今はまだ僕からお別れは言えない
結城 木綿希/アマースティア
出発
生物にとって死は終わりではない。肉体的な生と死を幾度となく繰り返す我々生物にとって死とは魂の巡りの一局面に過ぎないのだ。
故に死は苦しみからの解放にあらず。
死の先にあるのは解放ではなくまた別の苦しみ。
それでも人は愚かにも死の先に救いを求める。ある者はイジメっ子への抵抗のために。またある者は生きる理由を、死なない理由を失ってしまったがために。人が死んでも他人は変わらない。死の先にあるのは新たな生でしかない。
いや、魂のある側面にとっては救いとなるのかもしれない。その後別の側面が新たな生で苦しむことになるとしても過去の生の苦しみは死をもって終わる。
とはいえ肉体にその記憶がなかったとしても魂は生の苦しみに軋み、悲鳴をあげ続けるのだが……。
それを知ってなお。いや、知っているからこそ僕は死に期待してしまう。僕の死生観はもう常人のそれとは違う。何度死のうと何度生まれ直そうと終わらないこの地獄の連鎖を誰かが止めてくれるのではないか。そう期待して自らの命を対価にガチャを引く。
もうとっくに涙が枯れた僕の代わりに空が泣く。
君は覚えてないかもしれないけど僕らは幼なじみだったんだ。泣き虫な君とそんな君を慰める僕。僕が頭を撫でると君は「大きな手だね、安心する」そう言って微笑んだ。僕はそんな君との何気ない日々が好きだった。
でも、大好きなあの日々を僕は捨てた。
僕を追いかけ続ける君。何度記憶を失っても僕の横に立つ君。僕何かのために命を懸ける愚かな君。
もう十分だ。もうやめてくれ!
君にはいつも幸せな日々があるだろう?だから君は君の人生を生きてくれ。僕は……大丈夫だから。
「さよなら」の言葉は君への呪いになってしまうだろ?だから最期は笑顔で。
「行ってきます!」
今回もまた僕は、愛する君にさよならを言えない。
今はまだ僕からお別れは言えない 結城 木綿希/アマースティア @yuuki58837395
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