第2章 運動会編

第31話 一条さんと具志堅さん

【宮城翔】

 真と二人、靴箱で上履きに履き替えて、廊下を歩き始めると、階段の前の過ぎたとき、


 「前田、アンタさ、トロいんだよ!本当に!動きが!邪魔!どけ!」

 と、大きな声で怒鳴っているのが聞こえた。

 

 後ろを振り向くと、スカートを短く履いている女子が、転んでいる女子を蹴ろうとしていた。

 

 その瞬間、一人の女子が間にスパっと割って入り、腕をクロスして、その女子の足蹴りを受け止めていた。

 

 (具志堅さん?いや、おばぁだ。)

 朝から、憑依している?どうして?

 

 具志堅さんは、立ち上がって、

 「あんたよ。人をさ、蹴ったらだめさ。」

 

 「え、何。具志堅、文句あんの。」

 その女子が、具志堅さんのブレザーの襟を掴もうとすると、具志堅さんは空手の受けで、払いのけていた。

 そして、足払いをすると、その女子は転んでしまった。

 

 その女子は、すぐに、立ち上がると、

 「こいつ!」

 と、大声をだした。

 

 具志堅さんとその女子の間に、一人の女子が、さっと割り込んできた。

 

 周りの生徒が、

 「一条さんだ。」

 と、尊敬するような声を出していた。

 

 真も、

 「い、一条さん!」

 と、上ずった声を出して、

 「相変わらず、お美しい!眩しい!」

 と、まるでお姫様でも崇めるような声で、言っていた。

 

 え、そっちかよ。確かにすごく綺麗な人だけど。

 

 一条さんは、

 「徳田さんも、沙苗ちゃんも、もういいでしょ。」

 と、言った。

 

 具志堅さんは、徳田さんに絡まれていた女子に、

 「大丈夫ね。」

 と、声をかけていた。

 

 「大丈夫。ありがとう具志堅さん。」

 

 「良かったさ。」

 と、おばぁが憑依している具志堅さんは、怪我をしていないことを確認して、安心したような顔を浮かべていた。

 

 徳田さんは、具志堅さんをじっと睨みつけながら、無言で立ち去って行った。

 

 俺は、

 「具志堅さん、ちょっと。二人だけで話が。」と、呼びかけて、急いで二人だけで渡り廊下へ出た。

 

 俺は、渡り廊下で、

 「おばぁ、朝から憑依しているの?」

 

 「そうさ、もうすぐ運動会だからね。」

 

 「具志堅さんは、それでいいの。」

 

 「うん、麦ちゃん、運動会、楽しみにしているみたいです。それに、運動苦手な私が、初めて、運動会が楽しみになってきているんです。」

 

 「それなら、いいけど。」

 

 具志堅さんの体は一つなのに、まるで、おばぁと具志堅さんの二人と話しているような感じだ。

 はたから見ると、奇妙に映るだろう。

 憑依されるとこんな感じだっけ。もしかして、憑依のレベルが上がっている?

 

 すると、そこに一条さんという女子が来た。

 

 「沙苗ちゃん、大丈夫だった。」

 

 「全然、大丈夫さ。」

 

 (やばい、おばぁ)

 

 「沙苗ちゃん、2年生になって、元気がなくなって、心配していたけど、元気になったと思ったら、今は別人のような感じがするわ。」

 

 「そんなことないけどね。同じさ。ね、翔。」

 具志堅さんは、翔とは言わないよ。おばぁ。

 にしても、鋭いな一条さん。

 

 「翔君?苗字は。」

 

 「宮城。宮城翔というんだ。具志堅さんとは、同じクラスだよ。」

 

 「そうなんだ。ふうん。私は、一条桜というの。沙苗ちゃんのこと、よろしくね。宮城君。」

 一条さんは、珍しそうに俺をじっと見た。

 

 すると、

 「宮城君、そろそろ、クラスルームが始まるよ。桜ちゃんもいっしょに教室に行こう。」

 と、具志堅さんが言った。

 

 具志堅さんと一条さんは、どうやらかなり前から知っている仲らしい。


 「沙苗ちゃんが男子と一緒にいるなんて珍しいね。」


 「そうかな。」

 具志堅さんと一条さんは、小学生の時の話と最近のお互いの話をしながら、俺の前を歩いている。

 

 一条さんは、具志堅さんのことをかなり気にかけていたらしく、

 「そう、沙苗ちゃん、お母さんが病気だったのね。ごめんね、知らなくて。」

 

 「でも、お母さん、病気良くなったから大丈夫だよ。」

 

 「沙苗ちゃんは、元気な方がずっといいわね。」

 と話していた。

 

 1組のクラスの前で、

 「またね、沙苗ちゃん。」

 

 「うん、またね、桜ちゃん。」

 

 俺と具志堅さんは、ドアを開けて、教室に入った。

 真が、真剣な顔をしながら近づいてきた。

 教室中が、浮足立っていた。

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