アルバム・ツーリスト
ちびまるフォイ
原点回帰
「店長、これは?」
「フルダイブアルバムだよ。
もうみんなスマホで写真取るから売れなくてね。
ほしかったらくれてやるよ」
「え、いいんですか?」
本屋の仕事を追えてアルバムを自宅に持って帰った。
「ただいま」
「おかえり。ちょっと話しが……。
ってそのアルバムはなに?」
「店長からもらっていいって。
最近は写真を現像することもないし
ちょっとおもしろいかなと思って。で、さっきの話しって?」
「ううん、やっぱりもう少し後でいい」
「そっか」
アルバムを開いた。まだなんの写真も無い。
「去年いったハワイの写真でも入れてみるか」
家の写真たてに入っていたハワイの海の写真。
それをアルバムに入れた瞬間。
からだがぐんぐんと細くなり、写真に飲み込まれた。
次に目を覚ますと、ハワイの海にいた。
「こ……ここは……? 写真の……場所?」
見覚えのある海。
波の音が聞こえる。
「本当にハワイじゃないか! すごい!
これがフルダイブ・アルバムなんだ!!」
"あなた、戻ってこられる?"
「その声は……」
"今、あなたは写真の中にいるみたい。どうすれば戻れるの?"
「俺もわからない。どうすれ……わっ!?」
写真に映っていないエリアに入ろうとした瞬間。
体がぎゅんと引っ張られアルバムの外に引きずり出された。
「だ、大丈夫!?」
「びっくりした……。海の中に入ろうとしたら戻されたよ」
「写真に映ってないものね」
「それよりきいてくれよ。本当に写真に入れた。
これは素晴らしいぞ! 旅行し放題だ!」
「それならもっと写真をアルバムにいれましょうよ」
「もちろん!!」
アルバムの使い方がわかるや写真のプリントアウトに忙しくなった。
写真の中に入る性質上、自分が映っているものは避ける。
風景や観光スポットの写真をアルバムのページに用意する。
「ねえこんなのどうかしら。旅館の写真」
「温泉旅行にもいけそうだ!」
いろいろ試したところ、
アルバムの1ページ内の写真は相互に移動できる。
同じページ内に観光地と、旅館の写真が共存していれば
観光を楽しんでから旅館に入ることができる。
「できた! 最高の温泉旅行アルバムだ!」
「さっそく行ってみましょうよ!」
「うん、アルバム旅行のはじまりだ!!」
アルバムのページを開くと体が吸い込まれる。
次に到着したのは世界の百景に数えられる名所。
「見て、本当に素敵な景色ね!!」
「あ、ああ! そうだな!!」
「……どうしたの? なんだか感動うすそう」
「いや確かにすごいんだけど……。
ほら、事前に写真見ちゃってるから……」
「どういうこと?」
「アルバムに写真を用意するために、
事前に写真をこれでもかと確認したから
写真の中に入っても感動はないというか……」
「まあ写真以上の情報はないものね」
「……」
写真旅行はたしかに充実していた。
けれど驚きは実際の旅行ほどなかった。
写真の範囲外に出てアルバムの外へ帰還する。
「良いと思ったんだけどなぁ……写真旅行……」
「ねえ、こういうのはどうかしら。
お互いにアルバムの写真を別で用意するの。
そして、お互いに知らない写真を見せ合うのよ」
「なるほど! サプライズ旅行か! 面白そう!」
「ちょうど私も見せたい写真があったし」
「そうなんだ。それはどんな旅行先なの?」
「秘密」
お互いに見せない形式の写真回収がはじまった。
アルバムには別に自分が撮影する写真でなくてもOK。
ネットで見つけた画像をプリントアウトしても行ける。
となれば、旅行先はいくらでも広がる。
「きっと驚くような写真を用意しているだろうな。
負けないくらいサプライズかましてやるぞ」
有名な世界の観光スポットか。
いっそ砂漠でもチョイスしてみようか。
いやいや、まだ驚きが足りない。
宇宙旅行なんかも面白そうだ。
どうせ写真なんだからどこにでも行けるだろう。
相手の意表をつく写真のチョイスはいくらでもあった。
でも「本当に行きたいか?」となれば微妙。
結局、あまり予約が取れない観光地の写真を
たくさん集めてアルバムのページを埋めた。
「やっぱり、本当に行きたい場所がいいな」
しばらくしてお互いの準備が整う。
「それじゃお互いに写真を見せ合いましょう」
「だな」
「まずは俺から……」
「待って。まず先に私からでいい?」
「いいけど、そんなに自信が?」
「間違いなく驚くし、きっと喜ぶと思うわ」
「そんなに……! どこだろう……!?
前から行きたいと思っていたピラミッドかな?」
「いいえ、そんなんじゃないわ」
「緊張してきた……! アルバム開いて良い?」
「ええいいわ」
アルバムを開いた。
いくつもの写真を貼り付けている自分とは対照的。
開いたページは何も写真がなかった。
「え? なにもないじゃないか」
「実は……しばらく旅行はしないほうがいいかと思って」
「どういうこと?」
「これよ」
アルバムとは別に1枚の写真を差し出した。
その写真はエコー写真。
「これって……」
「そう。赤ちゃんよ。サプライズしたくて」
「本当かい!! ああ、よかった! ありがとう!!」
前に話があると言っていたのもきっとこれなのだろう。
愛する妻を抱きしめた。
その手から写真がこぼれる。
写真はひらひらと空中を散歩してから、
そっと開きっぱなしのアルバムの1ページに着地した。
「「 あっ 」」
それを見たとき、体がぎゅんと写真の中に引っ張られる。
次の旅行先は想像したくなかった。
アルバム・ツーリスト ちびまるフォイ @firestorage
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