第9話 麦ちゃん、爆食! 肉

 「翔、レストランは、何階ね。」

 

 「おばぁは、何が食べたいの?」


 「最初は、肉食べたいね。」

 

(最初は?)


 宮城君は、スマホで検索すると、

 「おばぁ、4階にクイーンホストがあるよ。」


 「あるのね、上等さ。沙苗ちゃんもいこうね。」


 「ありがとうございます。宮城君のおばあさん。」

 と、私が言うと、

 「麦ちゃんでいいよ。麦ちゃんで。私もさ、沙苗ちゃんと呼びからさ。」

 と、言われました。

 

 「はい、分かりました。」

 私は、人見知りをする方なのですが、

 麦ちゃんには、昔から知っているような親しみを感じていました。


 4階まで、エレベーターで上がっていきました。

 また、エレベーターの中で、何かの人が麦ちゃんを見ていました。

 

 4階のクイーンホストに着くと、麦ちゃんは店先の食品サンプルを見ながら、

 「ワンポンドステーキ定食がいいね。翔は何がいいの。」

 

 「俺は、300gでいいかな。」

 

 「沙苗ちゃんは、何がいい、遠慮はしないよ。いっぱい食べてよ。」

 

 「マカロニグラタン定食でお願いします。」

 と、答えました。


 店には、少し列ができていて、私たちは店先にある椅子に座って順番を待っていました。

 「麦ちゃん、今日は東京まで来てくれて、本当にありがとうございます。」

 と、また、お礼をいいました。

 

 「こっちが、お礼言いたいさ。翔助けてくれてありがとう。」


 宮城君も、

 「具志堅さん、ありがとう。」

 と、言いました。

 そのとき、店の人が来て席に案内されました。


 宮城君がタッチパネルを操作しながら、

 「おばぁは、『ワンポンドステーキ定食』で、ご飯は大盛りだよね。」

 

 「そ、大盛りさ。」

 麦ちゃんは、良く食べるようです。

 

 「具志堅さんは、マカロニグラタン定食を注文するね。」


 「お願いします。」

 と、答えました。

 

 麦ちゃんが、宮城君に聞きました。

 「翔は、あのワラバーたちわるがきから、もう、虐めはないでしょう。」


 「もうないよ。まったくないよ。おばぁ、具志堅さんの蹴りが効いたんじゃない。」

 

宮城君は、私を少し揶揄うからかうように、私の目を見て、言いました

 私は、照れてしまって、飲みかけの水を少しこぼしそうになりました。

 

 「でも、蹴ったのが具志堅さんって、あいつ等、分かってるのかな。仕返しとか、大丈夫かな。」


 「大丈夫だと思います。クラスでも、普段から、私には、まったく話しかけないし、あの後も、蹴ったのが私だと気づいていないと思います。」

 

 「心配ないさ。仕返しに来たら、また、私が、沙苗ちゃんの体に憑依して、思いっきり蹴飛ばすさ。入院しない程度に。」

 麦ちゃんは、いたずらっ子ように、笑いながら話します。


 「おばぁがいうと、マジで冗談にならないからな。」

 宮城君が、呆れたように笑いながら言います。

 

 「おばぁ、前から憑依とか、できたの?」


 「やったことは、なかったね。今回が初めてだね。」

 「ただ、今まで、生き霊が憑依しているのも、いっぱい見ているから、私もできるかなと思ったさ。」


 「前もそんなこと言っていたな。確かに、死んだ人の霊だけじゃなくて、生霊も憑依することもあるって。」

 

 「そうさ。」

 

 「じゃ、おばぁは、誰にでも、憑依できるの?」

 

 「それはないと思うね。特別な条件がいると思うよ。」

 「なんとなくね。理由は、分かるけど。はっきりと、分からんさ。」

 

 「おばぁは、良く分からないことが多いけど、なんかやってしまうんだよな。」

 

 思わず、私も聞きたくなりました。

 「それでは、なぜ、麦ちゃんは私に憑依できたと思います?」

 

 「まずは、祖先が同じだね。」

 

 「祖先が同じ?」


 「霊的にもかなり近いね。相性がいいね。」

 「後、これが大きいさ。沙苗ちゃんが、『お母さんを助けたい。』ってずっと願っていたでしょ。その声は、しょっちゅう、聞こえてきていたわけさ。」

 「私もさ、翔のことをずっと心配していたわけ。すると、急に3人の男の子が、翔を虐めている姿が見えたわけさ。沙苗ちゃんの目を通して。」

 「そこでさ、どうにかしなくてはいけないと思って、『体借りるよ、沙苗ちゃん、お母さんは麦ちゃんに、任せなさい。』って、言って、憑依したわけ。」

 「なぜか、憑依ができたわけさ。おもしろいねぇ。」

 

 麦ちゃん、楽しそうに話していました。

 宮城君も私も、あっけにとられていました。

 

 注文した料理が来ました。

 最初に来たのは、宮城君と麦ちゃんが注文をしたステーキ定食でした。

 私は、 

 「先に食べていいですよ。」

 と言ったのですが、2人は待ってくれました。

 

 私が、注文した「マカロニグラタン定食」が来ると、

 麦ちゃんは、手を合わせて

 「いただきます。」

 と、言ってから、まずは、カップスープを飲みました。

 「おいしいね。」


 私は、「ワンポンドステーキ」を初めてみました。宮城君が注文した300gのステーキも大きかったのですが、それよりも厚さも大きさも一回り大きかったです。

 

 麦ちゃんは、肉を右端から、丁寧に切って、ゆっくりと口に運んでいました。

 上品に食べていました。

 宮城君は、よっぽどお腹が空いていたのか、肉とご飯を交互に、口いっぱいに頬張って食べていました。まるで、リスのようです。

 

 もう一度、麦ちゃんを見ると、すでに半分ぐらいは、食べ終わっていました。

 私は、まだ、六分の一も食べ終わっていません。

 なぜこんなに差がついてしまったのか良く分かりません。

 

 分かったのは、ご飯を食べる前までは、ずっと話していたのに、ご飯が来てからは全く話さないことです。

 それでも、食べるスピードが速すぎます。

 あっという間に、麦ちゃんは、「ワンポンドステーキ定食」を食べ終わっていました。


 「翔、私さ、とんかつ定食注文するけど、翔は、どうする?」


 「俺は、ここでは、いいよ。」


 (ここでは)

 

 今度は、麦ちゃんは自分で、タッチパネルを操作して、注文をしました。

 しばらくして、麦ちゃんが注文をしたとんかつ定食がきました。また、ご飯は大盛りのようです。

 

 今度は、私は、麦ちゃんの食べる様子を観察することにしました。

 なぜ、こんなに食べるのが早いのか、興味があったからです。

 

 麦ちゃんは、まずは一口の量が多いことが分かりました。

 但し、頬張るほどではありません。

 そして、口を閉じて噛んでいるのですが、良く見ると噛んでいるスピードが、小刻みで明らかに早いのです。

 また、食べている間は、一言も話しません。集中して、食べています。

 

 私は、食べるのが遅れて、二人の迷惑にならないように、急いで食べようとすると、 

 宮城君が、

 「具志堅さんは、ゆっくり食べていいよ。俺も、おばぁも食べるのが早いことわかっているから。」

 と、気遣ってくれました。

 

 麦ちゃんも、

 「そうさ、自分のペースで食べるといいさ。」

 と言ってくれました。

 「はい。」

 でも、私はスピードを上げて食べることにしました。

 

 麦ちゃんと宮城君は、私より少しだけ早めに食べ終わって話をしていました。 

 もしかすると、私の食べるペースに途中から、合わせていたのかもしれません。

 麦ちゃんが、食事の料金を払ってくれました。

 

 「麦ちゃん、ありがとうございます。」

 とお礼を言いました。

 

 「おいしかったね。」

 

 「おいしかったです。」

 

 「良かったさ。」

 

 「翔、肉ばっかり食べたから、魚も食べたいね。寿司屋ないの?」


 「おばぁ、もう調べてあるよ。『寿司このみ』って、店があるみたいだよ。」


 「じゃ、行こう、はい。楽しみさ。」

 麦ちゃんは、すぐにでも、寿司屋に行きたいようです。

 

(まだ、食べるのかな)


 私は、もうお腹いっぱいです。

 私は、少し心配しながら、麦ちゃんと宮城君について行きました。

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