第23話 霊への気持ち その2

【具志堅沙苗】

 「お父さん、まずは、麦子さんの話を聞きませんか?」

 とお父さんが言いました。

 

 「私も、聞きたい。」

 とお姉ちゃんも続けて言いました。

 

 麦ちゃんは、

 「話していいねぇ?」

 と、落ち着いた声で言うと、

 

 私の曾祖父ひいおじいさんである健一さんとお母さんに憑依していた美奈子さんとの間に起きたこと、そしてこの家が美奈子さんが自殺した場所に建っていることを話してくれました。

 

 お姉ちゃんが、

 「健一、人でなし。」

 と怒っていました。

 

 お父さんは、黙っていました。

 

 私は、また、涙が出てきました。

 

 宮城君は、呆れた様子でした。

 御祖父おじいちゃんは、鼻でフンとして、何を今更と言うように、腕組みをしていました。

 そして、麦ちゃんはなぜ美奈子さんがお母さんに憑依してしまったのかを話してくれました。

 

 御祖父おじいちゃんは、一言、

 「逆恨み、じゃないか。」

 

 そして、

 「まあいい、それで、貴子からその霊は除かれたのか?除霊ってやつは済んだのか?」

 麦ちゃんに向かって、聞いてきました。

 

 麦ちゃんは、何を言っているのと言う顔をして、

 「『除霊』って、霊を除くって話ね。それは、やっていないよ。」

 と、答えました。

 

 私と宮城君を除いて、お父さん、お姉ちゃん、御祖父おじいちゃんは「考えていたこと」と違ったのか、あっけにとられた顔をして、麦ちゃんを見ていました。

 

 麦ちゃんは、

 「私がやったのは、『除霊』じゃないよ。『霊』に『情け』を掛けるで『情霊じょうれい』さ。」

 

 お姉ちゃんは、興味が湧いたらしく、

 「『除霊』と『情霊じょうれい』は、何が違うんですか?」と、聞いてきました。

 

「除霊は、あくまで、霊を憑依している人から無理やり剥がすことだね。除くだけだからね。」

 

「『情霊じょうれい』は、霊がこの世のすべてに対する執着や恨みがなくなって、あの世にいくことだからね。」

 

「霊に情け、何を言っているんだ。死んでいるんだぞ。」

 御祖父おじいちゃんは、馬鹿にして、そして呆れた顔をして、麦ちゃんを睨みつけていました。

 

 そのとき、静かに、宮城君が

 「霊の声は、だれにも聞こえないんです。その苦しみ、悔しさ、悲しみもずっと無視されるんです。」

 「誰かが、その声を聴いて、その思いを分かってくれることだけでも、霊には、十分なんです。」

 「祖母は、それをやっているだけです。」

 

 宮城君は、確信を持った力強い目で、御祖父おじいちゃんを見ていました。

 御祖父おじいちゃんは、宮城君の視線から目をそらして、

 「『除霊』でも『情霊じょうれい』でも、どっちでもいい。霊がいなくなって、貴子が良くなれば。」

 「それで、その『情霊じょうれい』には、いくらお金を払えばいいんだ。」

 

 麦ちゃんは、

 「いらないよ。お金は。私、給料もらっているしね。自分の会社から。」

 

 お姉ちゃんが、

 「麦ちゃんって、会社経営しているの。社長なの?」と、聞くと、

 

「そうだよ。泡盛の酒造会社を持っているさ。私が持ってきた泡盛、私の会社の泡盛さ。」

 と答えました。

 

「かっこいい。」

 また、お姉ちゃんの麦ちゃんへの評価が上がったようです。

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