第11話 死地の狭間で転生③
翌日――、これは何かの夢で、本当は既に俺は死んでいて、一生目が覚めないまま眠りにつくのではないかと思っていたが……、朝がきて、俺は生きていて、今日も朝がやってきた。
洋服棚から取り出した制服は埃を被り、袖を通すと、ごわごわして肌に馴染まなかった。久しぶりに袖を通した制服は、どこか懐かしく、その固さや重さが妙に落ち着いた。
さて、高知駅には土佐三志士像といって、日本の近代化に尽力した武士三名、武市半平太、坂本龍馬、中岡慎太郎の銅像が立っている。
高知なんてド田舎だと思ってたが……、思ったよりも人通りが多くて驚く。
家は『北本町』という場所で県道384号をまっすぐ行くと、高知駅にたどり着く。もう12月に差し掛かろうとしている時期なので、空気も乾燥して肌寒い。高知駅には観光客と思われるスーツケースを引きずっている人もちらほらいて駅周辺は活気に溢れていた。
改札口を通り、土讃線の各停伊野行に乗って、入明駅で降りる。入明駅から徒歩数分の場所にコイツが籍を置いていた中学校がある。
校舎は綺麗で私立中学校ということもあり、設備が整っていると思った。
中学校の制服は女子が青と紫のチェック柄で、紺色のブレザーに胸元に赤いリボンがあしらわれている。男子は白のカッターシャツに、ブレザーは共通で、赤いネクタイと紺色のズボンだった。
中学生の制服にしては大人びていて、どちらかというと高校生の制服に近い印象を受けた。正直、中学校の制服なんてダサいと思っていたのだが、これならデザイン的には悪くない。
俺は、少しだけ上機嫌になりながら、下駄箱で靴を上履きに履き替えた。
教室は3年3組――、ガラッと扉を開けると、クラスの視線がこちらに向く。異様な雰囲気だったが、俺はそれを気にすることない。教室に来る道中、職員室に寄って座席を聞いてきた。
窓際の一番後方の席が確かにポツンと空いている。
担任に話しかけた時の驚き方から察するに、もう学校には来ないものとは思われていたのだろう。俺は机の横にカバンを掛け、席についた。
隣の席に座っている人に話しかけてみようかとも思ったが、今まで登校してなかった奴がいきなり現れて、馴れ馴れしく話しかけても迷惑なだけだと考えてやめておいた。
窓の外を眺めると都会とは比べ物にならない、のどかで広い青空が広がっている。ボーっと窓の外を眺めていると、ホームルーム開始のチャイムが鳴り響く。
窓の外から教室へ視線を戻すと、担任教師らしき人が教室の扉を引いて入ってくる。
担任は20代後半くらいの女性で、セミロングヘアに眼鏡をかけている。白衣を着ていることから、理科の教師なのかもしれない。職員室で俺の席を教えてくれた人だ。
「じゃあ、出席を取るので……、呼ばれたら返事してくださいね」
そう言うと、次々に生徒の名前を呼んでいき、俺の番になった。適当に「はい」と返事は返しておいた。すると、担任はちょっとだけ驚いたような顔を浮かべる。
「そうそう、今日から守月君が学校に戻ってきてます。何か困ったことがあればフォローしてあげてくださいね」
担任がそう言うと、クラスメイト達はざわめき始める。「あの……、守月って……」「あいつじゃん」「なんで今頃になって」そんな声がちらほらと聞こえてくる。
まあ、いきなり教室に異物が混入すればこういう雰囲気になるのは、当たり前といえば当たり前か……。
ざわめきは次第に収まっていき、担任は出席の続きを取り続ける。「矢野さん」「はい」「力石さん」……、と名前を呼び続け、出席の確認は特に問題なく進んでいった。
久しぶりの中学校の授業はなんというか、ものすごく退屈だった。
特に授業の内容が頭に入ってくるわけでもなく、改めて体が変わっても俺は「勉強が特別好き」というわけではなかったんだなと実感する。分かる、分からないの問題ではなくとにかく興味がなさ過ぎて、何も頭に残らない。
「つまらないな……」
刺激のない日常はどこか退屈に感じる。一昨日まで、世界を目指してプロゲーマーを謳歌していたというのに……、今は学校で中学生と一緒に教室で授業を受けている。精神的には非日常体験であるが、非日常だったのは最初の一時間だけで、残りの時間はただの退屈な授業だった。
「はい、今日はここまでにします」
担任がそう言うと日直が号令をかける。
「起立、礼!」
その一言の後に『ありがとうございました』とクラス全員が声を合わせて言う。そして、教室の空気は一気に弛緩する。
昼休みになり、俺はカバンからスマホを取り出すと、電源をつけてネットニュースを漁り始める。俺は社会情勢がどうなろうと興味はなく、あくまで話題のホットなニュースを漁る。
ゲーム関連に絞ってニュースを見ていくが、めぼしいニュースはなかった。
「なんというか、どうすればいいのかも分からないな」
柳町俊吾は死んだ――、ゲームで世界を目指すという目標を失った俺はただの「抜け殻」でしかない。もう一度夢を追うにしても、あんな最高なメンバーをもう一度集めることは不可能だ。
それに、そんなことをしてしまったらアイツらに合わせる顔がない。
「はぁ……、今頃何してるんだろうな。みんな」
そう呟くと、背後から声がかけられる。
「ねぇ、君!」
「……っ!?」
急に声をかけられて俺は反射的に振り返ったが、俺の後ろには誰もいない。声の主を探そうと教室を見回すと、一人の女子生徒が笑顔を振りまきながら俺の方をジッと見ていた。
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