第6話 通知書

「……え?」


 そういうとおじさんはふところからエドワード学院の紋章が入った封筒を手渡してきた。


「ずいぶん自己紹介が遅れた。レオン・ノイアー君。私はエドワード学院の学院長をしている、エドガー・クロイツァーだ。実は最初から君が目的で今日、ここにいるのだよ」


 封筒の中には編入許可証、手続きに関する書類、編入試験の結果の通知書が入っていた。


「通知書にあるように君には確かに学院生としての教養に足らない部分があるかもしれない。だが、編入試験の君の身体能力と戦闘センス、そして君に眠る潜在能力、これを評価して、君にエドワード学院への編入を許可する。レオン君、その類まれなる才能を以て学院に新しい風を、そして至天ウルドを志す戦士として研鑽けんさんに努めてほしい」


「まじかよ、が、学院長?!だって、合格発表では名前呼ばれなかったんですよ?だからこうして途方に暮れてたわけなのに、今になってどうして合格に?」


 状況をつかめない俺を見て、学院長はニヤリと笑う。


「そうとも、試験官の判定を踏み倒して私が君を合格にするといって出てきたからな。それに許可権者は私だ、何も問題はない。」 


 そういいながら学院長はガシッと俺の肩をつかみ、


「それにな、レオン君。編入試験での様子を陰ながら見させてもらっていたのだよ。実技試験で見せたあの身のこなし。相手のパウル君も編入生の中でも優れた武の才能があった上で刻印を使ったというのに、君は身一つで彼の攻撃をかわして、逆転にまで持ち込むその技術。ここに刻印を使った戦闘技術が合わされば、より状況を支配できる戦士になるだろう。そこを見込んでの合格なのだ」


「それじゃあ俺はこれから学院で勉強できるってことですか?」


「ああ、その通りだ。これからたくさんのことを吸収してくれ」


 う、受かった……。実感の無さと受かった嬉しさでごちゃごちゃになって、膝から力が抜ける。


「今日は、私のほうで手配した『からすの宿』という宿に泊まるといい。明日の入学式、学院で待っているよ」


 そういうと学院長は、座り込んだ俺の手とがっちり握手した後、街中の闇に消えていった。

 


 ――――鴉の宿にて

 寝る支度が整ってから、改めて封筒の中身を見る。


 編入許可書、手続きの書類、編入案内、あ、これこれ、成績の通知書。


『成績通知書――レオン・ノイアー――筆記試験:不可 魔力測定:可 実技試験:秀――今回の試験においての上記の者の結果は不合格とする。以下が各々の試験結果についての評価である。知識の面においては、学院の編入生に求められる段階に無く、とくに魔法関係の知識にとぼしいことが認められる。魔力の測定においては次に示すように、初期の波長が極めて大きな数値を示しているが、それ以降の数値において平均値を下回る数値で安定したため、初期の数値を異常値として判断し、魔力総量まりょくそうりょうは平均以下として判断する。実技試験においては今回の試験においてトップクラスであると評価する。刻印技術を使う場面が無かったことは先に述べたように魔力に対する能力に乏しいためだが、それを補って余りある戦闘技術は、試験を受けた者の中で随一であると認める。以上の評価を総合すると、評価できる箇所が戦闘技術であり、その点は高く評価できるが、そのほかの点で平均を大きく下回ることから今回の評価として不合格とするものである。』


 こればかりは、この学院に入ってから絶対克服こくふくしなきゃならない部分だ。


 魔力について深く理解すること。これから頑張ろう。


 ……眠くなってきた。寝るか。



 ――――入学式当日

 学院正面の門の前に立って見るけど、やっぱりでかいよなこの学院。


 この学院で俺は至天ウルドを目指すわけなのか。


 めっちゃワクワクしてきた。そんな感じで浮かれながら歩いているうちに入学式会場である、学院のでっけぇでっけぇ大講堂に着いた。


「編入生はこちらに手続きの書類を、高等部進級生は学生証を提示してくださいー!」


 受付に編入許可証と手続きの書類を提出する。


「はい、ではレオン・ノイアー君ですね。大講堂は右手の席にに座ってください」


 案内に従って、編入生の席に着く。ほかの編入生は昨日学院で過ごしたものが多く、ほとんどの席が埋まっていて、俺は最後列の右から3番目の席に座った。


 入学式が始まるまで大講堂の装飾を見ていると、


「あら、あなた、レオン君だったかしら」


 話しかける声のほうを向くと、昨日の編入試験にいたクロス家のご令嬢らしい女の子が座っていた。


「そんなあなたは、エドワード・グラハム?」


「はぁ?なにそれ。面白くないわよ」


 ……ったくこの手のお嬢さんはこういう会話をポキポキ折ってくれるもんだなぁホント。


 

 …………おい、あいつニーナ嬢と話してるぞ…………

 …………あいつ、編入試験の田舎者じゃないか…………

 …………レオンってやつだろ、でもあいつ実技の成績高かったらしいじゃん…………

 …………でも、昨日宿舎にいたか?ここにいるなんて何かの間違いだろ…………

 


「お互い人気者ね、レオン君。数奇の目であってもあなたに注目が集まってるのは事実。何より、昨日の試験の合格者を通ったわけじゃないんでしょう?どうしてここにいるかを教えてくれるかしら」


「これいうと怒るかもしれないけど、実のところ俺もなんで受かったのかわかってないんだよ……昨日学院長が「君の戦い方に感動した!」って言ったっきり俺に編入許可書渡してきただけだもんな」


「あ……あなた、学院長に認められて編入したってことなの⁈悪質な裏口入学よりよっぽど話題になるわね……」


「筆記とかボロボロだったもんな。ニーナはどうだった?よかったら勉強教えてくれよ」


「あら、知らなかったかしら。筆記に関してはあたしが編入試験トップよ」


「げ、もしかして自慢してるわけ?」


「自慢じゃないわ。ただあなたが聞いてきたから教えてあげただけよ。それに、総合成績がトップってわけじゃないわ。それなら私はあそこに座ってるはずだもの」


 というと、そこには、『編入生総代』と書かれた花飾りをつけた生徒が座っていた。


「彼がアルス・カーフェン。彼が有名なのは、今回の編入試験を総合評価トップで通過したことだけじゃないわ」

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