ガチャ007回目:検問

 ガチャの筐体に書かれた貼り紙を、改めてもう1度見直す。注意深く読み返しても、内容に変化はなかったが。


「どう見ても、見間違いなんてオチじゃないようだな」

『プル~ン……』


『所有者のレベルを消費して豪華景品をゲットしよう!』

『10回ガチャを回す事でURランク以上が確定で1個以上出ます』

『ボックスの残り100/100』

『消費レベル:30』


 最初からUR確定はデカいが、完全に10連のみに変更された上に、消費が初手から10ではなく30に引き上げされている!

 未知の世界でガチャを回せるならと安堵していたが、これはちょっと不味いな。向こうでは雑魚ですらレベルが10を超えてくるとスキル持ちが当たり前になっていた。そんな連中相手に回復手段も装備も金も、何も整っていない状態で挑むのは、かなりの自殺行為だ。かと言ってこんなステータスじゃ、背中を預けてくれるような信頼できる人間と出会うのも至難の業だ。そうなるには、それなりの『運』が必要になるだろうな。

 ……この世界の人間の平均がどの程度かは知らないけど、俺がステータスも『運』も最底辺にいるのは間違い無いだろうし。あれ? 詰んでね?


「……まあこうなっている以上は仕方ない。気を取り直して街に行こうか」

『プルン!』


 ガチャの筐体をしまい、森から顔を出して周囲を要チェックする。誰もいないなら、しばらくはイリスを腕に抱えて歩いて進もうかな。


「……あー、そういやこの手の異世界ものだと、街の門番に絡まれるイベントが定番だったっけ?」

『プルーン』

「だよなぁ。今の俺の『運』って以下だから、絶対良く無いことが起きるよなぁ」

『プル。プルプル』

「今、確定事項だから頑張って耐え凌ごうって言った?」

『プル! プルル!』


 おー。やっぱ合ってたか。

 ちゃんと通じてなくても意思疎通ができた時は、やっぱ嬉しいもんだよな。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうしてしばらくお喋りしながら街道を進んでいくと、イリスは自主的に服の中へと入り込んだ。俺もそろそろ衛兵に認識される距離かなと思っていたから、ちょうど良かった。

 実際、イリスが入り込んでから1分もしないうちに衛兵は俺を見つけると、顔を強張らせて武器を強く握り始めた。


「……まあ、警戒する気持ちはわかるよ」


 明らかに軽装の人間が剥き出しの短剣を3本も手に取って歩いて来てるんだから、悪意はなくても気味が悪いだろう。しかもその短剣、輝いてるし。

 俺だって立場が逆ならきっとそうする。

 そして距離を詰めていくほど衛兵達の緊張感は高まって行き、それを感じ取ったのか他の衛兵達もやって来て、合計3人の衛兵がこちらを睨みつける事態にまで発展してしまった。向こうの武装は剣、剣、槍。レベルもステータスも圧倒的に上だろうけど、覗き見るのは敵対行動になりかねない。ここは見ないでおくか。

 正直、普通の10代の子供ならそんな風に注目を浴びるだけで震え上がってもおかしくないレベルの威圧感だ。けど、この程度俺にはどうってことなかったので軽く受け流すが、それも良くなかったのだろう。ますます彼らの警戒度を上げてしまった。


「止まれ!」


 そこからさらに半分ほど距離を詰めたところで静止をかけられた。なので敵意も害意もないことを証明するため、短剣を足元に放り捨て、両手を上げた状態で立ち止まる。

 そんな思い切った行動が功を奏したのか、多少の警戒心は解けたらしく、剣に伸びていた手が下ろされた。


「何者だ」

「旅人です」


 そういうしかあるまい。旅人であることを証明するものは何も持ってないけど、逆に旅人でない証拠を出すのも不可能だろうし。


「荷物はそれだけか?」

「あー……」


 聞かれると思っていた問答が初手から来たな。

 イリスと相談……もとい、ほぼ一方的に話しながら検討した選択肢は3つ。

 1:盗賊に襲われた。

 →この辺一帯が治安の良い地域だった場合、存在しないものを警戒させることになるため却下。また、どうやって見逃してもらえたのか説明が難しい。

 2:安宿に泊まっていると泥棒に遭った。

 →これも1とほぼ同様のため却下。あと、真実ではない事を口にしてそれが原因で怪しまれるのも避けたい。なにせ異世界だ。万能な嘘発見器があっても不思議ではないもんな。

 というわけで、第三の選択肢だ。

 

「野営をしてたらゴブリンの集団に襲われて、着の身着のまま逃げて来た上に、連中を撒くのに森の中を突っ切って来たので、ここがどこかも分からず……」

「それは……大変だったな」

「それでそんな格好に……」


 衛兵さん達からめっちゃ同情された。

 ゴブリンの集団に襲われたのは事実だし、逃げて来たのも森の中を突っ切ったのも本当だ。何も嘘をついていないので、自信を持って言えたのが大きかったかもしれない。


「それでその、ここはどこです?」

「ああ。ランタスマ王国のガラナの街だ」


 うん、知らない国の知らない街だ。

 思った事をそのまま表情に浮かべていると、向こうはそれも読んでくれた。


「本当に知らなさそうだな……」

「それで少年、これからどうするか算段はついているのか?」


 少年? ……ああ、そういや今の年齢、17だったな俺。


「えーっと、とりあえずこの短剣を2本、武器屋さんにでも買い取ってもらえれば宿代になると思うので、あとはそこから生活費を稼ぐ採算が取れればと。身分を証明するものも失くしちゃったので、できればそれを確保するところから始めたいですね」

「なら、冒険者になる他ないな。発行には手数料がかかるが、冒険者証があれば身分になるし、金を稼ぐにはもってこいだ。それに、冒険者証が無ければ武器屋もそれを買い取ってはくれないだろう。冒険者証が無くても買い取ってくれる店はあるだろうが、買いたたかれるのがオチだ」


 ぐっ、そんな落とし穴が……!?

 あれ? お金が必要だけど武器を定価で買い取ってもらうには冒険者証が必要で、その冒険者証を得るにはお金が必要で、手っ取り早くお金を用意しようとすると二束三文で買いたたかれると。……やっぱり詰んでね?

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