ぼっちでダンジョン配信してたら賞金1500億円のデスゲームに巻き込まれたので、のらりくらりと生き残っていきます

古野ジョン

第1章 デスゲームへの招待

第1話 取り柄は運動神経

 鳥の鳴き声が響き渡り、植物が風に揺れてさわさわと音を立てている。俺は地面にぱらぱらと米粒を撒いて、そのすぐ上に木の棒で支えられたかごを設置した。物音を立てないように気をつけながら、近くの木の陰に隠れる。


「今日はね、ジャパニーズ・ライスの魅力がダンジョンの鳥たちにも伝わるのか検証してみたいと思います」


 ささやくようにしてマイクに向かって声を出す。カメラ代わりのスマートフォンはしっかりと罠の様子を捉えており、既に画面上は多くのコメントで埋め尽くされている。


『罠がギャグ漫画すぎない?』

『本当にあれで捕まるの?』

『よく日本米が手に入ったな』

『やっぱりコシヒカリなんか?』


 ここで気にするべきは米の品種ではないだろう、というツッコミを飲み込んで、じっと罠の方を見つめた。ここは深い森の中。さっきからバサバサと大きめの鳥が羽ばたく音も聞こえてきている。


「あっ、来たぞ……!」


 その時、一羽の小鳥が米粒に向かって歩いてくるのが見えた。雀に似ているが、羽の先端は金色に輝いており、神々しさも感じられる。俺がスマホを鳥の方に向けると、コメント欄が一気に騒がしくなった。


『ウッソだろww』

『意外と鳥ってアホだなww』

『俺でもダンジョン攻略出来そうww』


 日本ではまだ朝早くのはずだが、こんな時間でも米粒をついばむ鳥を見に来る視聴者がいるらしい。暇なのかな。


「よし、じゃあ紐を引いて……」


 鳥はすでにかごの真下まで来ている。あとは木の棒についた紐を引けば、かごが落ちて捕まえられるはずだ。やれやれ、今日の配信はあっさり終わりそ――


「あ、棒に紐つけるの忘れてた」


 やべ、しくじった。


『なんで!?』

『【悲報】タロー、鳥よりアホだった』

『鳥さんチュンチュンでワロタwww』

『ただの餌やりwww』


 画面上には俺をバカにするコメントが溢れかえっている。別に配信が盛り上がればそれだけ収入に繋がるから構わないのだが、それはそれとしてカッコ悪い印象のままで終わるのも嫌だ。……ここは強引に行くか!


「予定変更っ!」


 俺は木の陰から飛び出した。鳥は驚き、羽ばたこうとするが――そんな隙など与えない。足で素早く地面を蹴りだし、かごを跳ね飛ばして右手で鳥を鷲掴みにしてしまう。何をされたのか分からないようで、鳥は呆然とした様子で鳴き声を上げていた。


「ピイッ!? ピピイイッ!」

『!?』

『今なにした!?』

『速すぎて見えんかった……』

『たまに出るよな、タローの神運動神経』


 半ばヘッドスライディングのように地面に突っ込んだが、ゆっくりと身体を起こしてスマホの画面を見る。お、コメント欄が盛り上がってくれたようで何よりだな。


「見てこれ、金色の鳥だー」


 やはり羽の色は金だ。これを見ると、このダンジョンにいる獣たちが今までの地球に存在していたものと異なることをはっきりと認識させられるな。


『その鳥どうすんの?』

「持ち帰って晩ごはんかなー。馴染みの店で焼いてもらう」

『食えんの?』

「昔は雀とか食ってたらしいし、いけるんじゃない? さ、帰りますよーっと」


 森を出て、すたすたと歩き出す。幅が二メートルはありそうな川をひょいと飛び越え、店のあるエリアに向かっていった。

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