第10話 青嵐寮

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 シノザキ流の寮に移動する。すると、寮母りょうぼのおばあさんが寮の前で待っていた。


「今年もいっぱいきたねぇ。私は寮母りょうぼのエリザ。編入生の中には遠くからきて疲れた者もいるだろうが、まずはこれを受け取りな」


 そういうと、入寮者の全員に制服が配られた。


 夏服、冬服、外套がいとうに雨衣、運動着や礼装と、それぞれにシノザキ流を表す空の紋章の刺繍ししゅうがあしらわれている。


「今日からあんたたちはこの服を着て学内を行動すること。私服に関しちゃ外出の時だけだ。洗濯は私がばっちりしてあげるから、着替えたら中央ホールに集まりな」



 部屋は個人個人に個室が割り当てられている。


 生徒の中には狭いとこぼす者もいたようだが、俺にとっちゃ文句はない。


 これだけの部屋があれば毎日のびのびと休めそうだ。


 荷解きを終えて、中央ホールに向かう。


 中央ホールに行くと、エリザさんが待っていた。エリザさんは、制服に着替えた俺らを見て優しく微笑む。


「改めて、私はエリザ。高等部一年生のシノザキ流の子が住む、この『青嵐寮』の寮母だ。ようこそ、エドワード学院へ。」


 先ほどの部屋の狭さに辟易へきえきした貴族の一人がエリザにとってかかる。


「エリザさん、あの部屋は何だ?物置同然の場所に僕を押し込めて。これがシントラの誇る学院の設備か?これから学院での生活をあの部屋で過ごせというのか?あんまりだと思わないのか?」


 貴族出身の生徒のうちの何人かも割り当てられてた部屋の様子に戸惑いを隠せないようで、エリザにとってかかる生徒の様子を気にしているようだった。


 エリザは依然としてニコニコと微笑みながら、優しい言葉で答える。


「いやなら出ていってもらっても構わないよ。この学院には各学年に流派専属の学生寮があるほかに、個別に寮がある。成績優秀な人間であれば、入寮条件をクリアできるだろうから頑張ることだね。ちなみに、他にも抜けるって言うんなら止めないよ。どうだい?ほかにもいるかい?」


 そういうと、いきり立った生徒は歯噛はがみしながら、エリザさんをにらんで寮を後にした。


「それじゃあ青嵐寮せいらんりょうについて色々説明していこうかね。まず、就寝は午後十一時。それまでに戻らないと入口の鍵は閉めるからね。あたしも人間だしその時間に寝るから、締め出されないようにするんだよ。そして毎日のご飯だけど、朝食は日曜日を除いて朝の七時。昼食に関しては食堂のご飯を食べな。夕飯は夕方7時半に出すけど、連絡してくれれば取り置きするから言っとくれ。そんで、この中央ホールは好きなように使ってもらって構わないよ。そのかわり散らかってたら吊るしあげるからね。」


 女生徒の一人がエリザに質問する。


「この中央ホールであったり、自室だったりに他の寮の人たちを招いてもよろしいですか?」


「構わないよ。中央ホールに制限はないけど、自室に人を招くときは、こっちの簿冊ぼさつに記入してからにするようにね。あくまで無いとは思うけど、防犯のためだよ。さて、それじゃ、他の場所も紹介するかね」


 エリザさんに連れられて、寮内の他の設備も紹介してもらった。娯楽室、自習室、シャワー室など、学生生活を送るには十分だ。


「こんなもんかね。それじゃ、疲れてることだろうから、大浴場にでも行って来な。帰って来る頃には夕飯の支度が終わってる頃だと思うから、風呂道具持って行ってくるんだね」


 入学早々見知った人間といえばパウルくらいなので、パウルを連れて浴場に来た。


 相変わらず、この学院は設備が立派だ。


 今回来たのは青嵐寮から近い第二浴場で、巨大な浴槽にずらりと並ぶ洗い場と、十人余りは入れるサウナ。


 水風呂に、外気浴ができる休憩所、一般的な浴場に見えるが、エリザさんが言うには、疲れたら学院の浴場が一番、特に第二浴場がいいらしい。


「パウルはあの部屋に文句無かったんだな。それこそあの子みたいに激昂げっこうすると思ってたぜ」

「『郷に行っては郷に従え』というが、僕は生徒の立場だ。感謝こそすれ、あんな風に学院の設備が自分の期待に合わないからと文句を言うつもりはない。それに、自室にしては十分なものだろう。自室のみであれこれやりたいのならいざ知らず、寮内には必要な設備が整っているからな」


「へー、そこらへん随分大人なんだな。編入試験の時にあんなだったから、俺はてっきり……」


「あの時は、君を甘く見ていた。それに、自分の視野の狭さ、世間知らずっぷりに感じた怒りを未熟にも君にぶつけてしまっただけだ」


 パウルは恥ずかしそうに、でもしっかりとした面持ちで、


「次は負けることはない。二度も君に遅れを取るわけにはいかない。貴族としての誇りもあるが、この国の戦士を目指すものとして、君に勝ちたいと思う」


 と、迷いなく俺の方を見て言った。

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