第24話 隣村からの依頼

 俺がロンブリエールで指導役を始めておおよそ一か月。

 サンクレール歴で言えば、今は八二四年六月。季節は初夏。

 町を行き交う人の服装も随分と涼し気なものが増えた――そんな昼下がり。


「ハァ……ハァ……」

「も、もぉ無理ー、げほっ」

「…………」


 俺の目の前には、陸に打ち上げられた魚のように倒れ伏して、身動きのできない冒険者たちがいた。

 そう、志望者だ。

 俺は今、エリクのような少年から、魔物狩りへステップアップを試みる兼業冒険者まで、実に様々な人を指導している。


「まだ本格的に暑くないとはいえ、水はこまめに飲んでくださいねー」

「あー! 生き返る!」

「ありがとうよ、クロエの嬢ちゃん!!」


 そんな冒険者志望者の間を歩き回って水を手渡しているのは、俺の手伝いに立候補してくれたクロエだ。

『クロー』の活動も順調で、今月末にパーティーのDランク昇格試験を受ける予定になっている。


「もうちょっとだぞー、頑張れ頑張れ!」

「――はひゅ、ひぃっ」


 さて、しばらくは休憩かな。俺が今後の予定を脳内で確認していると、遠くから発破はっぱをかける声と小さな足音が複数聞こえてきた。

 ひと際背の低い集団――ロンブリエールの少年少女たちを率いてこちらへと走ってくるのは、エリク、エミリアン、オレリアだ。


「ちょっと前までヘロヘロだったエリクたちが、一か月でこうも成長するものなのですね……」

「クロエを指導していた、という経験もあって要領よく伸ばすべき能力を鍛えられたお陰だ。セリーヌもオレリアの指導を手伝ってくれたし、感謝しているよ」


 走ってくるエリクたちを見ながら、セリーヌが何とも言えないような顔で声を漏らした。呆れているのか、それとも想像以上のキツさにドン引きしているのか。

 俺とセリーヌからの指導を一か月受け続けたエリクたち『クロー』は、Dランクに相応しい力と技術を得ていた。


 若さ故の飲み込みの速さを見せた『クロー』の面々は、俺とセリーヌの監督下ではあるがゴブリンのパーティーを正面から討伐している。しっかりと成果が出ている証だ。まだまだ油断ならないが、この調子であれば昇格試験には落ち着いて臨めるだろう。


『クロー』の中でも、特に成長いちじるしいのはエリク。どうやらパーティーリーダーとしての自覚が芽生えてきたようで、一見するとガサツな悪ガキといった雰囲気だが、内面に隠れた視野の広さと直感の良さは光るものがある。


 次にオレリア。

 最初は非力な少女と言い表すしかなかったオレリアだが、セリーヌとのマンツーマンの特訓によって魔法使いとしても、冒険者としても目を見張るほどの成長を果たした。


 最後にエミリアン。

 盾持ちとしては、覇気に欠けるがこちらも意外な動体視力の高さを活かして、堅実な前衛としてオレリアやクロエの身を守ってくれることだろう。


「レオさん、セリーヌさん、終わったぞー!」

「コラ! エリク、敬語を使いなさいって言ったじゃない!」

「い、痛え! 蹴ることないだろう!」


 俺たちの方へ駆け寄ってくるエリクの背後から、オレリアがエリクのすねを蹴った。オレリアは俺たち――特にセリーヌを尊敬しているようで、エリクの言動が許せないようだ。


「ま、まあまあ。三人とも、子供の面倒を見てくれてありがとうね?」

「セリーヌさんが言うなら……エリク、あんたはそろそろガサツなところを直した方が良いわよ!」

「ガサツってなんだよ! おい、オレリアー!」


 年頃の少年少女の、微笑ましいやり取りだが『クロー』の急成長があったからこそ、俺に指導して欲しいと求める人が集まっている。彼らの中の何割がDランク冒険者になれるだろうか。


「さて、大人組も子供組も、もう少し休憩したら今日は解散にしましょう」


 こうして指導を続けることさらに一ヶ月。

 今日は冒険者志望者の訓練は無い。『クロー』のDランク昇格試験があるからだ。試験官はセリーヌが務める。俺は万が一の事態が発生した時のために、ギルドで待機していた。


「す、すまない……ここがロンブリエールのギルドであっているか?」

「はい、冒険者ギルドロンブリエール支部へようこそ!」


 『クロー』の試験が始まって少しして、ギルドへ見慣れない顔をした男が駆けこんできた。

 一瞬呆気に取られていたシャルリーヌが笑顔で挨拶をすると、男はフラフラとした足取りでカウンターへ向かう。


「本日は、どういったご用事でしょうか?」

「俺はブラヴァンスから来たジルだ。すまないが、セリーヌさんに用があってきた。救援要請だ」

「!?」


 なんてタイミングの悪い……。

 ブラヴァンスというと、隣村か。馬で向かえば二時間程度の位置にある、農業中心の村だったと記憶にある。


「当ギルド所属のセリーヌは不在です」

「な、何だと!?」

「落ち着いてください、ジルさん。代わりの冒険者を手配できないか確認します」


 シャルリーヌの返事を聞いた途端、へなへなと膝から崩れ落ちたジル。

 カウンターからシャルリーヌが「行けますか?」と目で問うてきた。少し迷ったが、頷く。


「ジルさん、当ギルドで最高ランクの冒険者に確認が取れましたので、状況を詳しく教えてください」

「終わりだ……村はもう、終わりだ……」

「ジルさん!!」


 うわごとのようにブツブツと呟くジルに、シャルリーヌが一喝いっかつした。


「当ギルドの最高戦力がご用意できましたから、一刻一秒を争うような状況なのでしたら状況を! 説明してください!」

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