第39話

阿鬼ちゃんが僕を、外の喫茶店に連れ出した。それは阿鬼ちゃんが『編集長』として部下社員を叱るときのやり方だった。

僕はどんなに厳しい叱責でも覚悟していた。でも、阿鬼ちゃんは濃いエスプレッソをゆっくりと飲み終えるまで、何も言わなかった。

「…藤島、辛いなら…休めば」

阿鬼ちゃんは穏やかに言った。僕は一瞬、厄介払いされたのかとショックを受けた。

「そんな…!僕、頑張りますから…!」

「…そうじゃないの、藤島」

阿鬼ちゃんは悲しげに微笑み、首をゆっくりと横に振った。

「アンタにはこの会社に縛られて生きる義務はない。今のアンタには、自分の人生を考える時間が必要なのかも知れないわ」

阿鬼ちゃんは僕の髪をそっと撫でた。

「行っておいで、藤島。どこかにアンタの居場所が見つかるまで、ね…」

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