第20話 情霊(じょうれい) その5

【具志堅沙苗】


 思わず私は、

「私に、何かできることはありませんか?」

 と、美那子さんに尋ねました。

「ありがとう。でも、特にはないのよ。」

 

 すると、麦ちゃんが、

「良かったら、駐車場の下にある遺体を掘り起こしてもらったら。」

 と言いました。


 美那子さんは、

「そんなこと頼めない。」

 と申し訳なさそうに答えた。

 

 私は、

「駐車場の下に、美那子さんの遺体があるんですか。」

 と聞きました。


「そうなの。」


「分かりました、お父さんと相談をして掘り出して、美那子さんの遺体を火葬します。絶対に。」

 私は、なぜだかよくわからないけど、そうするべきだと思いました。

 

「できれば、駐車場じゃなくて、花壇にして花を植えて欲しいな。私は、花が大好きだったの。」


「分かりました、花を育てます。」

 私は、答えました。

 

 麦ちゃんが続けました。

「遺体を火葬したら、永代供養してもらうのがいいと思うよ。」

 

 美那子さんは、

「そこまでは、頼めません。」

 と言いました。

 

 私は、永代供養が何か、分かりませんでした。

 でも、

「永代供養、やります。やらせてください。」

 と思わず言ってしまいました。


 麦ちゃんは、うなずきながら手を優しく握り返してくれました。

 そして、私の右手を握っていた左手を離して、スマホを取って宮城君に電話を掛けました。

 

「翔、伝えたいことは二つだよ。」

「まずは、保さんに、貴子さんのお父さんに来るように伝えてね。」

 

 スマホから宮城君の声が聞こえました。

「分かった。おばぁ。後、沢庵あったよ。」

 

「そうね。良かったさ。」

「そしたら、白米、沢庵と冷たい水を持ってきてね。」

 

「うん。」

 

「この二つさ、よろしくね。」

 と言って、麦ちゃんは、スマホを切りました。

 

 麦ちゃんが、私の左手を離してから、私には、美那子さんの姿が、またうっすらとしか見えなくなっていました。

 麦ちゃんの手を握っているときは、まるで、生きている人を見るように見えていたのですが。

 

 ドアをノックする音が聞こえました。

 ドアを開けると、そこには、宮城君がトレイに、白米、沢庵、そして、水を持って立っていました。

 

「ありがとうございます。」

 と言って、このトレイを受け取りました。

 

 麦ちゃんが、

「翔、ありがとうね。」

「沙苗ちゃん、テーブルの上に置いて。」

 

「はい。」

 私は、トレイをテーブルの上に置きました。

 気が付くと、宮城君は、静かにドアを閉めて一階に降りていきました。

 

 宮城君は、このような状況にとても慣れているようでした。

 

 麦ちゃんが、左手を伸ばしてきたので、その手を私は握りました。

 また、美那子さんの姿が見えてきました。

 私には、美那子さんが、ベッドの背に、もたれかかって座って、冷水を飲んでいる姿が見えました。


 美那子がものを掴むと、そのものが何か、半透明なものに変わって、美那子さんが掴めるようになることが、分かりました。

 

 美那子さんは、嬉しそうに、

「お水っておいしいね。ありがとう。」

 と言って、白米と沢庵も、食べていきました。

 

 麦ちゃんが、 

「ゆっくり食べていいよ。」

 と言いました。

 

 それから、30分ぐらいかけて、美那子さんは、食事をしました。


 実際には、水、白米、沢庵はまったく減っていません。

 まるで、食べても食べても、減ることのない魔法の食べ物に見えます。

 

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