ミライは風俗嬢

地極ミミ

第1話 風俗嬢じゃなくて性犯罪抑止嬢って名前にして欲しい




 私は社会のために生きてあげているんだと常々思う。だって私たちの仕事が日本から無くなったら性犯罪者がこの世から溢れかえるもん。


 仕事の名前、デリヘル嬢じゃなくて性犯罪抑止嬢って名前に変えてほしい。


 ほとんどの男は性欲の発散を1人で出来ない。出来ないくせにセックスしてくれる彼女を作れない。作れないくせに女という性別を見下す。見下す癖に女の体を求める。しかも法を破ってまで。あぁ悲しいかな。性欲モンスター。そんな悲しいマジカルバナナを防ぐために私という女はこの世に存在している。



 そして今、私の目の前にいるこのモンスターがまさにそう。性犯罪者予備軍。


 「ほらこれ着てよ…前の時に話した制服。」


 「うん」

 私はビニールにかかった制服を手に取った。クリーニングされたシワ一つない隣町にある高校の学生服。


「自分の高校のなのに手に入れるのめちゃめちゃ大変だったんだよ」


「そう」

 私は制服のブレザーの襟元に付いているクリーニングのタグを手でちぎった。


「ネットで見つけて即決。5万。クリーニングしてるのが惜しいよね」


「そう」


「早く着替えて。時間勿体無い。」


「うん」


 私は着ていた服をゆっくりと脱いだ。少しでもプレイの時間を短くしたい。男は私の着替えに用はないのかスマホで誰かに返信をしているようだった。ちょうどいい。コイツは遅漏だから殊更。


 制服プレイはよくあるけど本物の学生服でやるのは初めてだ。やっぱり本物の制服は生地の質が違う。少し感心してしまった。


 白のワイシャツを着て、次に紺のスカートを着た。ジッパーが少しきつい。ブレザーを羽織り、最後に紐タイプのリボンをつけた。


「着替えました」と私は男に言った。


 男はスマホから顔を上げて、私の方を見た。顔から下へとゆっくりと視線を移動していった。あーキモい。


 「ごめん、大事なものを忘れていた」と言って男は立ち上がり、テーブルの下に置いてあった黄色いビニール袋を漁り始めた。


 私はその間に洗面台の方に向かった。男がちゃんとウガイをしたか確認したかったからだ。私は蛇口左手にあるアメニティコーナーを見た。よし…マウスウォッシュが減ってる。ちゃんと使ったな偉いぞ。


 リビングに戻ろうと視線を正面に戻した時、鏡に映る自分と目が合った。目元のシワが深くなってる。あーヒアルロン酸入れたい。いや…待って制服を着るといつにも増して老けて見える。そりゃそうか28歳に18歳の着る制服なんて似合うはずがない。


 それに本物の学生服はコスプレよりも似合わない。やっぱりあの服は期間限定の特別な服なんだな…としみじみと思っていたところに


「あれ、お前名前なんだっけ?」とリビングから男の声が聞こえた。



「未来です。ミ、ラ、イ」


 私はそう答え、男の待つベッドへ向かった。男はバスローブを羽織りメガネは外していた。側から見たらこの男は清潔感のある知的な社会人だ。体も鍛え上げている。その辺の40代とは一線を画しているだろう。そんな男が風俗を利用するのにはちゃんと理由がある。


「はいこれで仕上げ」と男は言って、綺麗に折れ曲がった黒のタイツを渡した。


 私は勢いよく黒のタイツを履いた。デニール数が高いから勢いよく履いても破れないだろう。男はタイツを履く私の姿を見つめながら「未来ねぇ。ミライ、ミライ」と私の源氏名をぶつぶつ繰り返し呟いた。


タイツを履き終わったのと同時に男は立ち上がり私の肩を掴んだ。そしてブラウスの1番上のボタンを外した。


「でも今日はミライじゃない。カナエだ。叶えるに恵で叶恵。カーナーエ。海野カナエ。」


「うん」


「俺のことは先生と呼べ」


「うん」


「お前が言って良いのは。“先生”“やめて”“イク”の3つだ」


「うん」


「喘ぎ声は好きなだけ。最初は抵抗してもいい」


「はい、先生」そう答えた瞬間、カナエちゃんはベッドに押し倒された。




 私は社会のために生きていると常々思う。


 高校教師のコイツが教え子に手を出さないために。


 私がコイツの欲を…罪を犯すのを食い止めてあげている。


 カナエちゃん…私ね今日はあなたの為に生きるよ。


 


 私は出会ったことのないカナエちゃんを頭に浮かべた。


 最初に思い浮かんだカナエちゃんはテストで100点を取っていた。それなのにカナエちゃんは周りに自慢もせずこっそりテストをクリアファイルにしまい込んでいた。そしてうつ伏せになりニヤニヤしていた。


 次に思い浮かんだ光景はカナエちゃんが誰かと性交している場面だった。とても幸せそうな理想的なセックスをしていた。カナエちゃんは挿入されて本当は痛い癖に我慢してにっこり微笑んでいた。


 最後に思い浮かんだ光景はカナエちゃんが海で叫んでいる場面だった。涙を流して顔がぐしゃぐしゃになっていた。でも、ぐしゃぐしゃな顔はどこか笑っているようだった。


 私は突然思い浮かんだこの光景に何故か涙が溢れた。何故知らない少女の人生の一片を思い浮かべて泣いているんだろう。喉の奥が暑くなって込み上げてくる。この時間は永遠のようにも一瞬のようにも感じた。


 もっとカナエちゃんの続きを見たいと思ったがそれは叶わなかった。先ほどの3つの光景が永遠に何度も繰り返し流れ、私は涙を流し続けていた。


 ようやく涙が枯れ果てたあと「待ってるから…」

そう声が聞こえた。


 その声は知らない人の声にも聞こえたし、自分の声にも聞こえた。


 いつの間にかカナエちゃんと先生の性行為は終わっていた。


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