第2話 甘い夢、薔薇の香り


学園の中庭を散歩していた。


「そうだ、セドリック様との約束が…。あれ、今日はもう…。」


月に2回、セドリック様と放課後にお茶を飲む約束をしている。


今日がその日だ。


きっとセドリック様が待っている。遅刻したら大変だ。

そう思い、急いで約束のカフェスペースへ急いでいると、セドリック様の後ろ姿が見えた。


「セドリック様?こんなところで、どうかされたのですか?」


声をかけると、セドリック様は私に気づいたようだった。


「ジョーゼット。」


セドリック様は振り向いて、微笑み、私の名前を呼んだ。

すると、後ろから学園の庭師のお爺さんが、セドリック様に一本のピンク色の薔薇を手渡した。


「坊ちゃん。もしかすると、薔薇をプレゼントたい相手というのは、そこのお嬢さんですか?」


お爺さんがそう言うと、セドリック様は恥ずかしそうな顔をした。


「ええ。その通りですが…。まいったな。もう少し格好良く渡そうと思っていたんだが。」


セドリック様はお爺さんから薔薇を受け取って、私の左の編み込みに薔薇を挿してくれた。


「ジョゼ。とても可愛らしい薔薇だったから、君にプレゼントしようと思ったんだ。それに、香りも美しい。まるで君みたいだ。」


そう言うと、セドリック様は私の髪に優しく触れた。


「似合ってる。」


私は嬉しいけれど、恥ずかしくって、頬が熱くなるのを感じた。

セドリック様の後ろで、庭師のお爺さんが「春ですなぁ」と言って笑っていた。


「どう?気に入ってくれた?」


「ええ、とても。」


セドリック様って、こんなに優しかったかしら?

それに、私のために薔薇をプレゼントしてくれるような方だったかしら?


手紙のセドリック様なら、こんな風に私に優しくしてくださるかもしれないけれど。

やっぱり、あの手紙は代筆なんかじゃなくて、セドリック様がご自身でお書きになっていたのだわ。


そうよ。きっとそう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


ベットに、暖かい春の光が差し込んでいた。

窓の外では小鳥が鳴いていて、木々が揺れていて・・・。

枕の隣に、昨日借りた本と、セドリック様の手紙があった。


「なんて夢を見てしまったのかしら。悪夢と言ってもいいわ。」


夢のセドリック様は、確かに私の理想のセドリック様なのかもしれないけれど、思いだすと少し気分が悪くなった。


「薔薇の花びらを乾燥させたら良いってところまでは、昨日読んだのよね。とりあえず、薔薇をいくつか頂かないと…。」


私は背伸びをして、制服に着替えた。

今日のお昼休みにでも、学園の庭師を探してみよう。


なんだかちょっとした実験を始めるような気分で、ワクワクしてきた。

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諦めて結婚しましたが、愛想が尽きたので辞めさせていただきます〜目指せ独立婦人 砂糖ぽんず @suzukiethuko

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