神の試練に挑む者達

まるせい(ベルナノレフ)

第1話 始まりの日

 賑やかなキャンパス内を歩く。


 入学式から一週間が経過し、新入生たちもそろそろ大学に慣れてきたころだろう。


 そこらではサークルの勧誘に笑顔で応じる姿を見かけることができ、皆楽しい学生生活を満喫しているようだった。


 そんな中、一部の女子生徒がチラチラとベンチを見ている。そちらに視線を向けると、新入生が何やら履修票を片手に悩んでいた。


 整った顔立ちに鋭利な瞳を持つイケメン。

 長身で服装も決まっており、紺の上着に白いシャツにジーンズとごく普通の格好をしていても似合っており、通りかかる女子が視線を向けていた。


「翔、入学おめでとう」


月岡つきおかひかり先輩」


 俺が声を掛けると目の前の人物は顔を上げた。彼の名前は水上みずかみしょう。俺の高校時代の後輩だ。


「どの講義を受けるのか悩んでいるのか?」


 俺が話しかけると、翔はこれまでのクールな表情を崩し、笑顔を見せた。


「そうなんですよ、必修は仕方ないにしてもできるだけ先輩と同じ講義を受けたいと思って……」


「お前なぁ。大学は自分の勉強のために来る場所だぞ」


 そんな翔の言葉に俺は呆れると、説教をする。

 こいつは一体、大学に何をしにきているのだろうか?


「まさか、俺がいるからこの大学を選んだとかないよな?」


 質問をすると、翔は押し黙った。


「おい……?」


 翔は高校時代から目立つ存在だった。


 スポーツ万能で勉強もできる。さらにクールで整った顔立ちともなれば目立たないわけがない。


 だが、俺が翔を知った時、彼は周囲に壁を作っていた。

 そんな翔もあることがきっかけで俺と関わるようになり、学生時代は

常に行動をともにするようになったのだが……。


「いけませんか?」


 翔はバツが悪そうにしながらも俺に聞いてくる。俺より背が高くガタイもいいのに、こういうときは子犬みたいにすがるような瞳を向けてくる。


「駄目ってことはねえけどさ。自分の将来に関わることなんだからもっと真剣にーー」


「俺にとって先輩がいるかどうかが大学選考の基準でしたから」


 翔は俺の言葉を遮るとはっきりと言った。


 周囲で見ていた女性が「キャー」と黄色い歓声を上げる。

 翔が俺に顔を近づけたのが気になったのか、高校時代もよくあった。


 こいつと関わるようになってからこのようなことは日常茶飯事なので流すことにする。


「まあ、お前がそれでいいならいいけど……」


 こいつの頭脳ならどんな大学にだって入れただろうし、どんなスポーツに打ち込んでもプロを目指すこともできる。


 最終的には大成するのは間違いないので、本人がやりたいようにさせてやるのが一番だろう。


「それじゃ、学食でも行くか? 入学祝いに飯奢ってやるよ」


 俺は翔の頭を乱暴に撫でると、


「はいっ! 是非っ!」


 翔は嬉しそうに返事をすると俺についてくる。


 長身でイケメンなのにこのような表情で俺の後をついてくる姿はどこか大型犬を連想してしまう。


 何だかんだで俺は俺に懐いてくるこの後輩が可愛くて仕方ないのだ。


 俺たちが横に並びながら学食を目指していると……。


 ーーキュイ! キュイ! キュイ! ーー


 災害アラートがそこら中からなり始めた。


「先輩っ!」


 地面が大きく揺れ、翔は咄嗟に俺を守ろうと抱きついてきた。


「大きいぞっ!」


 悲鳴が上がり、周囲の生徒が逃げ惑う。


 どれだけの時間が経っただろうか?


 地震が収まると、風景に何やら違和感を覚えた。


「月岡先輩、大丈夫ですか?」


 翔が真剣な表情で俺の顔を覗き込んでくる。


「ああ、俺は平気だけど……」


 建物も崩れていないので落下物による怪我などは負っていない。


 土煙が晴れ、遠くに影のようなものが映る。


「あれは……なんだ?」


 皆がそちらに視線を向けると、


「巨大な……塔?」


 これが、俺たちの人生を大きく変える、通称ーー『神の塔』が出現した瞬間だった。

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