その6
説明会に参加していたのは担任と生徒会代表として生徒会長の恐助、そして、鵬市の三人だけだった。
担任から一通りの説明が終わった時、坊主頭の下で異様な光を放つ大きな目で威圧するように鵬市を見ている恐助が口を開く。
「好きなプロ野球チームは?」
なぜ野球?――戸惑いながら鵬市が答える。
「ありません。興味がないもので」
その言葉に、恐助は大げさに驚いた表情を向ける。
「は? 興味ない? 野球に? オマエって男だよな?」
そして、嘲笑を浮かべて首を傾げる。
「変なやつだなあ。男のくせに野球に興味ないとか。変わってるって言われるだろ?」
となりの担任が苦笑しながら話を変える。
「家族構成はお父さんとふたりなんだな。お父さんの仕事はなにかな」
“男のくせに”の次は“父親の仕事”――ふたりから発せられた言葉に、この島が昭和の価値観で止まっている世界であることを理解した鵬市は気を取り直して答える。
「映像クリエーターです」
担任と恐助が見合わせる顔が互いに“なんだそりゃ”と言っている。
知らないのも無理はないと鵬市はスマホに父の映像作品を表示させて恐助に見せる。
「こういう映像を撮影してて……」
横から覗き込んだ担任が苦笑する。
「こんな写真撮るだけで飯が食えるのか」
さらに恐助が。
「エロ写真とかねえのかよ」
「ありません。父は風景専門なので」
「け、くっだらねえな」
にやにやと下卑た笑いを浮かべながら恐助が続ける。
「これいいな、スマホって言うんだろ。貸してくれよ」
この時の鵬市は知らなかったが、この島ではスマホや携帯電話を持っているのは一部の大人だけだった。
「え? いや……」
「いいだろ。くれって言ってるわけじゃねえんだ」
鵬市の手からひったくられたスマホは、担任が苦笑する前で恐助のポケットに消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。