空色の偶像
まくつ
序
救いは現実にはなかった。
だから縋った。形のない虚像を網膜に投影して、嫌な物から目を背けた。
そうして気が付いた時には、現実からドロップアウトしていた。
*
不可視。詳細不明。居るのか居ないのかもわからない、されど人間を簡単に殺してしまう〈それ〉に、わたしの日常はいとも容易くぶっ壊された。
『感染防止のため、全国の学校を休校し――』
幼い頃から見慣れたお馴染みの総理大臣の言葉だった。その言葉はどうにも浮世離れしていて、日本語は分かるのにいまいち意味が飲み込めなくて、だけどなんとなく、ぼんやりと、頭の奧ではこれから始まる崩壊を予感していた。
未知の流行り病が世の中に出現したのは確か、去年の終わりごろだったか。
中学一年生なんて無知な子ども以外の何者でもない。なんとなくニュースを見て、漠然と「怖いな〜」って思うだけ。根拠のない科学信仰に浸って、希望的観測を決め込んでいた。
だけどことはそんなに簡単ではなかったらしく、日本で最初の感染者が出たあたりから風向きは変わり始めた。歯車の欠けた時計が狂っていくように、日常は変わっていった。
COVID-19の感染拡大に伴う緊急事態宣言が発表されるのに、そう時間はかからなかった。
そうして、早すぎる春休みが始まった。
当たり前の居場所を突然奪われた子どもがどうなるかなんて誰もが簡単に予測できたはずだ。だけどそれ以上に、わたしたちを取り巻く世界は危機的だったということなのだろう。それを知るのは、もう少し大人になってからだった。
わたしはまだ子供だった。
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