第19話 商人の正体

 根掘り葉掘り。

 聞けばセリーヌは『ノヴァ』に憧れていたようで、夜の仕込みのために食堂が閉まるまで『ノヴァ』のことを尋ねられた。


「はぁ……疲れた」


 厄介なことに、セリーヌはまだまだ聞き足りないようで疲れを感じさせない笑顔で、俺に微笑みかけて来た。さすがに勘弁して欲しい。いつの間にか敬語になってるしあの商人め……!!


「またお話を聞かせてください、絶対ですよ!」

「じゃ、俺は帰るから……」


 これ以上、セリーヌに付き合わされるのは御免被ごめんこうむる。背中からセリーヌの声が聞こえてくるが、半ば逃げるようにクロエたちの家へと帰った。


 夜。

 ベッドに横になって、思い出すのは昼間のアルの話。


 この国の冒険者不足は深刻だ。

 俺とクリストフ、アニエスが故郷を飛び出したのも、村を守れるくらい強い冒険者になるためだったし。そう言う意味でも、アルの話には考えさせられた。


「指導役、かぁ……」


 できるだろうか。

 いや、アシルが言った通り俺はクロエを一か月という超短期間でDランクへと昇格させた。

 アシルは妙に確信を持った口調だったし、昼もアルから意味深な目線で見られたけど、いまいち自信が持てない。


 翌日。

 今日はクロエの指導もないし、何をしようかと悩んでいたところ朝早くからギルドへ出勤したシャルリーヌが俺を呼びに来た。


「え、呼び出し?」

「はい! すみませんが、ギルドまでお越しいただけると助かります……」

「~~~~っ!」


 何だか今、猛烈に嫌な予感がした。背筋がぞぞぞっと寒気を感じた。

 俺の勘が言っている。ギルドに向かえば、確実に厄介事に巻き込まれると。


「シャルリーヌさん、何の用かとか……聞いてないですか?」

「えぇっと……すみませんが」


 困ったように笑みを浮かべるシャルリーヌ。

 これは本格的に臭うな……。だがギルドからの呼び出しを断るわけにもいかない。

 そうしてシャルリーヌとギルドに向かうと、ちょうど依頼に出かける『クロー』とばったり鉢合わせた。


「おはよう、クロエ……」

「ど、どうしたんですか師匠!? 凄く疲れた顔をしていますよ?」


 エリクたちと何やら楽しそうに話をしていたクロエが、俺の顔を見て慌てて駆け寄ってきた。あの後、色々と考えてしまって少し寝不足なんだよな。クロエにどう説明したものか。


 んー……。

 あっ。


「そう、今後について考えていたんだよ」

「今後のこと、ですか?」


 そう言うと、クロエの表情が不安にくもる。しまった……話題を間違えたか。

 クロエがソロでDランク冒険者に昇格して以来、クロエにはパーティーに復帰するようにと指示していた。今は『クロー』の斥候として活躍しているはずだ。


「師匠、町から出て行かれるのですか……?」

「えぇぇ!? う、嘘ですよね!?」


 クロエは不安げな様子を隠すことなく、俺にすがり付くようにして問いかけてくる。どうやら、師弟関係が解消されるのではないかと不安がっているようだ。シャルリーヌも落ち着いて欲しい。


「いいや、出て行かないよ」

「「よ、良かったぁ……」」


 返事を聞いて、ほっと胸をで下ろすシャルリーヌとクロエ。

 仕草がそっくりなところを見ると、二人は姉妹なんだと改めて思う。


 この町へやってきて一ヶ月と少々、アシルとアルの話を聞いて俺も思うところがあった。俺はクロエの頭を撫でて『クロー』の下へ戻るように促すと、シャルリーヌの案内で二階へ向かう。


 向かった先はエウリコの部屋。

 ――コンコンコン。


「失礼します、レオさんをお連れしました」

『うむ、入れ』


 部屋の中に入るとエウリコにアシル、それに貴族みたいな恰好をしたアルと真っ黒な執事服を身にまとったケヴィンが居た。


「……えーっと?」

「やあ、よく来てくれたね!」


 そうこうしているうちに、俺の分の飲み物を用意したシャルリーヌは部屋から出て行ってしまう。

 状況が呑み込めないでいると、アルが椅子から立ち上がって微笑みかけてきた。


「さあ、座って」

「あ、ああ……ギルドマスター、アシルさん、俺は何故ここに呼ばれたのか――」

「レオ、それも僕から説明させてもらおう」


 ゆっくりと両手を広げたアルは、不敵な笑みを浮かべて俺を見下ろして来た。どうやら、俺を呼びつけたのは目の前で得意げな表情を浮かべているアルだったようだ。


「君には商人のアルと自己紹介をしたね。薄々察しているかもしれないけど、ごめん。あれば嘘なんだ」


 ほら見ろ、俺の感じた嫌な予感は正しかった。

 確かにアルの言う通り、俺はアルの正体に薄々気付いていたが、正直聞きたくない。


「僕の名前はアルフォンス・セリエール。ここロンブリエールを含めたセリエール領を治めるセリエール家の嫡男ちゃくなんさ」


 やっぱりというか、俺としてはそこまで驚きはなかった。

 商人にしては、アルの身なりが良すぎたから名乗られた身分に違和感があったのだ。ケヴィンもただの執事ではあるまい。巧妙に隠されているが、よくよく見れば武術の達人のような気配を感じる。


「おや、そこまで驚かないんだね」

「貴族はまとう雰囲気が違いますから。王都にいた頃、何度か貴族に会ったことがありますから、最初に会った時から違和感は覚えていましたよ」


 俺が敬語を使ったからか、アルは一瞬残念そうな表情を浮かべるもすぐに微笑みかけてきた。


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