また会いましょう。

琥珀結玲

また会いましょう。

「ー私たちの旅立ちを記し、当事といたします。」


とうとう卒業の日が来てしまった。

寂しい気持ちとこれから楽しい気持ちでいっぱいだった。

一つ心残りなのは後輩のえなちゃんだ。彼女は人一倍私をすいてくれていたと思う。部活がある日は一番に私に駆け寄ってきてくれたし、私が誰かと話しているとじっとこっちを見つめていたし。ほぼほぼ間違いなく私のことが好きだと思う。

自分で言うのもなんだが私はモテる。女性にしては身長が高く、誰にでも気さくで話しやすいから。人から告白されると断れないから今まで付き合った人は多くいる、中には男の子もいたし、女の子もいた。

今までの子は告白されたから付き合ったという感覚が強い、今まで好きになった人は1人だけだ。と思う。

最近その人に彼女がいたことを知って絶望に打ちひしがれたところだ。

あの人はきっと今幸せなのだろう。それなら良いんだ。だって、私優しいからね!うん!


『桜子、それえなちゃんのこと好きなんじょないの?』


急に親友の岬に言われたことを思い出す。その時はえなちゃんのことが好きとかないと思うみたいなことを言って適当に流したっけ。懐かしいなあ。

確かにえなちゃんは優しいし、人当たりがよく何をしても人並みにできる良い子だ。そんなこと私では不釣り合いだし、何より彼女には私の同級生の中に好きな人がいるらしいのだ。これでは私に出る幕がない。


なんてことを考えていたら卒業式が終わってしまった。

拍手をされながら会場を後にする。退場の際にふと在校生の方に目をやるとえなちゃんと目があった。えなちゃんは泣いたようで目が少し赤くなっていた。


教室に戻りクラスメイトたちと最後の別れをする。解禁された携帯を取り出しみんなで写真を撮っているとえなちゃんからメールが届いていた。


〈時間があったら少しだけお話がしたいです、いつもの部室で待ってます。〉


二言だけだった。なぜか緊張して心臓が痛い、卒業式後に呼び出しだなんて意識しない方が難しいだろう。


「桜子?顔真っ赤だけどどうかした?」

「なんでもないよ?」


友達から見てもわかるくらいだったらしい。気をつけなければ。

にしても話ってなんだろう気になって同級生たちとの会話が疎かになってしまう、


「さくちゃん、そっち抜けてきたら?えなちゃん待ってるんでしょ?」


急に言い当てられてぶわわっと顔が熱くなるのを感じた。


「さくちゃんがそんなに顔に出るなんてえなちゃんくらいだし、わかりやすいよ?」

「う、嘘、!」


嘘、というか、えなちゃんの事は好きとかじゃなくて、後輩としての距離感ってだけで、って何言い訳してるんだこれじゃまるで本当にえなちゃんのこと好きみたいじゃん、


「はいはい、とりあえず行ってきな。」


背中を押されるまま教室を後にした。部室に行くまでにぐるぐるとえなちゃんとの記憶が駆け巡る。何度思い返しても可愛い後輩に間違いはなし、

部室のドアの前に立つと緊張で心臓が苦しくなった。

大丈夫、きっと普通の話だえなちゃんとはそういうことにはならない。

一呼吸おいて部室のドアを開ける、もうすでに懐かしく感じる香りがふわっと私の鼻をくすぐった。

私は一瞬えなちゃんに見惚れていたと思う。窓の外を眺めていた彼女はこの世の誰より美しかった。


「えなちゃん、お待たせ、来たよ。」

「あ、先輩。」


震える声を隠しながらいう。


「えっと、その、今日は先輩に言いた…渡したいものがあって、」

「私に?」

「はい。ご卒業おめでとうございます。」


そう言って彼女が手渡してくれたのは色紙だった、私あてにメッセージとイラストが添えてある。入部したての頃えなちゃんと話した好きなキャラだ…あれ以来一度も話していなかったのに。覚えていてくれたんだ…。


「では、それを渡したかっただけなので…!お時間とらせてすみません!」


そう言ってそそくさと部室を出ようとえなちゃんが私の横を通る。

私は無意識にその手を掴まえていた。


「え?先輩?」

「あ、いやその、言いたいことありそうだったから。」


咄嗟に出た変な文句に自分で後悔しながら掴んだ手を離せずにいるのは何の矛盾だろうか。本当に私は…


「先輩。私、あなたのことが大好きなんです。」


そういったえなちゃんは照れてそっぽをむいていた。

私も同様に頬が高揚するのを感じる。いつもなら見れるえなちゃんの顔を直視できない。私本当にえなちゃんのことが好きなのかな。

今まで付き合った人と同じでまた、振られるんじゃないのかな。

でも、そんな不安よりも今は、気持ちが私を突き動かす。


「ありがとう。私もえなちゃんのこと大好きだよ。」


えなちゃんは弾かれたようにこっちをむいた。普段は目を合わせるのが苦手な彼女と目が合う。えなちゃんの瞳ってこんなに、綺麗だったんだ。


「これからよろしくお願いします。」


にっこり笑って伝えるとえなちゃんは頬を染めたまま瞳を私から離さず頷いてくれた。この人だったらきっとこれからも好きでいられる、久しぶりに感じたこの感覚は私が恋を思い出すのには十分な気持ちだった。


拝啓、昔好きだった人へ。

 春の風が吹き暖かくなってまいりました。あなたと離れて忘れていた恋をたった1人の優しい人のおかげで取り戻すことができました。実らない恋をくれてありがとう、あなたは私の1人目の運命の人です。‘別れ’を教えてくれてありがとう。私は新しくできた大好きな人とこれからを過ごします。

 どうかあなたの人生にも幸多からんことを。

                    また、会いましょう。

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また会いましょう。 琥珀結玲 @kohaku_pinnku

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