その13

 放課後。

 鵬市は野球部の部室にいた。最終の授業が終わったところで教室になだれ込んできたふたりの三年生に拉致連行されたのだった。

 部室にいるのは十人ほどの三年生であり、その中央でどこからか持ち込んだソファーで横になっているのはもちろん獄怒宮恐助である。ちなみに二年生以下の現役部員たちは全員がグランドで教職員の草野球チームとの練習試合に出ている。

「勝てる?」

 ささやきかける鵬市に怨霊が答える。

 *無理だな。他の三年生は問題ないが、そいつらを黙らせたところで恐助を逆上させるだけだ。被害を抑えるには従うしかない*

「ウチの弟が世話になったなあ。今日は体育の暴田に説教したらしいじゃねえか」

 恐助は「よっと」上体を起こし、鵬市を取り囲む三年生を見渡すと――。

「やれ」

 その号令ひとつで屈強な三年生たちに財布を没収された鵬市は瞬く間に全裸にされ、全身に油性マジックで落書きをされた。

 その様子を見ながら恐助はソファーでタバコを吹かす。

「一年生ってのはな、上級生の顔色見て隅っこで小さくなってる立場なわけよ。そんな立場の一年坊が好き放題やってるのをほっとくわけにはいかねえだろ、な? 俺たち上級生を舐めてるってことだからよ」

 そこへ――

「なにやってんの?」

 ――入ってきたのは“恐助の本妻”とも言うべき三年生の凶浜狂美。

「世の中舐めてる糞生意気なアホを〆てるだけだ」

「ふうん」

 狂美は呆れた表情で長い髪を束ねるとスカートを降ろし、ブラウスのボタンを外していく。その様子にこれから行われることを理解している三年生たちがぞろぞろと部室を出ていく。

 恐助が鵬市を見る。

「おめーもジャマだ。帰れ」

 鵬市が床に散乱している衣服を拾おうとするより先に恐助が拾い上げ、開いた窓から投げ捨てた。

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