第15話 辛く悲しい、鬼ごっこ

 次の日、、



 ドラゴニュート達は早々に住処へ帰ることとなった

 残した子供達や民を心配してのこと


 ドラゴニュート達がぽん吉に『一緒に帰りませんか』と

 お願いするも、ぽん吉は『まだ帰らない』と駄々を捏ねている


 ドラゴニュートも渋々了承し

 ドワーフ達に見送られ、住処へと帰って行った


 私は、この鉱山周辺に結界を張り、式神を残す事にした


 ドワーフ王が、旅に出ようとする私を、引き止め聞いてきた



 「クロ殿 これからどちらへ行かれるおつもりか」


 「まだ決めてないのだけれどね 海へ向かうつもりだよ」




 「海ですか、、ではコレをお持ち下さい」



 ドワーフ王は私に、細い金色の鎖で作られた腕輪を2つ見せた



 「おや 綺麗だね これはなんだい?」


 「これは この城に伝わるルーンの腕輪、効果はわかりませんが、クロ殿とぽん吉殿に貰って頂きたい」



 ドワーフ王は私達の首に、その腕輪を付けた

 ぽん吉が目を輝かせ喜んでいる



 「俺にもくれんの!? やったぜ!」



 「へぇ 鎖に何か細かく文字が彫られているね」


 「これが我々の知る最も長く彫られたルーン文字ですじゃ」 




 「これは貴重な物をありがとう では、いずれまた」



 私達は城を出て海へと向かった、振り返ると

 ドワーフ達が手を振り、大きな声で見送っている



 《クロもぽん吉も、首輪が毛に隠れて見えねぇな》 


 「オニ吉 お洒落は見えない所でするもんだぜい」


 「ふふっ それにしても軽いね 金ではなのかもね」



 2日後、川沿いを進んでいると、草原へ出た

 

 ぽん吉が走り出し、大の字で寝転んで笑っている



 「あっはははは! 気持ちいいな!」


 《お前は いつも楽しそうでいいな》


 「ふふっ そうだね」



 しばらくして、私達は、何かに気付いた


 辺りを見渡すと、遠くの方から何やら近づいてくる



 2本角の生えた亜人の少女が

 白い軍服を着た人間の青年に追いかけられている

 金髪に白い肌、胸に勲章を付けた、痩せ型の男


 少女が一生懸命走り、その後から悠々と歩く人間の男



 「おんやあ? 疲れちゃったのかい? もっと運動しないとダメだねえ ほらもっと走って走って 頑張れ頑張れぇ」


 「、、はぁはぁ、、誰か、、はぁはぁ、、助け、、」



 ぽん吉が走り出し、少女を後ろに、人間の前に立つ



 「おんやあ? たぬき? 獣が僕に歯向かうつもりなのかい? 、、、なんだいその目は」


 「よう人間 お前、聖騎士だな 何の星だ?」




 「おやおやおんやあ? たぬきが喋ったね 何の星かってえ? 言わないよ 言うわけないだろ? たぬきなんかに」


 「そうかい」



 ぽん吉は、少女の元へ駆け寄った



 「こっちだ! 立て!」


 「、、、たぬき、、さん?」




 「いいから立て!」



 ぽん吉は、少女を連れ、私の元へと走った



 「おんやまあ たぬきの次は猫かい? メルヘンだねえ その次はどんな獣が出て来るのか楽しみだよ」



 《ぽん吉! お前何してんだ!》


 「オニ吉すまねえ」


 「ふふっ 仕方ないねぇ」




 「おんやあ? この猫も喋るのかい いいねえ! 剥製にでもするかねえ!」



 軍服は剣を抜き、私達に向かって来た

 その素早さたるや、まさに風のごとく


 私はその刃を躱し、軍服を見つめる



 「おんや、、 猫 今、躱したね? 僕の剣を」


 「躱せない方がおかしかろうて」




 「気に入らないねえ 剥製はやめだ ぐちゃぐちゃにして捨ててやろう そうだ! 四肢を切り落として 置いていこう!」


 《この野郎、、 クロ、ちょっと代われ》



 私はオニに身体を預けた


 毛が逆立ち、目が赤く光る



 「おんやあ? 雰囲気が変わったね それで? イメチェンしてデビューかい? 失敗に終わるよ、それ」


 「『猫爪びょうそう政宗まさむね』」



 オニの姿が黒い霧となり

 物凄い速さで軍服を覆い、駆け巡る


 軍服はニヤニヤとしながら、オニを目で追う


 やがて黒い霧から刃が突き出し

 軍服の全身を深く斬り刻んだ


 軍服は血だらけになりながらも、何故か平気な様子だ


 傷が塞がっているようだ



 「おんやあ? もう終わりなのかい?」


 「今ので死なねえのは大したもんだが これからだ」


 軍服がオニを睨みつける


 「はあ?」



 軍服の塞がった傷口が開き


 徐々に、皮膚の色が変わってくる


 薄暗い肌の色、皮膚が腫れ、どくどくと黄色い液体を出す


 軍服は激しく嘔吐し、苦しんだ様子で、オニを睨む



 「お、おんやあ、、? な、なんだい、、? これは、、」


 「呪いだ」




 「呪い、、?  ははは、、僕に呪いなんて、、カッ、、」


 「てめえらの雑な魔法と一緒にすんなよ? その呪いは伝染する せいぜい国に持って帰って恨まれな」




 「舐めるなよ猫があ、、 『回復リカバリー』『解毒ディトクシフィケーション』『合成シンセシス』」



 軍服が呪文を唱えると、傷口が塞がり、血色の良い肌となった



 「ははは! どうだい! 猫! こんなもの僕には効かないんだ! さあ!次は僕がお前の四肢を切り落として、、ぐっ!、、 な、なんだ?」



 一度は回復したかに思えた軍服の、肌の色が暗くなる



 「な、なぜだ、、なぜ僕の魔法が効かない、、医療の加護を持つこの僕があ!! 一等星だぞ!! 英雄の子孫だぞ!!」


 「病気じゃねえ 呪いだって言ってんだろ」




 「くそがああ!! 『超位医療トランセンデント・ヘルスケア』!!」



 軍服の周りに複雑な魔法陣が、何重にも重なって光る


 その光が収まると、軍服の血色が良くなり、息を切らす



 「ほれ見ろ、、はぁ、、僕の魔法が、、効かないなんて、、あり得ない、、はぁ、はぁ、がっ、、」



 軍服はその場で気絶し、倒れて動かない



 「オニ吉やるなあ! 一等星をやるとはな!」


 「一等星? なんだそりゃ クロ、後は任せる」



 オニは私に身体を返した

 亜人の少女がキョトンして動かないでいる


 ぽん吉が少女へ話しかけた



 「おいお前! 大丈夫だったか?」

 

 「ハッ、、たぬきさん、、猫さん、、ありがとう」




 「いいってことよ!」


 《お前見てただけだろ》



 話を聞くと

 この先の山の頂上に村があり

 人間に森が切り崩され、結界が弱まった所


 先程の軍服が村にやって来たそうだ

 村が襲撃を受け、村人は惨殺

 少女は命からがら一人で逃げて来たという



 「村へ行こう! まだ生き残ってるやつが居るかもしれない!」


 《おいおい あんま首突っ込むなよ》




 「ふふっ 似た物同士だね」


 《おいどういう意味だそりゃ》



 私達は、少女の案内で村へ向かった、、、




 一方、、倒れた白い軍服の男、一等星


 一等星の顔に、小石が当たった

 男は倒れたまま、意識が戻る


 「ん、んん、、 おんやあ?、、『副天星』様が何故ここに、、?」 


 もう一人の、白い軍服を着崩した中年男性が、離れた場所で胡座(あぐら)をかき、タバコを吸いながら、気だるそうにしている


 金髪に白い肌、背が高く、体付きはがっしりとしている



 「気が付いたか? 起きれねえよなぁ それ、呪いだろ? 伝染するタイプの」


 「はは 呪いなんて 僕の加護で治して、、見せますよ、、」




 「いや呪いは治すとかじゃねえから 祓うもんだから」


 「おんやあ、、そうだった、のかい、、助けてくれるかい、、?」


 「嫌だよ〜 近づきたくねえも〜ん」




 「そ、そこをなんとか、、頼むよ、、」


 「仕方ねえな、わかったよ」


 中年は呪文を唱え、呪いを祓った

 一等星は立ち上がり、中年は会話を続ける


 「ふぅ お前さ、鬼退治に行ったんじゃなかったの? 帰りが遅いから来てみれば なにしてんの?」


 「鬼退治は終わったさ 一匹逃したけど これは、、猫にやられたのさ」




 「猫ぉ? お前仕事中に猫と遊んでたのか か〜、しょうがねえな」


 「遊んでなどいないっ!!」




 「冗談だよ そう怒んな とにかく、終わったんなら帰るぞ  『聖帝』陛下がお呼びだ」

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