愛していたのに。

こよい はるか @PLEC所属

君が私を狂わせたんだよ。

 君が私を狂わせたんだよ。


 だってそうでしょう?


 私は何も悪くない。


 ただただ、君を愛しているだけなのだから——。




 見開いた瞳が、久しぶりに私の瞳を捉える。

 曇ってて、未来なんかないんだって自覚しているようだった。


 君の無垢な瞳は、何処かに消えてしまった。


「……生きろよ」




「ねぇ、君?」


 問いかけた先に、君はもう居ない。


 だって私が、この手で……屋上から突き落としたから。


「君……」


 私って、何がしたかったんだっけな。


 生徒と先生は食中毒で死んだ。この状況に乗っ取って、私も君を突き落とした。


 そう、この学校には誰も存在しないんだ。

 ——狂った瞳の、私以外。


 フェンスの奥に、夕陽が見える。

 まるで存在自体があやふやになっているように、何かに気圧されているように、少しずつ地平線へと沈んでいく。


 この学校のみんなの命だって、消えてしまった。沈んでしまった。

 どうしよっかな、私は。


 この世界に私と君以外要らなかったのにな。なんで君さえも消してしまったのだろう。


 やりたくなかったのに。君には死んで欲しくなかったのに。


 心の蠢くままに衝動的に動いたら……この結果。


 君の居ない世界になど、私の生きる意味はない。


 君が居たからこそ、私の毎日は眩しいほど明るかったから。


 でもその君を私は、自ら、この手で——消した。


 なんで、なんで。もし私が死んだとしたって君には生きて欲しかったのに。


 君のせいだよ。君が居なければ。君さえ居なければ、全て消さなくて済んだのに。


 私を狂わせたのは君だ。私は悪くない。私をどうしようもないほど溺れさせたのは君なんだよ。


 分かってよ。


 そうだ、だから私は君を突き落としたんだ。君のせいでみんなが消えることになったんだから。当たり前の落とし前だよ。


 だったら、狂ってる私も消えた方がいいのかなぁ。

 特に何も考えず、フェンスに手を掛けた。


 その時。


『……生きろよ』


 さっき君が消える前に言った言葉が、頭に蘇ってきた。


『生きろよ、生きろよ生きろ生き……』


 全ての方向から押し潰されるように反響して重なっていく、何よりも好きだった君の声。

 やめて、やめてよ。私は消えるんだよ。狂った私は消えなきゃなんだよ。


『生きろよ』


 残響が頭の奥でぐわんぐわんと鳴る。

 やめて。


 狂ってしまったんだから仕様がないでしょう?

 こんな私は消えた方が良いんだよ。


 でも……虚しくも、私の瞳から涙がこぼれ落ちた。


 そんな必死に、君に言われたら。手を離すしかなくなるじゃん。


 君が私を狂わせたのに。なんて、なんて自分勝手な。




 ——そう思っても未だ君を愛してる気持ちは消えないんだよ。


 良いところも悪いところも全部含めて、君なんだから。そういう君を好きになったんだから。

 嫌いになれるはずがないじゃない。


 涙を制服の袖で拭う。このブレザーだって、君と同じだった。失いたくなかった。


 だからこそ——私の落とし前を。




 私を狂わせた君の為に、私はいつまでも消えない。

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愛していたのに。 こよい はるか @PLEC所属 @attihotti

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