好きな先輩と気になる後輩~上巳の節句~

あざみ忍

第1話 後輩のひなまつり

 今日は3月3日、ひな祭りである。最近では少子化が加速したことと、飾るスペースの確保が難しいという理由で、節句人形の市場は右肩下がりらしい。


「なぁ如月、おめぇさんはひな祭りって何かやるのか?」

「一応、雛人形は飾りますね」

「そんなひな祭りだが、上巳じょうしの節句って呼ばれてることを知ってるか?」

「何ですか、そのジョウシって?」

「上巳は3月初めのへびの日のこと。今は桃の季節だから、桃の節句の方が馴染みがあるよな」

「そういえば、私のお婆ちゃんが上巳の節句って呼んでいたような」

「諸説あるらしいが、古来の中国ではこの日に体を清め、災厄を祓う風習があったんだと。そんでこの風習が日本に伝わり、草木や紙で作られた人形に自身の災厄を移して、川に流すことでお祓いしたとか」

「じゃあその人形が?」

「雛人形の始まりってわけだ。どうだ、ちっとは勉強になっただろ」

「先輩って本当に賢いですね。尊敬しますよ」


 本当は朝のニュースの受け売りなんだが、まぁイイか。


「いずれにせよ、雛人形には厄払いの意味だけじゃなくて、良縁を願うためもあるんだけどな」

「それなら私、既に良縁に恵まれていますよ」


 そう言うと、如月はオレの方をじっと見つめてくる。まぁオレも同じく、縁には恵まれてるかもしれねぇな。


「そういえば、雛人形を片付け遅れると、婚期を逃すって知ってました?」

「ん、そうなのか?」

「一種の言い伝えですけどね。ちなみに先輩は結婚願望ってありますか?」

「……」


 結婚願望ねぇ。正直考えたこともねぇが、もしかしたらコイツとくっつくかもしれねぇわけだし。ちょいと妄想してみるか。

 子供はやっぱり2人欲しいよなぁ。家はもちろん一戸建てのマイホーム。仕事から帰ってくると、子供たちとカワイイ妻が出迎えてくれて。それで――


「先輩! 目を覚ましてください!」

「何だよ。せっかく楽しい結婚生活を思い浮かべていたのによ」

「いえ、思っていたよりも先輩が乗り気だったので、ちょっと引きました」

「引くな!」

「すみません。でも本当に、先輩が想像していたような家庭を持てればいいですね」


 これから先のことは誰にも分からねぇ。それでも今はコイツとの時間を過ごしたいと願うオレだった。

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好きな先輩と気になる後輩~上巳の節句~ あざみ忍 @azami_shinobu

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