芥Ⅱ ー 波動砲編 ー

青山 翠雲

第1話:帰還

 塵・芥のようなくだらない夢であったが、惑星“エーアデ”からの脱出&地球への帰還が果たせたのかどうか、そして、帰還を果たした際に自分がもたらす衝撃のレポート内容がもたらす地球社会へのインパクト、なぜエーアデ世界の人々がそれほどの殺傷力があるとも思えない「戦略核 中精子爆弾」をあれほどまでに恐れ、また、コスモクリーナータイプEとしての高値転売ができるという真鑑じんがん和尚の預言の真意真相がどうにも気になって仕方がなかった。また、夢とは分かりつつも、妙にリアリティさを伴っていたその夢の続きが見たくて、翠雲氏は二度寝を貪ることとした。さらなる淡い夢精への期待から強壮剤を2本も飲んだため眠れるか不安だったが、幸いにも眠気が再度襲ってきてくれ、眠りに落ちると、逆に夢の中の私は目を覚ますところだった。



 そこは、飴利後アメリゴ合衆国のとある病院のベッドの上だった。

 「あらっ、目が覚めたのね?ちょうど朝の清拭にきたとこなのよ。心配したわ。だって、あなたずっとうなされながら3日間も寝てたのよ。昨日もうなされてたから、汗かいてるでしょう?さぁ、じゃあ、サッとまずは清拭を済ませて、サッパリとしちゃいましょうか?」

 首が痛くてなかなか回らず、また焦点がなかなか定まらなかったが、視界がはっきりしてきて、ビックリ、そして、ウットリした。サラッサラの長い髪を靡かせたそれは美しい顔立ち、そして、見事なプロポーション、そしてなんと卑猥なナースの制服!ミニスカートから白のレーストップガーターハイストッキングが覗いて見えている。


 やはり、戻ってきて正解だった!目の前に映っている自分も嬉しそうなのが分かる。こんなシーンから小説に書いてしまえば、フロイト編とは違って、本作においては、きっと男性読者をもちろんのこと、読み始めた者すべてが、のっけから釘付けだろう。


 「はい、じゃあ、じっとしててね。」美人ナースが手際よく私のパジャマのボタンを外していき、そして一気にパジャマのズボンも下ろした。

 「あらっ!?あなた、今日も!ふふっ。あなた、スゴイわね。毎日、夢精してるのよ。これで3日連続!ちょっと、待ってね。先ずは回収しちゃうから。」

 「へっ!?拭き取りでなくて、か、回収?」と怪訝に思っていると、これまた手際よく小さな塵取りみたいなもので、私の下腹部の上に溢れている白い液体を回収し、「In Sperma」と書かれた瓶の中に回収していく。心の中で(ん?「In Sperma」ま、まさか「中精子」?俺のまで爆弾の素材にされちゃうの?などと思っていたら、美人ナースが「イヤぁーだ。あなた、まだビンビンぢゃない!?あなた、強壮剤でも飲んできたの?もう一本フレッシュなのを採取しておきましょうか?」言うが早いか、大きく胸元が開いた制服を前傾姿勢にして中が見えそうな角度にしつつ、人体に詳しい美人ナースが指を添えて少し刺激を加えるとたちまちのうちにもう1本の絞りたてのものが、直接瓶の中へ勢いよく採取されてしまった。採取されながら、これぞ、ダイレクト イン スペルマ ダイナマイト!などとクダラナイことを考えてしまう。

 「まぁ、まだまだ採れそうな感じだけど、まぁ、これ以上は身体に差し障りが出るでしょうから、このぐらいにしておきましょうね。じゃあ、清拭したら、着替えを済ませてね。この様子なら、今日、退院できそうね。」そう言って、清拭が済んだ際、耳元で囁かれた「ねぇ、あなた、この3日間、一体どんな夢を見てたの?知りたいから後で、ナースセンターにちょっと寄って。渡したいものもあるし。チュッ。」

 全身に電流が走った。その刹那、吹いてもらったばかりの下腹部から胸元に至るまで再び白い液体で汚してしまった。

 「ちょっと、あんた本当にスゴイわね。世話焼かせるんだから、もう。」再び手際よく回収され、綺麗に拭いてもらった。

 「じゃあ、これ以上。巻き散らす前にキチンとしまってね。じゃあ、後で必ず寄ってね。」

 私は心の中で思った。(入院を延長するにはどうしたら、いいですか?そして、明日からの夢はあなたの夢を見ます!と。)そんな願いも虚しく、退院が決まった。オフホワイトハウスで倒れたということもあり、政府系の病院で入院費の負担なしに退院することができた。嬉しいやら悲しいやらで、ナースセンターに挨拶にいくと、先のナースが休憩中だったのか、珈琲カップを手に出てきてくれた。

 「あらっ、やっぱり退院なのね。嬉しいようで、ちょっぴり悲しいわ。」

 「あっ、あの、いろいろ、ありがとうございました。僕も退院、ちょっぴり悲しいです。これからの夢はあなたの夢をみたいです。せ、せめて、お名前だけ、教えてくださいませんか?」

 「私の名前はスジャータ。イースト館東病棟のスジャータよ。」

 「イースト館のスジャータ。美しい名前だ。」

 名前を呼ばれたスジャータはおもむろにカウンターの上に珈琲カップを置くと横を向き、美しい顎をクイっと上げ、天窓から差し込む光を見上げるようにしながら、細い腕をその光に両の手を天に少し差し伸べるように上げたかと思うと、その高い位置からいつのまに手に持っていたのか、珈琲ミルクポーションを珈琲カップの中に垂らした。その光景は、まるでソフトフォーカスがかかっているかのようであり、そして、注がれるミルクは、見ようによっては、天から注がれているようにも見えれば、口から垂れているようにも見え、また、大きくはないものの形の良い乳房から注がれているようにも見え、そのセクシーな白衣を纏い、高みから珈琲ミルクを注ぐスジャータの姿は、文字どおりの白衣の天使を彷彿とするばかりか凌駕するほどで、その姿はもはや神々しく目に映り、またなんとも言えずエロティシズムを感じさせる一枚の絵のようであった。かつて、小さい頃にみた、アニメに出てくる美しい王女のようだった。


 何のパフォーマンスだったのか分からないが、その姿は強烈に僕の印象に焼き付けられた。スジャータが再びこちらを向き直る。


 「あっ、それとね。渡すものがあるって言ってたのは、これのことなの。あなた3日間も寝てて、食事もしないのに、毎日、夢精してたでしょ?どんどん、体力も奪われちゃうかなと思って、いつ目が覚めるか分からないし、今日からは点滴を投入しようかと思ってたの。これ、点滴薬としてしかまだ認められてないんだけど、強壮剤にもなるっていうし、あなたの特徴が特徴だから、もう処方したことに書類上はしてあるのよ。だから、はい、投与しようと思っていた強壮剤はあなたにあげるわ。あと、もう一つ。はい、これ、私からのささやかな退院プレゼントよ。でもね、これ、世界が滅亡するかも!って思うぐらいの時になってからじゃないと開けてはダメよ。これは本当に大事。いい、これは私との約束。いいわね?じゃあ、元気でね。また会いたいけど、もう、ここ病院には来ちゃダメよ。

 嫉妬しちゃうから、やっぱり貴方がどんな夢を見てたかは聞かないわ。これは、あなたがというか、あなたを取り巻く世界が終わるー!っていうような時が来たと思った時に開けて。それまでは、絶対に開けちゃだめよ。いい?分かった?」

 「はい、分かりました。でも、なんでこれを僕に?」

 「占いっていうか、昔からの私の先祖の言い伝えで、あなたの前にスーパーマンみたいな驚くべき能力を持った人が現れたら、その人にその箱をあげなさい、って。あなた、入院して寝てるのに3日連続夢精で、その後、起きたての2回連続発射でしょ!?あきれたっていうか、凄いなっって思ったの。だから、それが今日かなって。」

 「じゃあ、スジャータさんの記憶に残ったということで、ありがたく頂戴しておきます。病気にはなりたくないけど、また会いたいですし、会えるような気がします。」「翠雲さん、私もよ。貴方には、またいつか逢える日が来るような気がする。それじゃあ、私、もう戻らなきゃ。箱はその時が来るまで、決して開けちゃダメよ。」

 くるりと背を向けると、刺激が強すぎのセクシー白衣のミニスカートから伸びるスラリとした脚をモデルが歩くような1本の線の上を歩くような歩き方で病院なのにヒールのある靴音を響かせながら優雅に立ち去っていく。美しい長い髪もまばゆいばかりに光輝いている。腰とお尻がなまめかしいほどに揺れるような歩き方に見惚れ、僕はその後ろ姿だけで、ズボンの中のものを再び固くさせてしまっていた。


 するとナース部屋に入っていこうとする直前、突然振り向き、まるで天から降ってくるような声で言った。


 「私はイースト館東病棟のスジャータ。貴方が来るのをお待ちしています。」

 アルカイックスマイルを残して、部屋の中へと姿を消した。


 その美しい笑顔に暫し見惚れていたが、やがて我に返り、病院の出口へと歩を進めた。


 病院を出ると、私は真っすぐにこの惑星に不時着したポイントに向かった。様々な調査活動や入院やらを経て、ちょうど3週間が経っていた。宇宙飛行運航AI搭載システムであるクラウドワンは、地球への帰還軌道ルートの算出をもう終えただろうか?地球への帰還ルートと行っても、一直線に飛んで行けばいいというものではない。いくつもの銀河系を出たり入ったりするためには、引力等に負けないための速度や、入射角を誤るとそのまま惑星に衝突してしまったり、ブラックホールの回避などがあるから一筋縄ではいかないのだ。もう、終えてくれているといいのだが。スジャータの美しい姿を思い出し、後ろ髪を引かれる思いだったが、拘束される危険だってもちろんあるため、宇宙船へと急いだ。


 宇宙船へ到着すると、ちょうど、地球への帰還軌道航路算定が終わったという。幸い誰にも見つかっていないようだ。こうなると、拿捕や攻撃を受ける前になんとしてでも、早急に飛び立つべきだった。地球にもこのミラーリングともいえる人が住む惑星の存在をレポートしないわけにはいかない。世紀の大発見である。歴史に名も残せるだろう。しかし、それは伝えてこそである。


 「クラウドワン、現在、離陸可能か?」むやみ、やたらと飛び立てばいいというものでもない。公転位置、自転による加速度を加味できるか、その惑星重力等との兼ね合いなどもある。

 「Teacher、あと10分後がベスト離陸タイミングです。急いで宇宙服に着換えてください。

 「ラジャー。この機を逃してはいかん。」

 10分後、宇宙船ドラゴンフライは、惑星“エーアデ”から無事に飛び立ち、地球への帰還飛行ルートに入った。翠雲氏は、この3週間の惑星探査の詳細なレポートを作成し終えたところで、クラウドワンへ語りかけた。「惑星探査報告書を書き終えた。ここからでは、地球への通信も無理であるし、直接報告した方が相応しい内容でもある。私も、緊張の連続で疲れたので、クラウドワンに運航を託して、暫く低体温睡眠装置で長い眠りに入るとする。地球に近づいたら、起こしてくれ。」

 「Teacher、了解しました。それでは、ぐっすりとお休みください。」

 翠雲氏は、ようやく眠れることに安堵し、急速に訪れてきた睡魔に身をまかせつつ、低体温睡眠装置に早速入って横たわった。眠りにつく直前、「惑星“エーアデ”は、我が地球に非常に似ていたが、防空システムは一体どうなってるんだ?着陸から3週間同じところに居続けたが見つからなかったし、飛び立つ時も一機も追撃機やミサイルも飛んでこなかった。僥倖なのか、整備が遅れているのか。それとも・・・?何か疑問が脳裏を翳めたが、折からの睡魔と低体温睡眠装置の機構により、深い眠りへと入っていった。。。

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