第27話
捜索を始めてから、いくつか目の木の洞を覗き込むが、何の気配もない。
少し離れたところにいる明日葉へ振り返れば、生い茂った蔓のせいで、また見えにくくなっている。
足を止めれば、その場に留めようと、蔓が伸びてきて、道を塞ぐ。
「動きが元気になってきてるね」
獲物の体力のある内は、蔓を退かして抜け出せるが、徐々に体力がなくなってくれば、抜け出せなくなり、最後には、森に食われる。
通常であれば、木々を食べる側の獲物を捕らえる、ドラゴンウッドの狩り。
「アスハ、まだ大丈夫?」
「全然元気だよ。食べ物はいっぱいあるしね」
長期戦を覚悟した携帯食料はもちろんあるが、明日葉が見上げたのは、木になっている果物だ。
『毒がある食べ物だってあるんだからな。食べる時は、連絡しろよ』
「はーい」
「本当に、色々食べられそうな物はいっぱいあるよね……」
『そりゃ、ドラゴンウッドは、一部の地域じゃ、神聖なモンスター扱いされてるしな』
「そうなの?」
『おう。田舎とかだとな』
ドラゴンウッドは、迷い込んだ動物を捕らえる習性こそあるが、ドラゴンウッドのいる森は、栄養が豊富で、豊かな森となる。
それは、食糧危機が起きやすい、不毛の土地にとっては、神の如き力であり、神と同等の扱いをされていることがある。
『昔話とかで、森に生贄を捧げてる話の元ネタだったりするしな。実際、人ひとり養分にして、村人全員分の食料確保されるなら、コスパとしてはいいしな』
「…………」
「……あんまり好きじゃない」
「ボクも」
明日葉とカーフの言葉に、近江は特に気にした様子もなく、話を進める。
『ま、利用できるものを利用しなきゃ、生き残れない連中の話だよ。今は、流通も良くなって、昔ほどそういう話は多くない』
代わりに、増えた話はある。
「腐りかけの人。送った」
明日葉から届いた腐敗の進んだ、大きな空の袋を持った、人の遺体。
服装や荷物から、未帰還者から照合するが、誰も一致しない。
『あぁ、ハンターだな』
肥沃な土地になる果実や珍しい植物、それらを狙った動物などを捕獲しようとする存在だ。
ドラゴンウッドに近づけば近づくほど、肥沃となる土地に、欲に目の眩んだ人間だったのだろう。
そして、最後には、森から抜け出すこともできなくなった。
「かわいそう……」
『ダンジョンに入るなら、安全のために、公的機関が出入りを確認してる。そこに申請してないってことは、大方、裏取引でもしてた連中だ。気にする必要ねェよ』
「でも……」
「そうだよ。カーフは、気にしなくてもいいよ。こんな奴ら」
「アスハ……?」
珍しく冷たい言い方をする明日葉に、カーフも不思議そうな表情をするが、明日葉は何も言わずに、森の奥へ目をやっていた。
『位置は確認してるから、ドラゴンウッドさえ倒せば、回収はできるよ。だから、気にせず、捜索を続けてくれ』
「……うん。わかった」
ドラゴンウッドを倒せば、この人も、誰にも知られず、朽ちていくのではなく、誰かの元には帰れる。
カーフも、どんどん暗くなっている森の奥へ、目をやるのだった。
*****
また捜索を続けていた時のことだ。
「いない!!」
あまりにも見つからないドラゴンウッドに、明日葉がしびれを切らし始めていた。
「もういっそ、一気に木の根っこ切ればいいんじゃない!?」
『とんでもないこと言い出したな……さすがの明日葉でも、面積的に無理』
「やってみないとわかんない」
『理論値ってのは、現実には不可能なんだよ。根性論じゃねェんだ』
「カーフもいるよ!?」
『…………カーフって、一気にどんだけ吸収できんだ……? いや、未確定とはいえ、明日葉3人分ってことはないだろ』
「うん。ないね」
明日葉3人分なんて、できるわけない。
地道に探す他ないかと、明日葉がまた周囲の様子を携帯で撮り、近江にドラゴンウッドが潜んでいる可能性の高い洞を探してもらう。
カーフも、その間に、近くにある洞の中を覗き込む。
「んん……?」
「どうかした?」
携帯を難しい顔で覗き込んでいる明日葉に近づけば、見せられたそれ。
「ドラゴンウッドが好んで寄生する木だって」
見せられた画像は、大きな木に細い木の枝がいくつも絡みついている。
ドラゴンウッドのいる洞は、その細い木の枝に隠されているようだ。
「つまり、洞の口すら見えないかもしれないってこと?」
「……そういうことだね」
最初から言われていたが、この任務、少人数でやるものではない。
「これ、本当に見つかるのか、な……?」
そう言いかけて、ふと目に入った、細い枝が複雑に絡んでいる一本の木。
「ねぇ、あれ……」
先程の隊員たちを捕らえようとしていた時にも、蔓や細い木々が、大きな木々に絡みついていたが、全て複数の木に絡みついたものだった。
だが、今、見つけた木は、一本に絡みついている。
アレでは、少し力がある人なら、細い枝を引きはがすことはできる。
「ちょっと見てくるね」
ただの偶然かもしれない。
だが、ほとんど情報のない今、少しでも違和感があったなら優先すべきだろうと、カーフはその木に近づいていく。
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