友情
翌日、昨夜の出来事が夢だったのではないかと不安になったシオン。畑仕事を手伝うローズが周りにバレないように手を振ってくれたことで、現実だったのだと再確認する。
「夜まではまだ時間があるから、いつも通り本を読んでおこう」
一日、やることといえば外を眺めるか本を読むか。今まではそれだけで満足出来ていたのだが、今夜、もしかしたら外の世界を知れるかもしれない。そう思うと気持ちが逸ってどうも落ち着かない。
そんな、焦りにも似た感情を抱きながら時間は過ぎていった。
そしていよいよその時が訪れる。
「——っ!きたっ!」
日が暮れてからはずっと小窓に張り付いていたシオン。今か今かとローズのことを待ち続けていた。
ローズがトノアの木によじ登り、昨夜同様、枝をつたって小窓から部屋に入る。
「準備は——、出来てるみたいね」
「うん!いつでも大丈夫!」
「あまり大声出すとバレるわよ?静かに着いてきなさい。」
「っごめん!わかったよ」
トノアの木をつたって下に降りる。初めて外の世界に出た感動はなんとも形容し難いものだった。
「さ、早く行きましょ。一人待たせてるの」
「他の人?それって大丈夫なの?僕のこと——」
「大丈夫よ、アイツはそんな細かい事気にするようなやつじゃないわ」
「そっか。わかった。行こっか。」
両親に黙って忌み子の自分が家を出たこと、とても悪い事をしている自覚はあったが、このまま一生、外の世界を知らずにいるのは嫌だった。不安な気持ちと好奇心とが入り混じって複雑な感情だった。
村を出て、森の入り口へと続く小道。そこに一人の金髪の少年が待っていた。
「アルス、待たせたわね」
「いや、今来たところだ。——そっちが
例の」
「そ、忌み子って呼ばれてる子。シオンっていうの」
「初めまして。シオンだよ。えっと……よろしくね?」
「アルスだ。俺はお前が忌み子だろうと何だろうと気にはしない。心配するな」
最初見た時は、童顔な自分とは対照的に大人びた顔と鋭い目つきに怖い印象を受けたが、案外いい人なのかもしれないなとシオンは思った。
「うん!ありがとう。何だか僕凄い幸せだよ!アルス、ローズ。僕二人のこと大好きだよ!」
「ふっ。大袈裟なやつだな」
「ちょっと、恥ずかしいからやめてよね!」
そういう二人の表情はとても優しかった。
「そういえばどこに行くの?」
「森をしばらく進んだところにね、湖があるの。夜空もよく見えて落ち着けて、とても良いところなのよ。」
「ずっと部屋の中にいたお前に何か見せてやろうと思ってな。あまり遠くは行けないが湖ぐらいなら
「
「私はないわね」
「俺もないな、なぜか村の近くは
「そうなんだ、じゃあ安心だね。ねね!早く行こうよ!!」
「ええ、そうね。あまり遅くなると大人達にバレちゃうわ。」
「バレてしまったら怒られるだけでは済まないだろうからな。よし、早く行こう。」
真っ暗な森を月明かりを頼りに進んでいく。
「さすがにちょっと暗くて歩きづらいわね。でももう少しよ——ほら。」
木々の隙間から見える水面。そして間も無く湖のほとりに出る。
森の木に囲まれ、どこか秘密基地のような場所。空を見上げれば満点の星空。そして湖にぼんやりと映る月が幻想的な空間を演出していた。
「——すごいきれいだ……」
初めてみた景色、あの狭い世界では知り得なかった感情。気づけば自然と涙が頬を濡らしていた。
「——シオン……。貴方を連れてきた甲斐があったわ」
「ふっ。本当に大袈裟なやつだ。」
それからしばらく、なにも言わずに三人はその景色を眺めていた。
「アルス、ローズ。本当に今日はありがとう。僕、勇気を出して来てよかった。あのままあそこにいたら僕はこんなにも美しい景色を知らずに死ぬところだったよ。生きていて良かったって思えたよ。僕、今日の事は一生忘れない。」
「——また、来ればいいわ。今日だけじゃない。私とアルスが貴方にもっと広い世界を見せてあげる」
「ああ。忌み子などというふざけた理由でお前が苦しむ必要はない。お前はもっと自由になるべきだ。俺とローズ、そしてシオン。三人でもっと広い世界を知りに行こう。」
「……っ。二人ともなんでそこまでしてくれるの」
「なんでって、私達友達でしょ?」
「友達が苦しんでいたら助けてやるのが男だ、そうだろ?」
「——うん!二人とも大好き!!」
そういって二人に抱きつくシオン。
——この時間がいつまでも続けばいいと。そう強く思った。
穢れた忌み子は呪われし運命に抗う ちょびすけ @chobi0306
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