あなたへ捧げる言葉の全て

志水川 結木

一通目 対当

その人あなたは一つ、ニコリと目を細めました。

その人あなたは一つ、コテンと首をかしげました。

その人あなたは一つ、ユルリと口角を上げました。

その人あなたは一つ、クツリと喉を震わせました。

その人あなたは一つ、シトリと寄せた視線を逸らしました。

その人あなたは一つ、ギチリとウッドチェアを鳴らしました。


その人あなたは一つ、真白の陶器のような手を伸ばしました。

その人あなたは一つ、波打つシルクの海を手繰りました。

その人あなたは一つ、宝珠を扱うように引き寄せました。

その人あなたは一つ、波立つ水面に桜貝の爪先を滑らせました。


その人あなたは一つ、息を吐きました。

その人あなたは一つ、膝上に広がる乳白色の海から浮上しました。

その人あなたは一つ、視線をクイと上げて此方をみました。


そしてその人あなたは一つ、ふっと口許を緩ませた。


しゃぼん玉の弾ける直前の儚さで、

寄せては浜に散る白波の無常さで、

錆びゆく街のような危うさで、

咲いては散りゆく花の脆さで、

そっとそっと、ひらく蕾のしめやかさで。


その人あなたは一つ、ふわりと微笑みました。



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