sixth

学園祭 1

大会もひと段落し、本格的に暑くなってきた6月の中旬。


…ついにやってきました、学園祭!!


私たちの高校では3日間をかけて開かれる一大イベント。


1日目は前日祭と体育祭、2日目と3日目の午前で文化祭、午後からは後夜祭が開催される。


中学の時に兄の学園祭に行って、すごく楽しかったのを今でも覚えている。


おかげで楽しみすぎてあんまり寝られなかった。




今日はそんな待ちに待った学園祭1日目。

全校が体育館に集められ、前日祭が始まった。



「高橋先生のモノマネ3連発いきまーす!」


「今日も良い天気ですねみなさん♪おはようでやんすぅ♫♪」


「校長先生にはとりあえずごますっとけ♪」


「教頭先生のダジャレって…パワハラだよね♬」



完全な内輪ウケのネタだが、先輩たちは私たち1年生にもわかるように漫才してくれる。


左隣に座っている楓は…思った通り大爆笑。


雪ちゃんは…


いつも何事にも動じない彼女は、この結構レベルの高いモノマネで笑うのか…?


ちらっと右の方を見てみると、お腹を押さえてうずくまっている雪ちゃんがいた。



『雪ちゃん、どうしたの?大丈夫??』


『う、ん…。っごめん、全然…大丈夫…』


『ほんとに大丈夫?』



次の瞬間、雪ちゃんの顔を見て私と楓は驚いた。


……めっちゃ笑ってる。


いつも完璧でカッコいいイメージの雪ちゃん

だからか。


雪ちゃんの笑っている時の顔があまりにも可愛くて、周りの人たちは一瞬で胸キュンしてしまったみたい。



一通り、いろんな団体が発表したみたいだ。



「次はクイズ大会になります。各クラスから代表を男女2名ずつ選んでください。」



学園祭実行委員会からだ。


事前に選ばれていた楓と渡辺さん、男子の荒崎くんと五十嵐くんの4人がクラスの代表としてステージに上がった。



『1-1強くね??』


「荒崎と五十嵐いるし!」


『渡辺さんって、帰国子女の子じゃん。』


「一条楓はやばい。」



1年生から次々に漏れ出される声で、先輩たちがざわつき始めた。


…そう。


今回のクイズ大会で1-1は本気で優勝することを目指して、総合的にバランスのとれているインテリたちを集めたのだ。


正直、これは誰も勝てないと思う。


なんでこんなに優勝したいかと言えば、意外に単純な理由であきれる人もいるかもしれない。


優勝賞金で、みんなで焼肉を食べに行く。


楓はステージに登る前に私と雪ちゃんにこう言い残した。



『お肉は世界を救う。』



その凛々しい後ろ姿を見て私たちは感動して思わず心を打たれてしまった。



『楓のそういうまっすぐなところ、すごくかっこいい。』


『それな。』



まっすぐで優しくて何事にも全力で取り組む楓の姿は、男女関わらずたくさんの人から好かれている。



「『『楓がんばれー!!』』」



1年生のみならず、先輩たちからも聞こえてくる応援や歓声。

楓は恵まれてるなぁ…。


すると、3件のLINEの通知が来た。



「楓さんって」


「いつも乃蒼と一緒にいる子だよね?」


「バスケ部の」



一ノ瀬先輩からだ。楓とは数回話したことがあるからか、覚えていたらしい。



『そうですよ』


『あのかわいい子です』



急に先輩からLINEが来たおかげで、どう返信すればいいか分からなくて適当に返してしまった。



「笑」


「あのかわいい子だけじゃ」


「アバウトすぎるなぁ」



いつもちょっとクールっぽい先輩。”笑“なんて使うんだ、なんか可愛い。



『ダメですか?』



送信して顔を上げると、偶然にも一ノ瀬先輩らしき髪の毛がミルクティー色の男の人が、耳を真っ赤にしてるのが見えた。



『先輩、もしかして耳赤くなってます?』



するとその男の人はびっくりしてキョロキョロと周りを見渡している。


…やっぱりかわいいなぁ。


そんなことを思っていると目が合ってしまった。先輩はびっくりした顔をしていたので、つい笑ってしまう。



「…あとで覚えてな?」



口パクでそう言ってきた。


いつもクールキャラと言われている先輩が、実はかわいかったなんて言えば、誰だって笑ってしまうだろう。


…ちょっといじわるしてみよ。


あからさまに目を逸らしてみた。しばらく先輩の方を見なければ、なんとかなるんじゃないかって無視をする。


すると、通知の音が。



「今日一緒に帰ろうね乃蒼。」


「どうなるか覚えててね?」



…やっちゃった。

とっさに謝ろうと先輩の方を見たが、すでに前を向いてしまったので仕方なく諦めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る