誰にも言えない馴れ初め

遥 述ベル

一生幸せにします!

 居酒屋で男性と二人きりで呑んだ。

 途中トイレに行って、少しまた呑んでからの記憶がない。


 目が覚めると知らない一室だった。


「ここはどこ?」


 辺りを見回すとビジネスホテルだと推測できた。


 時刻は午前六時。

 服装は昨日の夜と変わっていないがくしゃくしゃになっている。


 そんな見た目の不愉快さ以上に襲ってくるものがあった。


 身体の痛みと下半身の違和感。



「あぁ……されたんだ、私」


 少なからず不快感を覚える。



 私はおそらく全てを把握し終えた。



 すると部屋の扉がゆっくりと開く。


 男の人と目が合った。彼はすごく気まずそうに入室する。



 彼は私と一緒に飲んでいた会社の部下の一宮くんだ。


 普段はおどおどしている彼がまさかこんなことをするなんて。





「あの、ほんとにすみませんでした!」


 彼は一度頭を下げた後に床に座り込み土下座をした。

 きっと慣れていなんだろう。一動作一動作が丁寧で遅い。





「私、一宮くんが好きなの。だから正直にしたいって言って欲しかったな」


「え……?」


 彼がやったことは間違いなく良くないことだ。

 でも私は彼のことが以前から好きだった。


 結婚まで行けるチャンスを逃す訳にはいくまい。




「一生幸せにします!」


 彼の告白は土下座のまま完結した。


 私はそれがおかしかった。愛おしかった。可愛くて可愛くて痛みなんてどこかへ消えていた。


 化粧を落としたい気持ちもすごく強いはずなのに、身体が言うことを聞かなかった。


 私は彼にとっては二度目の初めてに酔いしれた。


 この日の仕事が休みだったせいで、私たちは限りなく行為に近づく愛を手に入れるに至った。




 後に馴れ初めを聞かれた時にはぐらかすのが大変になり苦労するのはまた別のお話だ。

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誰にも言えない馴れ初め 遥 述ベル @haruka_noberunovel

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