私の恋、終了のお知らせ!?
結城ユウキ
第1話 夢、ときどき現実
私が通う高校には────二人の美女がいる。
「ねぇ、あれ!」
どこからともなく聞こえてきたその声で、廊下にいた生徒の視線は一点に集まる。
それだけじゃなく、教室にいた生徒がわざわざ廊下まで出てくるほど。
そんな私も皆と同じく、廊下の端で目的の人物を待つ。
男女問わず、全ての人が見つめるその先にいるのは────
「はぁ……マジ最悪。なんで分からないかなぁ。普通は雰囲気で察するっしょ」
「言わなくても分かるのなら、この世界に言葉は生まれてないわ」
遠くからでも分かるほど険悪な空気の二人。
一年生ながら、この学校の二大美女として学校中で知られている有名人なんだけど……。
この二人は、絶望的に仲が悪かった。
これだけの注目を集めているところでも、口喧嘩をするほどに。
「アンタみたいにお堅いと、生きるのマジ窮屈そ~」
この、見た目や喋り方がいかにもギャルっぽい人が──
陸上の全国大会で優勝をしたスポーツ万能の美女。
金色に近い明るい髪と着崩した制服がオシャレで、すごく可愛い人だ。
「あなたみたいな人間は、いずれ自分の生き方に後悔することになるでしょうね」
こっちの、立ち振る舞いや言葉がいかにも真面目そうな人が──
この間の全国模試で一位を取った、成績優秀な美女。
艶のある長い黒髪と、一つ一つの所作に上品さを感じてすごく綺麗な人だ。
ビジュアルだけじゃなく得意なものも真反対な二人。
だけども、容姿端麗、才色兼備なんて言葉は、この二人のためにあるんじゃないかと思うほどだった。
「あの二人は相変わらずだなぁ……」
「あっ、あかりも見に来たんだ?」
そんな言葉とともに肩口から覗き込んできたこの子は────私の数少ない友達の、
周りはあの二人に夢中だけど、あかりの顔もかなり可愛いと私は思う。
「今日もすごい言い合い……」
「二人とも可愛くて綺麗だよね~」
「……ホント、顔が良い人好きだね」
「うん、あの間に挟まりたい」
「ホントになに言ってるの?」
首を傾げるあかりを見て、私も同じように首を傾げる。
「えっ、付き合いたくない?」
「どっちと?」
「どっちも!」
「私は優美子ちゃんの将来が不安だよ……」
あまりにも当たり前のことを聞いてくるもんだから、つい声が大きくなってしまった。
選べるのなら、どっちも選ぶに決まってるじゃん。
到底、私なんかが手の届く人たちじゃないんだけど。
「なんであかりは分かってくれないのかなぁ」
「憧れはするけど付き合いたいとまでは……。だいたい、あの二人って女子じゃん」
「顔が良ければ性別はどうだっていい! あの二人は、私が生きてきた中で一番の顔の良さだから! それに恋人になったら、思う存分にあのご尊顔を見つめて摂取できるんだよ?」
「一番が二人いるのは、ツッコまないでおくね……」
そうして今日も一日、遠くからただ拝むだけの私の平凡な時が過ぎていく。
帰り際、先生に頼まれてノートを運ぶのを手伝っていたら意外と遅くなってしまった。
「手伝わせて悪かったな。気をつけて帰れよ」
「はい、さようなら」
夕日が差し込む廊下は部活動の声こそ聞こえてくるものの、人の姿は見えない。
私だけのちょっと静かな廊下。
普段は通らないところというのもあって、新鮮な気持ちにもなる。
「昼間はごめんなさい、冗談でも言い過ぎたわ」
「気にすることないって。うちもごめんね?」
「ん……っ?」
ふと、微かに聞こえたような気がする声に私は足を止める。
この声、どこかで……。
「本当はめっちゃ大好き」
「私も……す、好きよ」
再び聞こえてきた声で、私の頭の中には、ある二人の姿が思い浮かんだ。
でも、そんなことはありえないはず……。
どうしても気になった私は、足音をたてないようにして声のする場所を探す。
「照れてるの可愛い」
「うるさいわね。しょうがないじゃない」
「……ここからだ」
閉めきられた空き教室。
バレないように息を潜めながら、ドアのガラス窓を覗き込んでみると────
「…………っ!」
目に飛び込んできた光景は信じられないものだった。
動揺して鞄がドアに当たってしまったけど、そんなことは気にせずに必死に廊下を走る。
私、
乾さんと九条さんが────キスしているところを。
────ジリリリリリリリリッ。
「ん……んんっ。もう、朝ぁ?」
脳まで響くような目覚ましの音が聞こえると、重たい目を擦りながらなんとか身体を起き上がらせる。
普段よりも身体が重い……。なんか悪い夢を見たような気がするし……。
それに何故だか、心臓がドキドキしている。
「優美子~。お友達が迎えに来てくれているわよ~」
「は~い」
ドアの向こうから聞こえてきたお母さんの呼び掛けに、私はまだ寝ぼけた声で適当に返す。
迎えに来てくれているなら急がないと。
「……えっ、迎えに?」
友達って言っても、あかりは私と反対方向だから来るわけないし……。
他に私の家を知っているような人はいないはず。
ってことは、その友達を名乗ってる人は誰だろう。
もしかして、お母さんを騙して家に入り込んだ泥棒だったり……。
慌ててベッドから飛び起きると、短い廊下を走ってリビングへ駆け込む。
「お母さん! その人は私の友達じゃ……」
「あっ、おはよ~! って、寝癖すごっ!?」
「おはよう、日坂さん。コーヒー、ごちそうになっているわ」
「えっ……えぇぇぇぇぇぇ!?」
私の目に飛び込んできたのは、ここにいるはずのない人たち。
四人掛けのテーブルに並んで座っている、乾さんと九条さんだった。
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