第18話「水着選びのファッションショー」
俺たち二人は週末に、近くのショッピングモールで水着を選びに来た。
俺の水着は、男ものの水着の種類がそもそも少なかったのもあり、スムーズに選び終わった。
対して女性用の水着の種類は、男性用の水着と比べると……というか、比べるのもおこがましいくらいに多かった。
「……こんなに種類あるの?」
四方八方に広がる女物の水着の密林に、目が回りそうになる。
「これはオーソドックスなビキニですね。こっちはワンピース。ビキニはビキニでも、これはワンショルダー、こっちはオフショルダーで……」
なにそれ、魔法の呪文?
「……オフショルダーって、良いな」
「ふむ、せんぱいはこういうのが好きなんですね」
「まず名前がカッコいいよな!」
「見た目で選んでくれません?」
いかんいかん、内なる厨二病が……。
「灯はどれ着ても可愛いと思うし、カッコいい名前の方がテンション上がるかなぁって」
「……っ」
灯は顔を隠すように、ハンガーを持つ手を頭のところまで上げた。
あれ、照れてる?
……というか、もしかして俺は今、かなり恥ずかしいことを言っちゃったのでは?
思い返すと、自分の発言の大胆さに気づき顔が熱くなる。
「いや違っ!? 何を着ても似合うってのは俺の本心ではあるけど、別に灯を照れさせたくて言ったわけじゃ……」
「〜〜〜っ! 弁明に見せかけて追い打ちをかけないで下さいっ!」
灯はこちらを睨みつけるが、顔が恥ずかしそうに赤く染まっており、全く迫力はない。
灯は水着を何個か手に取ったかと思えば、そのまま試着室に直行して。
「……ほ、本当に何でも似合うのか、せんぱいの目で確かめて下さいっ!」
そう言い残して、ぴしゃりと試着室のカーテンを閉めた。
……灯としては意趣返しのつもりなのかもしれないけど、これは単に俺が得するだけでは?
しかし、それを指摘してしまうと余計に恥ずかしがってしまいそうだし、やっぱりやめたと言われて灯の水着ファッションショーが見られなくなる事態は避けたかったので、口には出さなかった。
大人しくカーテンが開くのを待っていると、カーテン越しから灯の声が聞こえてきた。
「……せんぱい、どうですか?」
カーテンが開け放たれる。
灯が着ていたのは、淡い水色のワンピースタイプの水着だった。
肌の露出が抑えられており清楚さを感じさせるが、随所にフリルがあしらわれており、可愛らしさも両立されていた。
「良いな。清楚さと可愛らしさが前面に出てて、似合ってる」
「ま、真面目に褒められると照れちゃいますね……。でも、嬉しいです。ありがとうございます」
灯は、にへらと口角を上げて、カーテンを閉めた。
「……ちょ、ちょっと大胆過ぎますかね?」
続いて、開かれたカーテンから黒いビキニをまとった灯が姿を現した。
あいにく女性の水着には詳しく無いので正しい名称は分からないが、それはビキニを想像した時に、真っ先に思い浮かぶような王道のデザインだった。
灯の陶器のような白い肌と黒いビキニの対比が、ただでさえ引き締まった身体をさらに際立たせている。
感情豊かで素直な、子供っぽい印象の灯に、大人っぽさを感じさせる黒いビキニは、なんとも言えないアンバランスな魅力があった。
白い肌と黒いビキニ、子供っぽさと大人っぽさ、それぞれの対比が相乗効果を生み出していた。
……しかしまぁ、肌の露出度が高くて目のやりどころに困る。
つまり端的に言うと。
「エロくて可愛い!」
「短っ!? というか、もっと他に言うこと無かったんですか!?」
「感情豊かで素直な子供っぽい印象の灯に、大人っぽさを感じさせる黒いビキニは、なんとも言えないアンバランスな魅力が……」
「長っ!? というか、流石にそのコメントはちょっと気持ち悪いかもです!」
「俺にどうしろと?」
「……ま、まぁそこまで悪い気はしないですけどね」
灯はフォローするように、そして満更でも無さそうにそう言い残して、カーテンを閉めた。
「えへ、せんぱいがさっき言ってたオフショルダーですっ」
続いて灯が着ていたのは、肩の部分が大きく開いたピンクのビキニだった。
肩が見えていてセクシーではあるが、対して胸の部分の露出は控えめで、セクシー過ぎない。
ピンクはピンクでも、淡い色合いで子供っぽい印象は抑えられつつも、可愛らしさが最大限引き出されていた。
「ピンクは女の子らしくて可愛いな。名前はカッコよかったのに」
「もうっ、名前からは離れて下さいよぅっ! ……でも、可愛いって言ってくれて嬉しいです」
満足げに言い残して、カーテンが閉められた。
「……んふふ、どうですか?」
灯は得意げに笑いながらカーテンを開いた。
「……おぉ」
思わず、見惚れてしまった。
灯が着ていたのは、白いビキニだった。
言わずもがな白を基調としているため、目を惹きつつも清純さを感じさせる。
さらに、レースの素材が肩から肘にかけてあしらわれており、二の腕部分が透けて強調されている。
艶かしくはあるが下品ではない、ちょうど良い透け感だった。
そして、ビキニのトップのフロント部分にはリボンが付いており、可愛らしさが際立っていた。
清純さ、艶かしさ、可愛らしさ。
あらゆる要素が絶妙な配分で成り立っており、この上なく魅力的に映った。
「……それ、めちゃくちゃ良いな」
あまりに良過ぎたせいか、言葉が感情に追いついておらず、とても簡素な感想になってしまった。
しかし灯は全く気にしていないかのように……否、むしろ一層嬉しそうにはにかみながら。
「えへへ、言葉を失うくらい気に入っちゃったんですねぇ?」
からかうような口調に、反射的に反論したくなったが、全くもってその通りだったので無言で頷いた。
「あはは。せんぱいってば、素直でかーわいいっ! それじゃあ、せんぱいの反応が一番良かったこれにしますね!」
灯は満面の笑みを浮かべて、弾むような声色で喜びを露わにした。
しかし、彼氏としては素直に喜べない。
こんなにも可愛い水着姿の灯を、他の男に見せたくないという気持ちが強まるのを感じた。
もちろん嬉しさや愛おしさが第一には来ながらも、複雑な思いは拭い切れなかった。
「……せんぱい?」
そんな感情の機微を察知したのか、灯は不安そうにこちらを覗き込んできた。
いやあの、心配してるのは分かるんだけどさ。そうやって下から覗き込まれるとですね。谷間が見えて、ちょっとヤバいよね、主にこちら側の理性が。
灯は首を傾げたと思いきや、俺の視線に気づいたのか一瞬驚いたように顔を赤くした後、イタズラっぽく笑って。
「あれれ? せんぱいってば、私の身体に興味津々ですかぁ?」
「……そうだよ、悪いか」
「す、ストレートに言われると照れますね……。というか、なんでちょっと拗ねてるんですか?」
「……別に、何でもねぇよ」
「拗ねてない、じゃなく何でもないって言ってる時点で、絶対何かありますよね?」
灯に隠し事はできないみたいだ。
「ほらほらせんぱい。笑わないしからかわないので、素直に言って下さいよ」
灯の穏やかな笑顔で答えを促され、簡単に折れてしまった。
「……灯の水着姿を他の男に見られるのが、ちょっと嫌だなって」
すると、灯は目をキラキラと輝かせて。
「えぇーっ!? 嫉妬してるんですか? あはは、せんぱいってば可愛いっ!」
「おいてめぇ、笑った上にからかってんじゃねぇか!?」
自分で言ったことを一瞬で忘れやがってこの鳥頭が。流石の俺も
「まぁまぁ、そんなにぷりぷりしないで」
「怒らせてる原因の張本人がそれ言う?」
「というかそもそも、せんぱいのその心配は杞憂ですから。……私には、せんぱいしか見えてないので」
「……っ」
好意から来るストレートな言葉に、思わず言葉を失う。
こんなにも嬉しい言葉をもらい、言葉のみならず危うく理性までも失うところだったが、太ももをつまむことでなんとか堪えた。
しかし、灯は上目遣いで追撃を加えてくる。
「そ、れ、に。もし私が言い寄られたとしても……前の時みたいに、せんぱいが守ってくれるでしょ?」
やばい、太もも引きちぎれそう。
「……んふふ、流石にこれ以上イジメるのは可哀想なので、この辺でやめときます。それでは、今から着替えるのでちょっと待ってて下さい」
危険を察知したのか、あるいは俺の反応に満足したのか、それだけを言い残して灯は試着室へと姿を消した。
「ちょっ、まっ……」
ええ……? 俺、このまま放置されるの……?
試着室から聞こえる布擦れの音のせいで、悶々とした気持ちが増幅されるが、ただ待つことしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます