11話 それでも君を愛する
「意味がわからないんだけど。乃愛は乃愛だろう。」
私は、ガーナでの事件のことを話した。
そして、脳死状態の乃愛に脳移植をしたことを。
そして、乃愛として暮らしてきたことを。
「ごめん。突然すぎて混乱していて。今日は帰る。」
そうよね。もと男性となんて気持ち悪いでしょう。
乃愛への愛情を奪う権利なんて私にはない。
それから1週間、隆一からの連絡は途絶えたの。
私の心は寂しさに押しつぶされそうだった。
これまで毎日、メッセージが来ていたから。
朝起きると、私の部屋の窓から真っ白な風景が広がっていた。
雪が降ったのね。
どおりで、体の底から冷えると思ったわ。
私が住む4階からは、屋根が真っ白な家々が広がっている。
純白な街はとてもきれい。
でも、お昼には、多くの人に踏まれ、泥だらけになるのね。
今の私みたい。
私は、乃愛の体を借りて、勝手に可愛い女性になっていると勘違いしていた。
可愛いのは乃愛。私じゃない。
私は、男性でもなく、女性でもなく、醜い生き物。
そんな私は愛される価値なんてないのよ。
隆一だって、気づいたはず。
自分の愛した女性ではないということを。
こんな私が純白であるはずがないもの。
隆一と別れて、よかったんだと思う。
こんな私が幸せになれるはずがないもの。
ベットから出ると、タンクトップだけの私は寒さに震える。
気持ちを保つために、もう少し温かい鎧が必要ね。
正論はわかっているけど、それだけでは寂しい気持ちで押しつぶされそう。
もう恋なんてできる立場じゃないわね。
こんな醜い私だもの。
その時、ドアのベルが鳴った。
「隆一じゃない。どうしたの?」
「あれから、いっぱい考えたんだ。僕は、たしかに、乃愛の外見が好きだった。でも、それだけじゃない。輝光ゼミナールの頃は、乃愛と話したことがなかったけど、再会した乃愛は本当に心が美しかった。純白だった。そんな乃愛に僕は心を奪われたんだ。脳移植をする前の乃愛じゃなくて。」
私は、ただただ、隆一の目を見つめるしかなかった。
「乃愛、君は、僕が落ち込んでいたときに、ずっと横で励ましてくれたね。また、迷子の子供をずっと世話して、母親を見つけるためにいっぱいの時間を割いていた。老人がころんだときに、助け、病院にまで一緒に付き添っていた。清らかな心を僕は愛していたんだ。たしかに、乃愛の外見がきっかけだったことは認める。でも、それだけじゃない。」
隆一は笑顔で私をただただ包みこんでいた。
「男性だったって、そんなことは関係ない。君は、女性の体の中で、すっかり女性として暮らしてるじゃないか。いや、どんな女性よりも女性らしい。むしろ、脳死だった乃愛の体を、これまで大切にしてくれてありがとう。君がいなければ、乃愛はもう死んでいたんだから。本当のことを言うのは辛かっただろう。でも、僕は、打ち明けてくれて感謝している。これから、ずっと、君のことを大事にするから、僕と、また一緒に暮らそう。うんと言ってくれ。」
晴れた陽の光が私達を照らす。
純白の雪の街は私達に拍手を送ってるよう。
私も幸せになれる。
私の頬に雫が落ちていく。
隆一が私を抱きしめてくれた。
温かい。幸せな気持ちってこんなに温かいんだ。
私も、隆一の背中に手を添える。
ずっと一緒にいたいと言いながら。
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