はなんだ」


亜輝:「…それは、悪さをするからで…」


珠里:「悪さをしている所を、お前は見たのか?」


亜輝:「…それは」


珠里:「見ていないのだろう?自身が見た事象でも無いのに、『妖怪は悪だ』と決めつけて祓うなど、傲慢にも程があるのでは無いか?」


亜輝:「(何も言い返せずに押し黙る)」


珠里:「その威勢の良さは認めよう…だが、お前は知るべきだ。我らを。」


亜輝:「知って何になる…」


珠里:「さぁ?少なくとも、無害な妖怪が祓われる事は減るだろうな」


亜輝:「…なら、お前のことを教えろ。」


珠里:「私はただの無害なカラス。それだけだ。」


亜輝:「答えになっていない!」


珠里:「ならばよく見ることだ。この地に蔓延る妖怪の在り方を」


亜輝:「……」


珠里:「目の前に妖怪が居たら祓うような人間の方が、よっぽど妖怪よりタチが悪い。」


亜輝:「……っ!」


珠里:「話はそれだけだ。まぁ…お前には興味があるからな、時折こうして会いに来よう……(消える)」


亜輝:「…気配が…待て!!」


0:煙のように姿を消した珠里。そして、珠里が残した言葉に頭を抱える亜輝


亜輝:「…どうしろと言うんだ…。」


0:翌日


蛇ノ目:「おはようございます亜輝様」


亜輝:「おはよう蛇ノ目……」


蛇ノ目:「…顔色が優れませんね、如何なさいましたか?」


亜輝:「…昨日のカラスが来て、話をしたんだ…蛇ノ目…私がやってきたことは、間違っていたのかな…」


蛇ノ目:「…何を言われたかは存じ上げませんが、ですが…そうですね…お家のやりも*いささか強引な所があるとは思っておりました。ですが、現当主はアナタです、この家に生まれながら才を見い出せなかったお父上に代わり、アナタがこの家を変えるのです」


亜輝:「お父さんがなんて言うかな…見えないって理由で不貞腐れて、ムキになって修行に出ちゃってるけど…帰ってきて妖怪と仲良くする私の姿を見たら……」


蛇ノ目:「お爺様がご存命であれば…。あの方は教えに従いつつも優しかった。」


亜輝:「え、おじーちゃんが優しかった…?」


蛇ノ目:「はい、あの方は決して無害な妖怪を祓う事はしませんでした。ちょっと小突いて追い返すぐらいです」


蛇ノ目:「(できる限り小声)かなり横暴でしたけどね…」


亜輝:「…私には散々家のやり方を口酸っぱく言ってたのに」


蛇ノ目:「警戒する心を知って欲しかったのではないでしょうか?ただ、不器用なお爺様は我らの本質を伝えられないまま亡くなってしまった…人間の一生の短い事…」


亜輝:「……後で恨み言言ってやる」


蛇ノ目:「そんな事をしては、返って恨まれると言うものです」


0:またしても煙のようにふわりと現れる珠里


珠里:「そうだ。恨むなら自身の凝り固まった考えを恨め。」


亜輝:「…お前!」


珠里:「お前では無い、珠里という名がある」


蛇ノ目:「(威嚇の眼差しをしながら)アナタが、亜輝様が言っていたカラスですか…」


珠里:「如何にも。そう言うお前は蛇か…随分前に大蛇の妖怪が人に使役したと聞いたが、それはお前の事だったか」


蛇ノ目:「私のことなどどうでも良い。何をしに来た」


珠里:「何も。」


蛇ノ目:「ふざけているのか?」


珠里:「至って真面目だ。そこの人間が我らをどう見るか、それを見届けるために来ている。それ以上も、それ以下の理由もない。」


蛇ノ目:「(警戒を解く)……ふぅ。」


亜輝:「じ、蛇ノ目?」


蛇ノ目:「ご安心ください亜輝様、このモノは本当に危害を加える様子はありません」


珠里:「さすが、妖怪同士だと話が早いな」


蛇ノ目:「ですが、不審な行動を取れば私が喰います。」


珠里:「やってみろ蛇。その時はその目玉、潰して我が糧とするだけだ」


0:ただならぬ殺気を纏う2者、すかさず亜輝が止めに入る


亜輝:「待った待った!そんな殺気ダダ漏れにしないでよ!家が壊れちゃう!」


蛇ノ目:「……失礼しました」


珠里:「…ふん、」


亜輝:「…とりあえず、蛇ノ目が無害だって言うなら信じる。でも、私も祓い屋…怪しい行動は……」


珠里:「くどいぞ人間」


亜輝:「……っ」


珠里:「所詮私はただのカラス。何が出来る訳でもない。」


亜輝:「…わかった、でも、こうしてフラっと現れるのはさすがに心臓に悪い…だから、アナタにはこの家に住んでもらう」


珠里:「…冗談だろう?」


亜輝:「冗談じゃないよ、見ろと言うなら近くに置いた方がいいし、それに、アナタにとってもその方が楽でしょう?」


珠里:「…この蛇も了承するなら」


蛇ノ目:「おや、家憑きにも了承をとるとは…まぁ良いでしょう。ですが、何かあればその時は喰います。」


珠里:「あいわかった…。それと、私の名は珠里だ。」


亜輝:「珠里、ね。わかった、私は亜輝。こっちは蛇ノ目」


珠里:「……ふん」


亜輝:「M/そうして、私はカラスの妖怪、珠里を家に迎え入れ、一緒に生活する事になった。いざ生活してみると、まぁ確かに害はなかった…なかったのだが、珠里は結構ワガママな性格をしていて、蛇ノ目は大いに手を焼いていた…」


蛇ノ目:「おいカラス!また亜輝様の食事をつまみ食いして…お前はどうしてそう意地汚いのだ!お前の分は隣に避けてあるだろう!」


珠里:「あれっぽっちで私の腹が膨れるものか。味も薄い。」


蛇ノ目:「言わせておけばこのカラス…やはり貴様は喰うしかないようだ…」


珠里:「やってみるがいい!その時はお前と私、揃って亜輝に祓われるだけだ!」


蛇ノ目:「様をつけろ!!…だいたいお前のその態度はなんだ!家でゴロゴロと…厄介になっている身で、恥ずかしくないのか」


珠里:「生憎と、恥なんてものはこの家に住まう時に捨てた」


蛇ノ目:「……カラス…やはり貴様はここで喰らう…!!」


0:喧嘩する2人にって入る亜輝


亜輝:「はーい!ストップ!」


蛇ノ目:「…亜輝様」


亜輝:「2人とも喧嘩しないの、珠里も!無害なのは分かったけど、さすがにちょっとは蛇ノ目の手伝いしたら?」


珠里:「(ぷいっと顔を横に振る)ふん!なぜ私が」


蛇ノ目:「居候の身でありながらその態度…やはり許しておけん…亜輝様、このモノは私が始末します…」


亜輝:「蛇ノ目も!何かあれば私が祓うから!仲良くしよう?ね?」


蛇ノ目:「(怒れる感情を抑えながら)……カラス、亜輝様に免じて、今日は喰わずにいてやろう…」


珠里:「お前のような蛇に喰われてたまるか…」


蛇ノ目:「…やるか」


珠里:「良いだろう…」


亜輝:「言ってる側から殺気出さないの…」


亜輝:「……家が、壊れるでしょうが!!!」


0:2人に強烈なゲンコツをする亜輝


珠里:「……!???!?」(驚きで声が出ない)


蛇ノ目:「…お爺様譲りの霊気を纏った拳…久しぶりに食らいましたが、まだご健在でしたか……」


亜輝:「全くもう…仲良くするの!わかった!?」


珠里:「…わかった」


蛇ノ目:「…はい」


珠里:「(小声)おい、今のはなんだ!」


蛇ノ目:「(小声)亜輝様のお爺様直伝の霊拳です」


珠里:「(小声)あんなモノを本気で出されたら、私は一溜りもないぞ!」


蛇ノ目:「(小声)それは私も同じです」


珠里:「(小声)人間のくせにあんな力…」


蛇ノ目:「(小声)修行の成果ですよ。あれに祓われたくなければ、大人しく家事手伝いをしてください」


珠里:「(小声)…仕方ない、そうしよう」


蛇ノ目:「(小声)分かれば良いのです」


珠里:「(小さく舌打ちをする)」


亜輝:「…にしても、珠里はホントに無害な妖怪だったんだね…ワガママだけど」


珠里:「だから最初から言っていただろう、それを、妖怪だからという理由で無理矢理祓おうとしたのは亜輝だ」


亜輝:「だね…珠里を見ていると、この辺の妖怪も同じなんだって思うようになってきたよ。ただ静かに、面白おかしく暮らしたいだけなんだって…」


珠里:「害あるものはそもそもこんな風に人里に降りてこない。害あるものは人を喰らい、力を蓄え災厄を引き起こす、お前が何を教えられたかは知らないが、全てがそうでないと知ったのならまずやることがあるだろう」


亜輝:「…うん、ごめんなさい。珠里。」


珠里:「分かれば良いのだ…!」


蛇ノ目:「(軽い溜息)では、お互いに和解できたと言う事で、早速珠里には家の掃除を手伝って頂きます」


珠里:「はぁ!?何故だ!」


蛇ノ目:「当たり前です、アナタは居候なのですから」


珠里:「…くっ、今日の晩飯は弾めよ!!」


亜輝:「…扱いやすい……のかな?」


蛇ノ目:「ご機嫌取りをすればなんてことありません。」


亜輝:「さすが蛇ノ目だねぇ」


0:蟠りが解けた3人はその後も賑やかに過ごす。

0:だが、災厄は音も立てずにやって来た


蛇ノ目:「…亜輝様」


亜輝:「うん…おじーちゃんの言ってた奴が来た」


珠里:「…何だこの凄まじい妖気、何が来るというのだ」


亜輝:「…ぬらりひょんだよ」


蛇ノ目:「周期的にこの地を手に入れようとやってくるのです、その度に追い払っていたのですが…全くもってしつこいヤツです」


珠里:「そんなもの、喰ってしまえばいいだろう」


蛇ノ目:「妖怪の総大将を喰らうなど…そんなことをすれば、指導者がいなくなった魑魅魍魎が暴れ出すだけです。」


亜輝:「勝てば退散、負ければ奪われる…そうやって私たちの一族はこの土地を守ってきた…でも、私にはそんな力は…」


珠里:「あのゲンコツがあるだろう」


亜輝:「それで済めば安いもんだけど…私はおじーちゃんみたいな凄い霊力はないよ…」


蛇ノ目:「さすがは総大将……従える数は圧倒的に多い。下手に祓えば何が起こるか…」


珠里:「はっ、なら私が…っぐっ!?」


亜輝:「珠里…?珠里、どうしたの!?」


珠里:「…頭が…割れるように…ぐぅぅっ」


亜輝:「珠里!」


蛇ノ目:「亜輝様、離れて!」


0:珠里は何者かに支配され、自我を失ってしまう


珠里:「◾︎この地を手中に収めようと躍起になり、何度お前達に勝負を挑んだことか…それなのに、よもやこのような小娘が現当主…片腹痛い!」


亜輝:「…まさか、ぬらりひょん…!?珠里の意識を乗っ取ったの…!?」


珠里:「◾︎如何にも!このような小物、儂の前ではただの虫に過ぎない!」


亜輝:「珠里は虫なんかじゃない!」


珠里:「◾︎あの老いぼれならともかく…貴様のような小娘……一瞬で喰ろうてやる!」


蛇ノ目:「亜輝様!」


0:素早く五芒星を切り防御する亜輝


亜輝:「…くっ!」


珠里:「◾︎所詮その程度!貴様は何も出来ないただの小娘だ!早々にこの地を明け渡し、我らの配下に下るが良い!」


亜輝:「誰が、あんたみたいな*強突く張り《ごうつくばり》の言うことなんか聞くか…私は祓い屋!お前のような悪い妖怪を祓う者だ!」


珠里:「◾︎ならばやってみよ!この数に……耐えられるものならばなぁ!!!」


亜輝:「…!?そんなっ」


0:頭上にはおびただしい数の妖怪、その数はとてもでは無いが亜輝と蛇ノ目が対処できる数ではなかった


蛇ノ目:「くっ……数で叩かれたらこちらは終わりです」


亜輝:「…でも、やらなきゃ……おじーちゃんたちが守ってきた土地を、今度は私たちが守らなきゃ!」


蛇ノ目:「亜輝様……えぇ、お供します、家憑き蛇妖怪蛇ノ目……今こそ、真の姿をもってこの地、この家を御守りしましょう!」


0:眩い光とともに蛇ノ目は巨大な蛇へと姿を変える


蛇ノ目:「☆来るが良い雑魚共…貴様らの血肉…我が糧としてくれる!」


亜輝:「M/…これが、蛇ノ目の真の姿…真っ黒で禍々しい…でも、どうしてだろう…怖くない……」


亜輝:「おじーちゃん、私に力を貸してね…!」


珠里:「◾︎がはははははっ!ミミズが蛇になったところで何になる!」


蛇ノ目:「☆耳障りな笑い方をするな!はぁぁっ!!!」


亜輝:「出てよ式神、我に応え悪鬼羅刹を喰らい尽くせ!」


珠里:「‪◾︎ほぉ…あの娘は式神を従えているのか…」


亜輝:「*犬獣けんじゅう、*ほむら!」


珠里:「◾︎ほぉぉぉ!!欲しい!あの式神!なんと美しい…!なんと眩い光…!寄越せ、その獣を寄越せぇぇ!!!」


蛇ノ目:「☆させぬ!」


珠里:「◾︎(舌打ち)えぇい、小癪なぁ!」


0:束縛の術で動けなくなる蛇ノ目


亜輝:「蛇ノ目!」


蛇ノ目:「☆私の事は良い!今は珠里を!」


亜輝:「わかった!」


珠里:「◾︎我が束縛術からは簡単に逃げられぬぞ…!」


蛇ノ目:「☆それはどうだろうな…!はぁぁぁぁぁ…!(妖気を集中させる)」


蛇ノ目:「☆解っ!!」


珠里:「◾︎馬鹿な!」


亜輝:「いつまで余所見しているの!?」


珠里:「◾︎しまったっ!」


亜輝:「珠里を…返せぇぇぇぇぇぇえええ!!」


0:焔に股がり珠里に近付いた亜輝が、渾身の霊拳を浴びせる


珠里:「◾︎ぐっぁぁぁっ!!」


蛇ノ目:「☆…!雑魚どもが怯んだ!こちらは私が!」


珠里:「◾︎まだだ…!まだ儂は負けては…」


亜輝:「だからぁ…しつこぉい!!!」


0:続けて拳を見舞う亜輝


珠里:「◾︎ふぐぁぁっ!」


亜輝:「珠里は渡さないし、家も土地も渡さない!いい加減にしないと、本当に祓うよ!」


珠里:「◾︎(絶望に染った顔で)あぁぁぁ…」


亜輝:「あんたがいなくなって他の妖怪が暴れるなら、私がそれを全部片付ける!二度と妖怪がコチラに足を踏み入れないように、私がアンタの代わりとして総大将になる!」


蛇ノ目:「☆亜輝様…それはいくらなんでも!」


亜輝:「私が教えられたのは、悪い妖怪を祓うこと!でも…良い妖怪なら祓わない。それは珠里が教えてくれたんだ!」


珠里:「◾︎あ、あぁ……っ」


亜輝:「さぁ、どうする?」


珠里:「◾︎……人間の…人間の分際で、儂に楯突くのかァァァァァァァあぎゃだぁぁぁっ!!(言いながら殴られる)」


亜輝:「(割って入って殴り飛ばす)こんの、強突く張りじじいがぁぁぁ!!!」


蛇ノ目:「☆……きっとこの中の誰よりも最強でしょうな、亜輝様は…。味方でよかった…」


珠里:「◾︎(ヒューヒューとした呼吸をしながら)わ、わかった!降参だ!もうこの地に近寄らない!約束する!配下の妖怪達にもキツく言っておく!だから殴らないでくれぇ!」


亜輝:「ふぅん?どうやってそれを信じろって言うの?」


珠里:「◾︎わ、儂らに出来ることなら何でもやる!頼む!祓われては敵わん!頼む!!」


亜輝:「…今、何でもって言ったね?」


珠里:「◾︎二言は無い!!頼む!」


亜輝:「……よし、蛇ノ目!」


蛇ノ目:「(人に姿を変えて)はい、亜輝様」


亜輝:「今日からこの妖怪達は、蛇ノ目の子分ね!」


珠里:「◾︎な、何だと!?小娘貴様ぁ、言うに事欠いて妖怪総大将をこんな蛇の子分だとぉ!?」


亜輝:「(圧強めに)祓われたいの?」


珠里:「◾︎ひぃっっっ!」


亜輝:「分かったら言うこと聞こうね?おじーちゃん?」


珠里:「◾︎ぐぬぬぬぬっっ、祓われるよりマシか…」


亜輝:「あと、その身体ちゃんと珠里に返してね」


珠里:「◾︎こんな小物の身体、いつでも返してやるわ!」


亜輝:「(圧)口の利き方に気をつけなさい?」


蛇ノ目:「亜輝様の性格が変わってしまった……お爺様…やはり亜輝様は、貴方のお孫様だ…」


0:ぬらりひょんが身体から抜け、正気を取り戻す珠里


珠里:「…私は……」


亜輝:「おかえりなさい、珠里!」


蛇ノ目:「全く情けない、あんなにも簡単に意識を乗っ取られるとは」


珠里:「意識を…?一体何に…」


亜輝:「覚えてないの?」


珠里:「いや…何かが来たことは覚えているのだが……そこから先が全く…一体、何があったのだ?しかもやたらと頭が痛いのだが……」


亜輝:「あー…ちょっと、何回か殴った…」


珠里:「なんだと!?」


亜輝:「でもほら!生きてるじゃん?祓ってないじゃん!?だからさ!ね!?」


珠里:「ね!?じゃない!お前の拳は私程度の長生きしてるだけの妖怪、あっさり祓えるのだ!それを何度か殴ったぁ!?」


亜輝:「だって仕方ないじゃぁん!!」


珠里:「ふざけるなぁ!!」


蛇ノ目:「…やれやれ」


0:その後


亜輝:「ちょっとおじーちゃん!小鬼が悪さしたって聞いたよ!どーゆー躾してるの!?」


珠里:「◾︎は、はいぃ!!!キツく言い付けておきますぅ!!」


亜輝:「しっかりしてよね!それでも総大将なの!?」


珠里:「◾︎申し訳ございませぇん!!」


蛇ノ目:「M/その後、私の子分だったぬらりひょん一行は亜輝様に従う下僕に成り果て、各地で悪さを働く妖怪の教育係を任された。それでも素直に従う妖怪は少なく、こうして怒鳴りつけられる日々…私は心底身内で良かったと安堵する日々を送っている」


珠里:「全くデタラメな女だ…まさか総大将を下僕にするなんて…」


蛇ノ目:「亜輝様のお爺様も似たようなモノでしたよ、あれは、許すと言うより脅迫の域でした……本当にそっくりです」


珠里:「お前はそれでいいのか?」


蛇ノ目:「良いからここにいるのです。」


珠里:「…お前も物好きな奴だな」


蛇ノ目:「お前に言われたくない」


0:顔を合わせて笑う2人


亜輝:「珠里ー蛇ノ目ー!おじーちゃん連れて隣町行ってくるから、留守番頼んだよー!」


蛇ノ目:「お気をつけて、行ってらっしゃい」


珠里:「お前が帰らないと飯が遅くなるんだ!早く帰って来い!」


亜輝:「ハイハイ、行ってきまーす!」


珠里:「M/全く賑やかな娘だ。ちょっとつついて遊ぶつもりが…まさか家族になるとはな。まぁいい…どうせ人間の寿命は短いのだ。お前の命尽きるまで、見守ってやろうじゃないか…」


0:ぬらりひょんの耳を引っ張りながら歩く亜輝を見送り、珠里はにこやかに笑うのであった





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