【KAC20251】 3月3日、今日デビューです!

麻木香豆

🎎

 都内某所の事務所の一室。


 スマホとリングライトの前で、煌びやかな衣装を身に纏い、メイクもバッチリ決まった三人組の女の子たちがスタンバイしていた。


 その名も「ひなフェアリーズ」。

 3月3日デビュー、ひなまつりをテーマに結成されたアイドルだ。


 スタッフや事務所の社長、他の関係者たちが見守る中、デビュー配信に向けて準備が進んでいる。


 彼女たちはオーディションを勝ち抜き、数々のレッスンを重ねてきた。

 デビュー前にもイベントに参加したり、SNSを開設してこまめに更新してきた。


 サクラ、ミナミ、リコの三人。


「……正直言うと、こんなんじゃなかったんだけどさ」

 とサクラが顔を引き攣らせながら言った。

「サクラ、何言ってるのよ……このコンセプトにしたのも、みんなで頑張るためなんだから」

 とミナミが返す。

「今はこんな格好だけど……デビューしてもっと売れたら、きっと自分の好きなこともできるよ」

 と、リコも加わる。


「最初は……ダンスチームだったのに、みんな次々辞めちゃって、結局コンセプトが変わって……最終的に三人だから、三人官女? それで、三月にデビューって、ひな祭りコンセプトにしようって……これ、完全に当てつけじゃん!」

 サクラが言い放つと、スタジオ内は一気に緊張が走った。

 社長が目の前にいる。


「ちょっと、サクラ……今そんなこと言わないで」

「なによ、リコだって言ってたじゃん! こんなひらひらした服より、黒でビシッとしたアイドルが良かったって」

 サクラに指摘されたリコは社長を見ると、冷や汗が流れた。


「まぁ、そうだけどさぁ……でもまずはこれで頑張ろう!」

「いや、頑張ろうって……もう無理、私。ファンネームとかお内裏様ーっ! て無理! 完全に男のためのアイドルじゃん」

 さくらはスタジオを飛び出した。


「さくらっ……」

 ミナミは項垂れる。


 社長が残った2人の前に立つ。

「リコ、このコンセプトに不服を感じていたのか」

 低い声がスタジオに響く。スタッフたちも冷や汗だ。


「……そうです、不服です。しばらく安月給だったし。実は私、他の大手事務所から声かけられているんで! さようなら!」

 とリコも部屋から去っていく。社長はすごい剣幕で周りのスタッフが抑えないと手が出てたのだろう。

「今まで手塩にかけて……研修生なのに給料出したのにそれが安月給……」


 震えて泣き崩れる社長。

「社長……」

 ミナミは彼女を抱きしめた。

「女の子らしさとかなんだ! って打破したかった……なのにみんな辞めちゃうんだから……当社のコンセプトもダメになっちゃって……結局こうして売り出すしかなかったの……」


 社長も昔はアイドルだった。売れなかったから裏方に回ってようやく芸能事務所も作りテレビ局や企業とタッグを組みアイドルを作ることにしたのだが……。


「社長、私はついていきますから!」

 ミナミも正直こんなひらひらの服は着たくなかった。女らしさはなんだ、女ぽさを打破したい気持ちに共感したがやはり世間的にはそれが求められているんだとデビュー前からひしひしと感じてはいたミナミであった。


「さ、さあ……配信時間迫ってるよ!」

「え、こんな状態で?!」

社長は涙目で

「いろんな企業のスポンサーもついてるし……テレビ局との契約もあるの! ここでデビュー無くなりましたとかはやばいから! はやく! なんとかして頂戴!」

とミナミに懇願する。

「えええええー!? 1人で?!」






 

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