隠し事

沈黙を先に破ったのは一ノ瀬先輩だった。



「…で、落ち着いた?」


『は、はい。すみません、驚かせてしまって…。』


「大丈夫だよ。じゃあ、なんで避けてたのか聞いていい?」



先輩が優しく聞いてくる。



『……。』


「…言いたくない?」


『はい…。こんな話聞いたら、気分悪くなっちゃうと思います。』



そう言うと先輩は黙った。きっと面倒な奴だって思ってるはず…。



「……乃蒼ちゃん。俺さ、乃蒼ちゃんに隠してたことがあるんだ。」


『え?』



先輩はポツリポツリと話し始めた。



「実は俺、半年ぐらい前に交通事故に巻き込まれてさ。多分、知ってるかもしれないけど。」



半年前…?事故に巻き込まれた…?



「その後2ヶ月間ぐらい入院してて、しばらく学校にも行けなかったんだ。骨折もしてたから学校に行けてもバレー出来なくてさ。」



先輩はつらそうに顔を歪める。


そうだったのか。だから…。



「しかも、新人戦の前日だったから、選手で選ばれてたのに試合に出れなかったんだ…。」



そう言って俯く先輩に、私は何も言えなかった。



『お待たせしましたーって蒼生くんじゃない!久しぶりー!』


「え、朋子さん?お久しぶりです。」



タイミングよく飲み物を運んできた40歳くらいの女性が先輩に話しかけてきた。



『あら、隣の子は?まさか彼女…?』


『いえ、違います。』


「後輩ですよ…。もう…。」


『そうね、おばさんが邪魔しちゃ悪いわよね〜。』


「いや、だから…。」



朋子さんは嬉しそうに帰っていった。

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