第14話(裏)
収録が始まる前のことである。
忙し過ぎてキレそうだ、と思いながら、怜はうんと伸びをした。窓の外を見れば、景色はどんどん流れていく。
テレビ局に向かう車の中で、怜は空に目をやった。薄暗い水色が広がり、西を見れば昼の終わりを報せる橙がかった夕暮れが、東を見れば夜の始まりを告げる紺色が顔を出している。時計を見れば、とうに六時を過ぎていた。撮影開始は七時からと聞いている。ぎりぎりの到着になりそうだと、こっそりため息をこぼす。後部座席からマネージャーの様子をうかがった。運転をしている彼は、前方とカーナビを交互に見ていた。その様子から、明らかに焦っていることがわかる。
直前の取材が長引いたせいで、時間が押しているのだ。早くしなければ、と誰よりも思っているのが彼なのは間違いない。
怜も焦燥がないわけではなかったが、マネージャーを急かす気にはなれず、隣に座る片割れの様子を横目でうかがった。
静は目を閉じている。その呼吸は規則的で、眠っていることがわかった。
この数日は特にスケジュールが押しており、睡眠時間も削らざるを得なかった。テレビ撮影で何が起こるともわからない。生放送で、ネットで配信もされる。些細な発言が炎上に繋がりかねない時代だ。あらゆる意味で神経を張り巡らせなければいけない。息をつけそうな時間は今しかないのだ。焦っても仕方がないなら、休息に回した方がいい。
そう判断した怜もまた目を閉じ、疲労からくる睡魔に身を任せた。
*
『Ladybird, ladybird, Fly away home,
Your house is on fire
And your children all gone;
All except one
And that's little Ann,
And she has crept under
The warming pan.』
耳に残る歌。記憶の奥底、自分という存在の土台に組み込まれた旋律。大人になっても、ふとした折に意識を横切る声音。
それは美しい音色であり、悍ましいまでの恐怖と嫌悪の根源でもある。
忘れたいと幾度思ったか知れない。
消したいと幾度願ったか知れない。
この歌が頭をよぎる度、湧き上がる憎悪と戦うことを強制された。
しかもただの憎悪ではない。親愛と混在した憎しみである。
なぜなら、その感情の対象、歌の主は母親だからだ。
子どもなら誰でも、親が好きだ。たとえ不機嫌な対応をされても、喧嘩をしても、他人相手なら絶縁に至るような仕打ちをされても、子どもは親に向かって「あなたがいい、あなたがいい」と手を伸ばし続ける。
その手を握り返してくれたのならば、それはどれだけ幸福だろう。
その手を振り払われたのならば、それはどれほどの悲しみだろう。
それでも、たとえ、どれほどの悲しみも覚えても、子どもはまだ手を伸ばす。体が大人になっても、それは変わらない。親に向かって「あなたがいい、あなたがいい」と繰り返す。伸ばした手を握り返してもらえる——その時まで。
そんな時は来ないと、どこかでわかっているはずなのに。
手を伸ばせば握り返してもらえる。求めれば応じてくれる。その安心と確信があって、人は初めて子ども時代を終え、大人として生きていくことを選べるようになる。
安心も確信も得られなければ、大人になることは難しい。もしも、親から与えられないまま、それを得ようと思えば、膨大な労力と精神的苦痛を要する。本来なら親に守られながら進んでいくはずの道を、一人で進まなければならないからだ。
自分は運がよかった、と、怜は夢現の中で思った。
一人ではなかった。決して独りにはなり得なかった。
いつだって、同じ憎悪を、同じ悲しみを共有できる者がいた。
同じ幸福を目指して、共に手を伸ばしてくれる者がいた。
本当に、運がいい。
同じ過去を振り返り、共に記憶を積み重ね、遠い未来でもそれは変わらないと確信できる。
ロンが綴り、遺した本のように。
——彼が綴った文章に、果たして原形はあったのか。
ふと、そんな疑問が夢現の中に浮かび上がった。
無から新しい物語を生み出すよりも、自身の過去や、見聞きした出来事を下敷きにする方が遥かに容易い。
ロンの本は、妖精が幾度も登場し、幻想的な文章で、しかし現実の残酷さと矛盾を常に皮肉っている。
あれらの記述が、彼の過去を示したものだったとしたら——。
「間に合ったぁ!」
マネージャーの声が意識に響き、怜はゆっくりと目を開けた。
*
車を降りて、双子はテレビ局の中を進んだ。時間がないから、控え室には寄らず、直接スタジオに向かう。
たくさんの人間が行き交う局の中は、町の雑踏とよく似ている。人が集まる場所には、それ以外の者も集まるのが常だ。
通路を進みながら、視界の端を横切っていく小さな影を見とめて、怜は密かに息を吐いた。
人間が文化を交え、異国同士の交流が深まれば、ああいった者たちも海を渡ってくる。人間にくっついてきたり、大きなものは自力で渡ってきたりもする。ネットに流れている映像の中、アフリカで撮られたと思われる動画の背景に、着物を着た明らかな日本の幽霊が映り込んでいた時は怜も思わず苦笑したものだ。
人が海を渡れば、人ならざる者たちも、容易に国境を越える。
きっかけがあるならば、尚更だ。。
須藤善司のように。
ただ、今日は数が少ないな、と怜は思った。
いつも、この場所はもっと雑多なもので溢れている。それが、今は静かだ。
怜は隣を歩く片割れの方へ目をやった。
静もまた、怜の方を見ていた。
「……ねえ、静。今日は、視界がいいと思わない?」
「そうだね。まるで、台風の前日みたいだ」
「嵐の前の静けさ?」
「まさに」
くすりと笑い合った時、スタジオの前に着いた。時計は集合時間の五分前を示している。
ちょうどいい、と、怜が重たい扉を開いた。
腐った水のようなにおいがした。
*
ロンがどのような人生を送ったのか。その大部分は、ひ孫である双子にとっても謎だ。
イングランドの家に残っていた記録は、わずか三枚の写真である。一枚はテレビに出すことに決まった結婚時の撮影と思われるもの。
二枚目は、赤子と、それを抱く夫婦の写真だ。夫婦の顔立ちはロンともエルムとも違うことから、ここに写っている赤子がロンであると推測できる。しかし、確証はないから、テレビに出す許可は出なかった。赤子のロンを抱く母親と、母子を守るように傍らに立つ父親。父親は軍人のような服を着て写っていた。
写真の裏には、やはり掠れた文字で「1853.12.28 Birthday. Abel and Maria 's anniversary」とあった。他にも何か書かれていた痕跡があるのだが、そちらはもう判読できなかった。
双子の高祖父母にあたる人物らだが、この二人に関しては本当に何もわからない。高祖父は、軍服の様子から、当時の英国海軍にいたのではと推測できる。しかし高祖母については、本当に何もわからない。いま生きる誰の記憶にもなく、記録も残っていないのだ。写真裏の文字から、アベルとマリアという名前がわかるのみである。高祖父母のことを知っているのは、もはや亡きロンだけなのだ。
三枚目に写っているのは、ロンとエルムだと断定できる。エルムは赤子を抱えており、それは双子の祖父であるフェイであると思われた。この写真の裏には「I'm with he.」としか書かれておらず、撮影の日付は断定できない。
二枚目と三枚目の写真は、須藤善司の日記の中に紛れこんでいた。彼の日記はA4の紙の束であり、全てに目を通すことなど到底できない。初めと終わりだけさらりと読んだだけだったから、双子も気付くのが遅れたのだ。
気づいた時には、なんでこんなところに挟んだんだ、と静がため息をついた。それを見た怜が声を上げて笑ったのだ。
「ブラウニーだなぁ」
やれやれとまなじりを下げるを片割れと共に、怜は三枚の古い写真に目を落とした。
「本当にいたずら好きなんだから」
「ただ、関わってくれる気になってるってことは、頼りにできるかもね。父さんよりも」
「いや全く。テレビ本番まで、気が変わらないことを祈るしかないなぁ」
そうして、双子はくすくすと笑い合った。
テレビ撮影から、数日前の出来事である。
*
やっぱりこうなった。
規則的に明滅するライトを見上げて、怜は「やれやれ」と肩を落とした。何も起こらなければそれに越したことはない、と願っていたが、願いとは叶わないのが常であるとつくづく思い知る。
テレビカメラの前で、下手な言動はできない。怪しい行動はとれない。頭がおかしいと思われればそれまでだし、そうでなくとも霊能系詐欺師の同類だとされたら、もう挽回はできない。
今の時代において、情報が広がるスピードはまさに光の如しだ。特にリアルタイムで放送される時は、一挙手一投足が命取りになる。いわんや妖精云々、チェンジリング云々の話題は絶対に触れられない。せいぜい、ロンの祟りについて考察を述べるのが関の山だ。
やりづらい、と思いながら、怜は眼だけを動かして、アリアの様子をうかがった。
彼女は不安そうに辺りを見回している。
来てほしくはなかったが、と怜はアリアの視線の先を追った。
情を省けば、都合がいいことも確かなのだ。あのルサールカの中には、アリアの母親も混ざっている。そして、アリアは一度無意識を支配されるほど、強く深く取り憑かれた。それでいて、双子と違い、身を守る術も持っていない。まるでサバンナに放り出されたウサギのように無防備なのが、今のアリアだ。
最初に狙われるとしたら、間違いなく彼女なのだ。
隣に立つ片割れの方へ目をやる。静もまた怜を見ており、双子は目を合わせて頷き合った。
同時に立ち上がり、前に出るふりをして、アリアを隠すように立つ。
「皆さん、落ち着いてくださーい」
声を上げれば、テレビスタッフたちの喧騒が止まった。皆の視線が集まるのを感じながら、怜は言葉を続ける。
「大丈夫、これはロンです。僕らの曽祖父です。いたずらはしても悪さはしませんよ」
「明かりはすぐに復旧します。落ち着いてー」
集団のパニックは、一種のハウリングだ。隣り合った人間同士で焦りや恐怖が響きあってどんどん大きくなっていく。ただ、それは単なるパニックだから、きっかけさえあれば人は落ち着くことができる。
喧騒が静まったのを見計らって、双子は同時に天井を見上げた。その動作に意味はない。ただの演出だ。
「さぁて」
そこにいるのは、曽祖父か、それとも母親に成り損ねた女たちの成れの果てか。
「話を聞こうか」
双子が声を揃えた瞬間、明かりが完全に落ちた。あちらこちらから叫び声が聞こえる。悲鳴や怒号の他、予備のライトをつけるよう指示している声もあった。
それでも暗闇は晴れない。何故なら、ここは既に腹の底だからだ。
——成れの果て共だ。
人にとっては暗闇でも、チェンジリングである双子にとっては満月に照らされる野原のようなものだ。昼間と同じというほどではないが、周囲を伺うのに不自由はしない。
鼓膜の上で、泡が弾ける音がする。
視界がゆらゆらと水面のように揺れている。
そして、全身に突き刺さる、怒りと、嫌悪と、悲哀の感情。
まだ懲りないのか、と、双子はつくづく辟易する。同時に、打てる手を思案した。
ここで迂闊に矢は使えない。
下手なことを口走るわけにもいかない。
撮影まで、何度も二人で話し合った。幾つも想定を重ねた。
そうして、これしかない、という結論に至ったのだ。
「——Ladybird, ladybird, Fly away home」
耳に残る歌。記憶の奥底、自分という存在の土台に刻まれた旋律。母が歌ってくれたという子守唄。
元々、これは聖母マリアを讃える歌であり、歌詞は呪文でもあった。だから、生前の母は、我が子である双子を思って、いつもこの歌を歌った。双子の父は、子どもたちにそう語った。
我が子のために、母は幾度この歌を口ずさんだのか。赤子だった子どもたちの記憶に残るほどだから、数えることもできないほど、何度も何度も繰り返したことは間違いない。
だからきっと、双子の母は、死んだ後も、この歌を覚えていたのだ。
聖母マリアの祝福につながる歌の記憶が、双子の母——ミナーラの、生前の姿をわずかながらも守った。
妖精に生まれ変わった人間は、人間時代のことなど全て忘れる。故郷も、家族も、友人も、全て捨て去って違う世界の住人となる。
ミナーラは、それができなかった。祝福によって守られた我が子への愛情は、彼女を更に悪性に落とす執着という鎖になった。
どこまで堕ちても、我が子の記憶だけはなくさなかった。
そこだけならば、それは確かに救いなのに、と怜は思う。
気休めのような微かな救いが、悪魔のような惨い結果を生んだのだ。
「Ladybird, ladybird, Fly away home
Your house is on fire And your children all gone;
All except one And that's little Ann,
And she has crept under The warming pan.」
繰り返し歌う。これは人間の声ではなく、チェンジリングとしての聲だ。普通の人間には聞こえない。現に、テレビスタッフたちは誰も反応していない。しかし、画面の向こう側、そこにいる無数の人々の中には勘が鋭い者もいるだろう。そういう人間たちには聞こえる。
聞こえる人と、聞こえない人がいる、不思議な英語の歌。
テレビの演出としては最高だ。
思った言葉は本心だが、同時に諦めでもある。
この歌は、本来は祝福の歌だ。魔を退ける力だ。だが、この場に限っては——異形と化した“彼女”の記憶を刺激し、昂らせる罠だ。
母親とはいつだって、子どもの元へ向かうのだから。
双子の歌を遮るように、アリアの悲鳴が響いた。
[なになに、今の悲鳴何]
[誰? 誰がやられた?]
[不謹慎なこと言うな、驚いただけかもしれないだろ]
[明かり復旧マダー?]
[明るくなったら全滅してましたとかいうオチはやめてくれよ]
[なー、怖いこと言っていい?]
[ダメです]
[ごめん言う。こちら、神社からお札もらってきた者です。この数分の間で、五枚あったお札のうち、三枚がボロボロになりました……]
[冗談はよし子さん]
[釣り乙]
[いやマジだって! 手に握ってたのとかもう本当にやばくて、風呂に落としたみたいにぐにゃぐにゃになって破けたんだよ!]
[手汗では?]
[パソコンの横に置いといた十字架が真っ二つに割れて、コップに入れてた聖水が一瞬で真っ黒に濁った話する? なんか下水みたいな嫌な臭いまでしたから即トイレに捨ててきたわ]
[うち、親がクリスチャンだから、聖書こっそり借りてたんだけど、だんだん重くなってる。表紙がふやけて、水に浸したみたいになってきてる。ちな、濡れてはいない]
[なあ、これマジでやばくない?]
[霊感あるって自称してる姉がさっきリビングに突撃してきて、テレビ速攻切られてめちゃくちゃブチギレられた。しょうがないから部屋のパソコンでこっちに繋いだんだけど、部屋の外で姉が騒いでる。鍵破られそうな勢い]
[お前の姉ちゃん、普段からそんな狐憑きみたいなことしてんの?]
[いや、いつもはもっぱら声の小さい陰キャタイプ。だから俺もビビってる。今は両親が止めてくれてるみたいだけど……]
[私も怖い話するね。飼ってる犬がこの放送始まってからずっと机の下に隠れてて、さっき急にキャインって鳴いて逃げるようにどっか行きました。ちなみに、さっきって言うのは、完全に明かりが落ちた瞬間]
[我が家のニャンズ三匹がさっきからシャーシャー言い続けて全然落ち着かない話も追加お願いします。なお、普段は三匹ともとってもおとなしい穏やかな子たちです]
[いま霊感持ちの友人からメールきた。悪いこと言わないから回線切れって。切らないなら絶縁するって。いつも優しくて礼儀正しい子なのに……ていうか、この放送見てること言ってないのに……]
[神棚が急に落ちてきてめっちゃビビったわ。ところでなんで床が濡れてるの? マンションだから雨漏りするわけないよ? ていうか雨なんて降ってないよ? 水回りからも離れたリビングの真ん中だよ? どうして?]
[仏壇に飾ってたじいちゃんの遺影が倒れたんですがあのあのあの……何で、額に入れてある写真がふやけてるんでしょう、か……?]
[おめでとうございます、立派なガチヤバ案件です]
[これコメントしてない人たちのところでも色々起きてるんでない?]
[テレビでやっちゃいけない話題だったのでは……]
[呪いが拡散して世界が滅ぶホラー映画の王道パターンじゃねコレ]
[いいや違う! ロンは何か俺たちに訴えたいことがあるんだよ! ロンは世界を滅ぼすような人じゃない! 俺はロンを信じてる! あいつにはきっと何か理由があるんだ!]
[お前はロンの何なんだよ]
[他人]
[ころすぞ?]
[ふざけるタイミングは選ぼうね?]
[ロンさんこいつですやっちゃってください]
[Need some a hint?]
[空気和ませてやったんだろが]
[空気変えるのと壊すのは別だってわかれ]
[Want to know more about Ron?]
[どなた様でしょうか?]
[いま忙しいのですいません]
[待て待て、これロンの話してないか?]
[ヒントが必要かって言ってる?]
[英語……そういやロンの生まれってイギリスだよな。英語圏]
[……現地の関係者?]
[地元じゃロンは有名人だったみたいだし、ありえる?]
[ヒントほしい! いや、Please! Please!]
[くださいって英語でなんていうんだっけ?]
[中学英語だろ! I want to a hint!]
[翻訳サイトありがとう! I want to know the Ron!]
[ヒントくれ、頼む!]
[Ok, Ok. He is a messenger for lady bird.]
[英語できるひとー! いませんかー!?]
[ロンはてんとう虫の使者なんだって]
[何故急にてんとう虫]
[前回のカエルに並ぶ唐突感]
[カエルは結局ウォジャノーイっていう妖精だったんだろ? てんとう虫の妖精とかいない?]
[しらね]
[いま検索したけど、レディーバードって聖母の鳥って意味もあるらしいよ]
[聖母って、マリア?]
[ロンは聖母マリアの使者?]
[それならわかる(わからん)]
[現地の人ー! もう少し詳しく! ああいや、want to more hints!]
[というかあなたは誰ですか? Who are you?]
[Ron is sad because his grandchild has turned into a demon. And I'm Brownie.]
[何? デーモン? 悪魔? グランドチャイルドって孫だよな? ひ孫はあの双子だから、双子の親のどっちかか?]
[ロンは孫が悪魔になったから悲しんでる?]
[そういや、公開されてる家族写真。双子の母親らしい人だけが写ってなかったけど、そういうこと?]
[どういうことだよ]
[なぞなぞみたいなヒントやめてもろて……]
[ブラウニーさんどういうことですか]
[結局誰なんだよブラウニーさん]
[考えてみれば、名前聞いたところでわかるわけなかった]
[ブラウニーって、そんな妖精イギリスにいなかったっけ?]
[家の世話をする妖精が、向こうじゃシルキーとかブラウニーって呼ばれてる]
[え、妖精なの?]
[いや普通に偽名なんだろ]
[もうそこは重要じゃない。とにかく手がかりがほしい。ロンを成仏させるにはどうしたらいいか、ブラウニーさんに聞いてくれ! 英語できる誰か!]
[見事なまでの他力本願で草]
[翻訳サイト様に頭が上がらん。How can Ron go to heaven?]
[It is very difficult because he's not hope. But if oak is falling his relief.]
[ちくしょう英語力のなさが恨めしい!]
[誰か翻訳頼む!]
[要約すると、ロン自身が成仏を願ってないので難しい。でも、オークが落ちれば彼は救われる、だと]
[オーク? 落ちる?]
[……最初の最初、あのババアが初めにバズらせた動画で似たような話題出てなかったっけ?]
[出てた]
[霊媒の人がフォールオークって何度も言ってた]
[伏線回収キタコレ]
[ブラウニーさん! そのオークって木材!? 木!? っていうかどこにあるの!?]
[英語で聞けよ。Is it oak wood or tree? And, Where is the oak?]
[英語できる勢サンキュー!]
[Oak is tree. It is in the north lake. The lake is made of death and bones.]
[オークは樹木で確定! 北の湖にあるってよ! どこだよ!]
[死と骨でできてる湖だそうです]
[何それ怖い]
[北と湖って言ったら、北海道か?]
[東北の可能性もあるけど]
[何ならオホーツク海の向こう側の可能性も]
[そっちに湖はそうないだろ]
[有名なのはバイカル湖だけど、死や骨の要素ないしな]
[ループクンド湖っていう沢山の人骨が見つかった湖はあるけど、インドだからな。日本から見てもイギリスから見ても北ではない]
[とりま日本国内と仮定しようぜ。じゃないと考察が進まん]
[北海道や東北の地元民いない? 死と骨でできてる湖に心当たりは?]
[あってたまるか(岩手県民)]
[そんな心霊スポットは知りません(宮城県民)]
[ちょっと記憶にないですね(青森出身)]
[少なくとも東北ではないっぽい?]
[道民いるー? 北海道にはない?]
[死と骨って、合わせると死骨だよな? 音読みすると「しこつ」]
[……支笏湖?]
[待て待て、そういえば、双子が答えたインタビューの中に、ロンは少なくとも北海道には来てたはずってのがあったぞ]
[はい決まり!]
[あとはそこに生えてるオークの木を倒せば解決!]
[どのオークの木?]
[オークって楢の木だろ? 北海道に楢はたくさん生えてるぞ?]
[ていうかそもそも、誰が行くの?]
[お前]
[ちょうど旅行で近くに泊まってるから見に行ってみるわ。やることなくて暇してたし]
[マジで?]
[神展開]
[サンクス]
[実況ヨロ]
[解決の兆し見えた?]
[ところでテレビの方はどうなってるの?]
[あの悲鳴以降ずっと真っ暗で何もわからん]
[ガチの放送事故じゃん]
[霊障起きてなかったら炎上してるレベル]
[まてまて、カメラの手前に何かいない?]
加熱していたコメントの流れは一瞬だけ止まり、画面が映し出す暗闇に無数の視線と興味が注がれる。
黒の中で、二つの光が明滅した。ライトではない。もっとぼんやりとした明かりだ。
[人の眼じゃね]
誰かがコメントを投じた瞬間、視聴者たちの一部は息を呑み、一部は「おお」と声をあげ、また一部は「マジかよ」と呟いた。
暗闇の中にぼうっと浮かび上がったのは、件の占い師——三森千秋の顔だった。
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