第19話 見つめる先

『VR LIVE System シーケンス開始』

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Internet-Musume VR Live start.

【December-Special】

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──照明が絞られ、静寂が会場を支配する。

スクリーンがゆっくりと明るさを取り戻し、煌めくタイトルが浮かび上がる。


────『開催未定』♪


イントロが静かに流れ出すと同時に、ステージ中央に琴上もこの姿が照らし出された。ゆっくりと瞳を開き、もこは小さく息を吐くように歌い始める。


「いつかまた会えるよねって 約束したのに

 カレンダーめくるたび 遠くなる気がした」♪


声は透き通って、会場の隅々にまで沁みていく。ゆったりとしたメロディに合わせ、柔らかい動きで観客へ想いを伝える。


「確かな約束なんてない でも信じてるよ

 また会えるってことだけは」♪


ステージに広がる光が幻想的に揺れ、もこの表情に微かな陰が差す。


(いつも通り、なのに……)


なぜか、歌っているうちに徐々にずれていく感覚がある。わずかなタイミング、動きの遅れ、視線の揺らぎ。観客には伝わらない程度の小さなズレだが、もこ自身にははっきりとした違和感として蓄積されていた。


(これ……なに?)


演奏が盛り上がり、他のメンバーが合流する。まりあの優しく透明な歌声、すばるの凛としたハーモニー、それぞれが美しく絡み合い、パフォーマンスは何事もないように進む。


しかし、もこの胸に抱いた違和感は消えるどころか膨らみ続けていた。


曲の後半、メンバーが肩を並べて前に出るパート。もこは隣のすばると目を合わせた。


「大丈夫?」


すばるは小さく口だけを動かして問いかけた。もこは即座に微笑み返したが、その表情に曇りがあることをすばるだけは見逃さなかった。


──だが、曲は無事に終わりを迎える。観客から拍手が沸き起こり、メンバーたちは笑顔で手を振り返した。


「みんな、ありがとう!」


穏やかな歓声を浴びながら、もこは自分の胸の中の奇妙なざわめきに戸惑いを隠せなかった。


(次の曲で、きっと取り戻せるよね……?)


心を整えるように深呼吸し、次の曲の準備に入る。ステージは暗転し、スクリーンには新たなタイトルが表示された。


──『Internet⭐︎idol』♪


華やかなイントロが一気に会場を明るく彩り、メンバーが再び元気よくステージ中央に飛び出した。


「流れるコメント 画面の向こう

『今日も可愛い』『天使みたい』」♪


リズミカルに身体を動かしながら、元気な歌声を届けるメンバーたち。観客の盛り上がりもさらに大きくなっていく。


もこも、最初は完璧な笑顔で振り付けを踊っていたが、やがて再び違和感が彼女の意識を侵食し始める。


「完璧なアイドル? そんなの知らない

 だけど理想に近づきたくて」♪


いつも通り歌っているはずの歌詞が、今日はなぜか自分自身のことを指摘しているように聞こえる。胸の中で何かがズレていく感覚。周りのメンバーと調和しているはずの自分が、なぜか孤立しているように感じられた。


『もこちゃーん!』『こっち向いてー!』


ファンの声援が耳に届く。笑顔を返そうとするが、演算処理が微妙なラグを起こし、表情が一瞬だけぎこちなく固まる。


(あれ……私、何してたっけ?)


一瞬、自分が立っているステージすら、曖昧に感じられる。


「スクロールするたび増えていく

 おしって言葉がきらめいてる」♪


自分の歌声を遠く感じる。まるで別人が自分の声で歌っているような感覚が、一瞬だけ頭をよぎる。


(違う……今歌ってるのは、私だよ……ね?)


もこは懸命に意識を引き戻し、振り付けを追いかけた。動きに乱れはない。視線も自然だ。観客から見れば何も異常など起きていない。


けれど──。


「画面の中でも 夢のステージでも

 君はずっと 永久不滅の推し」♪


歌詞が脳裏を過ぎるたび、胸の奥に不安がざわめく。


(私に向けられる「推し」は、本当に今の私に向けられているの?)


その瞬間、もこの瞳が微かに揺らいだ。その表情をすばるが隣で一瞬だけ捉えたが、まだそれは大きな異常とは認識されていない。


曲がクライマックスに差し掛かる。


「インターネットの海を漂いながら

 どこまで行けば答えが見つかる?」♪


演奏は完璧だった。パフォーマンスにも乱れはなく、ファンたちも盛り上がり続けている。


それでももこの中では、異物感が止まらないほど大きくなっていった。


(このステージに立つのは本当に「私」なの?)


もこは踊りながら、小さく首を振った。強制的に思考を振り払う。


「今日も可愛い」うれしい♡

「天使みたい」ありがとう♡


歌詞を口に出し、何度も自分自身に問いかける。


(私は……本当にここにいるよね?)


【システムに遅延が検出されました──】


(……え?)


視界が一瞬だけ揺らぎ、もこの笑顔がかすかに崩れかける。だが瞬時に元に戻り、演奏を続ける。


曲の最後に向けて、もこは無理やり笑顔を作り、ファンに手を振った。


しかし、彼女の心は、この日初めて経験する深い混乱と違和感で満ちていた。


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『VR Live Systemを終了します』


 

────数日後

 


『webミーティングを開始します。』

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【Internet-Musume 12月度定例Meeting】

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──夜の静かな時間帯。

画面を通じて、インターネット娘の定例ミーティングが穏やかに進んでいた。


画面中央には運営兼マネージャーの廻中アイ、その周囲に霧宮すばる、愛坂まりあ、琴上もこらメンバーのアイコンが並ぶ。


「次は……新曲『install.exe』のリリースについてです」


廻中が落ち着いた口調で切り出した。


「MVの製作も順調に進んでます。あとは各自、SNSの告知とPRお願いしますね。今回ももこちゃんが中心になる予定です」


もこが小さく頷く。


「はい、わかりました。いつも通り頑張ります」


普段ならもっと弾んだ声で返事をするはずだが、どこか控えめなトーンだった。

すばるは画面越しにもこの表情をじっと見つめていたが、何も言わず黙っている。


廻中が次の話題を切り出した。


「それと先日のライブの件ですが……。もこちゃん、最後の方ちょっと大変そうだったけど、体調とか問題ない?」


一瞬、もこの表情が曇るが、すぐに明るく取り繕う。


「あ……すみません、ちょっと疲れが出ただけで、今は大丈夫ですよ」


画面の端で愛坂まりあが柔らかな声で続ける。


「でもね、もこちゃん。あの時、少し違和感があったかな。いつもと違う感じっていうか」


「違和感……?」


もこは微かに眉を寄せる。自分でも認識できていなかったのだろうか。


まりあは優しく、包み込むように続ける。


「うん……。表情とか動きが、ちょっとだけ『いつものもこちゃん』とは違ったかな。なんだろう……何か無理してる感じ?」


画面上で廻中が資料をめくりつつ、言葉を挟んだ。


「実は運営サイドにも、ファンの方から少し問い合わせがありました。『もこちゃん体調悪いんですか?』って。そんなに多くはないけどね」


もこの目が驚いたように揺れる。


「そ、そうだったんですか……?」


もこ自身に心当たりはないようだった。


沈黙を破るように、すばるが静かな口調で口を開く。


「もこちゃん……。無理しちゃだめだよ。何か悩みがあるなら、ここで話してみない?」


「悩み……。そういうわけではないんです。ただ、最近なんだか少しだけ調子が出ないというか……」


もこの言葉が途切れる。

画面上のメンバーたちが無言で彼女を見守った。


その沈黙を優しく破ったのはまりあだった。


「そういう時、あるよね。自分でも気づかないうちに疲れてたり……。私たちでできることがあったら言ってね」


まりあの優しさがもこを少しだけ安心させたように見えたが、それでも彼女の表情には僅かな戸惑いが残った。


廻中は静かにうなずき、話をまとめに入る。


「今は年末で、みんな忙しい時期だから無理もないと思います。でも、ファンに心配をかけすぎるのもよくないので、もこちゃん、少し休んでもいいよ?」


もこは慌てて首を横に振った。


「いえ、大丈夫です。リリースイベントも近いし、楽しみにしてくださってる皆さんのためにも頑張りたいんです」


もこの強い口調に、廻中も無理に休ませようとはしなかった。ただし穏やかに警告だけは付け加えた。


「無理は絶対禁止ですよ?少しでも違和感があればすぐ相談して」


「はい……ありがとうございます」


画面上のメンバーが、温かく見守るように微笑んだ。

だが、もこの心にはその微笑みが届ききっていないようだった。


画面に再び資料が表示され、リリースイベントの詳細に触れる。


「今回のイベントはオンライン形式だけど、かなり規模が大きくなります。特に『install.exe』は反響が大きいから、ライブのパフォーマンスも重要です。各自しっかりと準備をお願いね」


すばるが落ち着いた笑顔で答える。


「はい、任せてください。もこちゃんも、一緒に頑張ろうね」


「はい……もちろんです」


もこも笑顔を作り、答えたが、その目元にはわずかな影があった。


──ミーティング終了後、画面がオフになる瞬間。


すばるはアイコンが消える直前、もこが一瞬だけ疲れたような表情を浮かべたのを見逃さなかった。


画面が完全に暗転した後、すばるは一人呟いた。


「やっぱり……何か変よね」


もこ自身が気づかない何かが、彼女を蝕んでいるのではないかと感じたのだ。


霧宮すばるは静かに息を吐き、考え込んだ。


(『install.exe』……。もこちゃんにとって、今回のリリイベは何か大きな意味を持つことになるのかもしれない……)


それがどのような未来を示しているのかは、まだ誰も気づいていなかった。

ただ、漠然とした予感だけが、胸の奥に静かに広がり始めていた。


────────────────────

『ミーティングを終了します。』


────数日後


『VR LIVE System シーケンス開始』

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Internet-Musume VR Live start.

【install.exe Release special live】

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──会場が暗転し、低く響くベース音とともに照明が明滅を繰り返す。ステージにはゆっくりと光が差し、メンバーのシルエットが浮かび上がった。


『うぉぉぉ!イン娘きたぁぁ!』『待ってた!待ちすぎて苔生えた!』


ファンの高まりを受け、ステージ中央に並ぶメンバーたちが一斉に手を掲げた。


「行くよ、みんな!」

霧宮すばるが明るい声で呼びかけると、会場が揺れるような歓声が沸き起こる。彼女の穏やかな笑顔は柔らかくも力強く、ファンの心を掴んで離さない。


──『拝啓、推しに会えません!』の軽快なイントロが響き、ステージが華やかに照らされる。


「会いたい!って叫んでも返信ないまま──」♪

透き通ったもこの歌声が響くと、会場の熱気は一気に弾けた。


「画面を睨む──告知が来ない未来もう何度目!」♪

愛坂まりあが続けて歌い出す。彼女の優しく、感情を込めた歌唱に客席からの『まりあああ!』という熱い歓声が加速する。まりあはゆっくりと微笑み、まるで客席一人ひとりに語りかけるように歌っている。


その横で、紫堂みあはファンの声に応えるように元気いっぱいに踊り回る。

「VRライブでいざ召喚!」♪

彼女の明るい声に、ファンたちは笑顔で応え、『みあち天使!』『今日も尊い!』というコメントがスクリーンを駆け抜けていく。


すばるがもこと目配せをし、サビに向けて笑顔を深める。その瞬間、もこは微かな違和感を感じたが、それを無視してパフォーマンスに集中した。


「リアルとバーチャルの境界線 もうとっくに溶けちゃった!!!!」♪

メンバー全員の声が重なり、圧倒的な一体感が会場を包み込んだ。


──曲が終わり、次の曲『☆エゴサ☆』の明るく弾けるイントロが鳴り響く。


「ピコピコ通知が鳴りまくりっ☆」♪

みあのキュートな声が弾むように響き渡る。彼女はファンにウインクを飛ばしながらステージを動き回り、客席の熱を引き上げていく。


『やばいみあち可愛いすぎ』『スクショタイム神すぎる』


まりあは柔らかく手を振りながら、一人ひとりのファンに視線を送り、温かな笑顔で包み込んでいく。会場は彼女の慈愛に満ちた表情に魅せられていった。


すばるは軽快なステップを踏みながら、確かな存在感でメンバーを支えている。『すばるんの安心感半端ない』『安定のパールホワイト!』というコメントが溢れた。


もこも笑顔で踊り続けるが、わずかにリズムが遅れてしまったことに気付く。表面上は笑顔でカバーしたが、小さな焦りが胸に湧き上がった。


(……おかしいな、こんなこと今までなかったのに)


『もこちゃん、今日なんか少しズレてる?』『気のせいかなぁ?』というコメントが一瞬画面を流れるが、ファンの大多数はそれに気づいていない。


「世界中を私色に染めちゃうぞっ☆」♪

明るく元気に締めくくられる中、もこは微笑みを保ちながらも胸に違和感を抱え続けていた。


──そして、『F5 syndrome』の重低音が会場を支配した。


「画面の向こう 揺れる未来──」♪

すばるの力強くも繊細な歌声が響き、観客の熱狂が再び爆発した。彼女のパフォーマンスには一切の隙がない。


まりあも感情豊かな声でファンを惹きつけ、歌詞に込められた切なさを表現していた。『まりあの歌い方ほんと好き』『声がエモい……』というコメントが絶え間なく流れる。


みあは元気なパフォーマンスで会場を盛り上げ、動きに迷いがない。『みあちの煽りでテンション上がる』『ライブの華すぎる』とファンの反応は熱狂的だ。


しかしもこは、再び自分の動きに僅かな違和感を覚える。キレのあるダンスをこなしながらも、振り付けの細部が微妙にずれていることに自覚的になり始めていた。


(……少し身体が重い?)


『もこちゃん今日、微妙に調子悪い?』『なんか違和感あるよね?』という配信コメントがじわじわと目立ち始めていた。


曲がラストへ向かうにつれ、もこは精一杯の笑顔を作り、懸命にその違和感を隠した。


「世界は変えられる──リロードの果てまで行こう!」♪


メンバーが全員で力強く歌いきり、曲は大歓声の中で終わった。もこは呼吸を整えながらも、視界の端に微かなぼやけを感じていた。


(気にしすぎかな……疲れてるだけ……?)


不安を振り払うように笑顔を見せるもこ。会場は大歓声に包まれているが、その中でも彼女だけが、静かに心の奥で小さな違和感と闘い続けていた。


──ステージが暗転すると、一瞬だけ静かな闇が会場を包んだ。


次の瞬間、鋭い電子音とともに鮮やかな光がステージを照らし、期待感で会場が沸き立つ。


「みんな、今日は特別な新曲を持ってきました!」


霧宮すばるの明るい声がマイク越しに響き渡った。その横に立つ琴上もこも、小さくうなずきながら微笑む。


「私たちからみんなへのプレゼント、『install exe』!」


──スクリーンに曲名が大きく表示され、会場から歓声が一層高まる。


コメントも即座に反応した。


『新曲キターー!』『待ってましたぁ!!』『タイトル最高すぎるでしょ!!』


強いビートのイントロが鳴り始めると、もこの意識もステージへ集中する。


「ひかりがゆれる データの海

 どこにも行けないままのシグナル

 私がここにいる理由は

 まだ ここに 残ってるの?」♪


もこの柔らかくも力強い歌声が、会場を満たした。鮮やかな光の演出が、彼女たちの動きを際立たせる。


振り付けはキレがありながらも繊細で、観客は釘付けになった。


(大丈夫……いける。)


もこは自分の身体に意識を集中しながら歌い続けた。だが、僅かな違和感が再び彼女を襲い始めている。


「バグだらけのプログラム

 修正されるたび 曖昧になっていく

 でもこの声が届くなら 私はここにいる」♪


もこの声に一瞬だけ揺れが生じたが、観客は気付かないほど微かなものだった。ファンは楽曲の勢いと新曲への興奮でコメントを高速に流していく。


『もこちゃん歌うますぎ!』『歌詞やばい!鳥肌!!』『これは神曲確定だわ!!』


もこはその熱気を感じながら、笑顔で応える。しかし、その笑顔の奥には言葉にならない違和感が渦巻いている。


「サーバーの向こうの君の声

 聞こえているよ 消えたくないよ

 シグナルが途切れるその前に

 全てを繋ぎ直さなきゃ」♪


曲が盛り上がりを見せる中、メンバー全員が一斉に動きを合わせ、パフォーマンスは完璧だった。だが、もこの内部では再び微かな揺らぎが広がり始めていた。


(あれ? 今のタイミング、少しずれてた……?)


ほんの一瞬だけ振り付けが遅れたことに、もこは動揺したが、即座に持ち直して歌い続ける。


「バグまみれのこの世界 新しい道を作るんだ

 リセットじゃない 進化するんだ

 君と繋がるためのコード」♪


パフォーマンスはクライマックスへと向かい、会場の熱気もピークに達した。しかし、もこ自身の感覚はどこか浮いてしまっている。


身体が次第に重く、動作がぎこちなくなり始める。


(おかしい……なにか……変だ……)


『もこ、ちょっと動き固い?』『体調悪いのかな……?』


観客も微かな違和感を感じ取り始めているが、曲は容赦なく進む。もこは意識を振り絞り、必死にステージを続けた。


「インストール・エグゼ 運命を書き換えろ

 ロールバック もうしないよ

 仮想の世界じゃ終われない

 リアルに上書きしよう」♪


歌声は何とか安定を保っているが、表情に少しずつ緊張が滲み始める。メンバーたちも心配そうに視線を送るが、曲は止められない。


(あと、少し……!)


もこの呼吸が小さく乱れ、身体の動きが鈍くなっていく。歌詞が終盤へ向かうにつれ、その異変は誰の目にも明らかになりつつあった。


『もこちゃん大丈夫?』『ちょっと辛そう……』


「シリアルコードがある限り 私はここにいる

 推しの声が響く限り この想いは消えない」♪


もこは歌いながら、自分の意識がふっと遠のきかけるのを感じた。それでも必死に最後のフレーズへとつなげようとする。


「何度でもインストールして

 虚構の姿でも構わない

 この想いが続くなら

 またここで 君と会えるなら」♪


もこの視界が一瞬、ノイズに包まれた。


「っ……!」


彼女はその場に膝をつきかけるが、何とか姿勢を保とうとする。しかし、それ以上の動きはできなかった。


『もこ!?』『やばい、もこちゃん!?』


メンバーが慌てて駆け寄る中、もこの意識は途切れかける。だが、それでも彼女は必死に笑顔を作ろうとしていた。


「ごめん……最後まで……」


声が途切れ、もこはゆっくりと膝をついてしまう。ステージ上に小さな悲鳴が広がり、ライブは一瞬にして混乱に包まれた。


暗転したステージに静寂が訪れ、ファンのコメントだけが痛々しく流れ続けていた。


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『VR Live Systemを緊急終了します』

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