第18話 情霊(じょうれい) その3

【宮城麦子】


 私は、美那子さんに聞いた。

「お腹すいていないね?」

 

「そうね。久しぶりに何か食べたいな。白米と漬物、沢庵があると特にいいけど。」


「分かったさ。ちょっと待ってね。」

 私はさ、スマホで翔に電話したさ。

 

「翔、良く聞いてね。伝えたいことは二つあるよ。」

 

「分かったよ、おばぁ」


「まず、沙苗ちゃんにすぐに来るように伝えてね。椅子も忘れずにね。」

 

「具志堅さんが座るための椅子を持って、貴子さんの部屋に来るように言えばいいんだね。そして…」

 

 翔は、頭のいい子だね。

 今が、慎重に事を進めなくてはいけない時だということを、良く分かっているさ。

 

「私がさ、また連絡するから、ご飯と漬物、できれば沢庵。そして、氷を入れた水を用意しておいて。」

 

「ご飯と漬物、できれば沢庵、そして氷を入れた水だね。」


 翔は、復唱をして確認を入れたね。

 今が大切な時だということをよく理解しているさ。

 ありがたいね。

 

「私がさ、『持ってきて』と言ったら、翔が持ってくるんだよ。」

 

「分かった。俺が持ってくるよ。」

 と、翔は確認をするようにしっかりと答えてくれたさ。


 ◇◇◇◇

 【宮城翔】


 おばぁが貴子さんの部屋で二人きりになってから、すでに一時間ぐらい経っていた。

 その間、俺は、真苗さんから、沖縄やおばぁについて色々聞かれていた。

 おばぁから、連絡が来たのは、ある程度話が終わったときだった。

 

 俺は、具志堅さんに、

 「具志堅さん、座るための椅子を持って、おばぁがお母さんの部屋に来てって。」

 と伝えた。

 

 具志堅さんは驚いた表情をしていたが、 

 「お母さんの部屋に。」

 と保さんと真苗さんを見て、力強く言った。

 

 俺は、保さんと真苗さんに、

 「白米と漬物、できれば沢庵はありますか?」

 と尋ねた。

 

「沢庵は、冷蔵庫にあるはずだよ。」

 と、真苗さんが答えた。

 

 具志堅さんは、静かに階段を上って行った。

 

               ◇◇◇◇

 【具志堅早苗】


 私は、階段を上って、お母さんの部屋の前に立ちました。

 その部屋からは、今までのような熱気のようなものが感じられなくなっていました。

 ドアノブを回して、ドアを開けて椅子を持って部屋に入りました。 

 

 麦ちゃんは、椅子に座って、ベッドに横たわっているお母さんの右手を、両手で握っていました。

 

 お母さんの顔は、白いピンク色になっていました。

 いつも、赤く火照った顔色ではありませんでした。

 また、息遣いも落ち着いていて寝ているようでした。

 

 こんな様子のお母さんをみるのは、久しぶりです。

涙が出てきそうになりました。

(よかった)

 

 麦ちゃんが、

 「椅子を私の傍に置いて、座って。」

 と、言いました。

 

 私は、椅子を麦ちゃんの左側に置いて座りました。

 座ると、麦ちゃんが

 「私の左手を握ってごらん。」

 と、言いました。

 

 私は、言われたとおりに、麦ちゃんの左手を握りました。

 

 麦ちゃんの左手は、火傷をしていました。

 

 お母さんの体から、少しだけ左上にずれたところで横たわっている女の人の姿が、はっきりと見えました。

 

 怖くなって、思わず手を放そうとしましたが

 「大丈夫だよ。」

 と言って、麦ちゃんが穏やかに私の目をみて、そして優しく手を握り直してきました。

 

「霊が見えるよね。」

 

「はい。」

 

「こちらは、大田美那子さん。」

 

 麦ちゃんは、まるで、友人でも紹介するように霊を紹介してくれました。

 

 その霊は、白いシャツと紺色のスカートを着た二十代前半ぐらいの女性でした。

 家に帰って来た時に、お母さんの部屋の窓に立っていた女性です。

 痩せていましたが、とても穏やかな感じの女性でした。

 

 麦ちゃんは、その女性に起こった出来事を話してくれました。

 私は、その女性の悔しさが体にしみこんできて、涙が止まらなくなりました。

 

 思わず、

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

 と、美那子さんに謝りました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る