ガチャ003回目:エンカウント

「ひとまず、冷静に現状を考えてみよう」

『プル!』


 まず、現在地……不明。変な惑星が見えるが、アレが月とは思えないし、地球から見える月は2つも存在しない。そしてここはダンジョンでも無さそうだ。ゆっくりとだがあの星は動いて見えるし、太陽によって発生する影も、目覚めた瞬間と若干違う気がしないでもない。だからここは、地球ではない何処か別の世界なんだと思う。


「異世界転生ってやつか?」

『プルーンプルプル!』


 イリスは大はしゃぎだ。イリスはよくリビングで、うちの子達と一緒にアニメを観まくっていたからなぁ。喜びを全身で体現している。

 にしても、転生にしては死んだ時の記憶はないし、俺自身下手打って死ぬような弱さでもなかったはず。数々のチートスキルにチート装備、頼れる仲間達や嫁達がいて、そう簡単に俺が死を選ぶとは思えない。それに……。


『プルプル』

「イリスはここに来るまでの記憶はあるか?」

『プル? プル……』


 ここには俺を知るイリスがいるしな。彼も同様に記憶がないみたいだし、いくら繋がりがあっても一緒に転生してくるとは思えない。なら、転生というよりかは、転移が正しいのか?

 けど、ステータスが妙な形でリセットされてる上に、若干若返っているんだよな。となるとただの転移だとも思えん。称号にもあるように、何者かの意図がありそうだ。


「イリス、現状俺達にはいくつかの問題がある」

『プル?』

「まず、ここは俺たちの知らない世界だ」

『プル』


 イリスは頷くような動作を見せた。


「だからまずは、人がいるところを探そうと思う。流石に人間が存在しない世界に来たなんて思いたくないしな」

『プルプル』

「で、問題はここからだ。街を見つけるのは時間をかければ何とかなると思う。俺の『運』の低さは懸念事項だが……『運』は高かったんだ。。それに賭けよう」

『プルーン』


 身体を波打たせ、不安を体現したような動きを見せる。


「次に、街を見つけて入れたとしよう。問題はここからで、この世界の金がない。金がなければホテルで泊まることも食事を摂ることもできない」

『プル!?』


 イリスは食事がなくても魔力さえあれば生きていける。スキルにも『魔力回復』が残っているため、やろうと思えば不眠不休で生きていけるだろう。

 けど、彼は食べることが何より好きな子であり、彼からそれを奪うのは死刑宣告と同じなのだ。彼は俺の大事な相棒であり、大切な家族で、俺の子供のような存在だ。

 彼に飢餓感を感じる器官はなくとも、そんなひもじい思いはさせたくない。


「だから、なんとかお金を工面する必要がある。この世界でもスキルがあるって事は、スキルが活用できる何かがあるはずだ。それで何とかお金を工面する方法を考えよう」

『プル!』


 全ては食事のため。イリスは気合いを入れるように飛び跳ねた。


「次に、目下の大問題は俺だ」

『プル?』

「ステータスが貧弱すぎるのもそうだが、本当に何も持っていないんだ。武器もなければポーチもない。服装も、完全にその辺をうろついてる村人みたいな布装備だ」

『プル~』


 これでは本当に心許ない。

 戦闘スキルとして活用できそうな『次元跳躍』はあれど、こんな低ステータスで徒手空拳は自殺行為だろう。どうにかして武器を確保しなければ……。だが、俺には『レベルガチャ』がある。スキル名が若干変化しているのは気になるが、大した問題じゃないはずだ。


「『レベルガチャ』か……」


 こいつは俺の人生を大きく変えたスキルだ。レベルを捧げる事で、その対価にステータス永続強化のアイテムや、高額なスキルや未知のスキルまで獲得可能となるチートスキル。このスキルのおかげで、俺の実力は冒険者の最底辺から最高位にまで登り詰める事ができたのだ。これをまた使えるのなら、今の低ステータスも貧弱スキルもすぐになんとかなるはずだ、


「けど、スキル名の変化が気になるよな。とりあえず呼び出せばわかるか?」


 と、ガチャの事を考えていると、不意に森の奥から木々を掻き分けるかのような音が微かに聞こえてきた。


『ガサッ』


「……ん?」


『ガサガサッ』


「んん?」


 気のせいではない。確かに聞こえた。今の音の発生源は6メートルほど先の茂みか。何が接近しているかは定かではないが、ここまで近づかれるまで気が付かないなんて、本当に全体的な感知範囲までリセットされたみたいだな。


「イリス」

『プル!』


 立ち上がると同時に、それは姿を現した。


『ゲギャギャ!?』

「あ、ゴブリンじゃん」


*****

名前:ゴブリン

レベル:2

腕力:6

器用:5

頑丈:4

俊敏:4

魔力:1

知力:1

運:なし

スキル:なし

装備:錆びたナイフ

*****


「んん?」


 あれ、コイツってこんなステータスだったっけ?

 レベルもステータスももうちょっと上だったような……。武器もしょぼいし、鑑定結果がなんだか物足りない。……ああ、ドロップと魔石の情報がないのか。ドロップはスキルレベルが不足している可能性があるとして、魔石も……?

 ゴブリンはでは割とポピュラーなモンスターで、見た目も緑色の体色に、身長1メートルくらいの小さな小鬼だ。この世界では強さが違うのか?


「ゲギャギャ!」

「おーおー、やる気満々だな」


 俺が弱そうだし武器もないから、もう勝った気でいやがる。

 いやまあ、実際弱いんだが。


『ゲギャ!』

「おっと」


 乱雑に振り回す短剣を回避する。弱くなったとはいえ、俺の戦いの経験までは無くなっていない。身体を操る技量は最大値こそ衰えたが、ゴブリンの攻撃程度に遅れをとる事はない。

 イリスも心配はしていないみたいで、呑気にこちらを眺めてプルプルしていた。


『プルー?』

「いいよ、俺が何とかする」

『プルプル』


 今ここでイリスの手を借りるのは簡単だが、素手でこの難局を乗り越えなきゃこの先まともに戦って行けそうにない。てか、こんな状態でゴブリンと遭遇したのも、俺の『運』が0だったことが要因としてありそうだ。

 ここはさっさとレベルを上げて、この災厄収集体質を何とかしなきゃな。この先、何と遭遇するか分かったもんじゃない!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★だけでも評価していただけると励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る