第24話

 ダンジョンの中だというのに、森の中にいるかと勘違いしそうな、鬱蒼と草木が茂るダンジョンを進んでいく明日葉とカーフ。


「どんどん進んでるけど、アスハ、道分かるの?」

「全然?」


 獣道すらない道なき道を歩く様子に、あまりに迷いがなく、つい聞いてしまったが、平気な表情で否定されてしまった。


「どこに、モンスターがいるかなんて、わからないよ。しらみつぶしです」

『実際、前みたいに、死にダンの再活化なら、最深部が一番怪しいんだけどな……死にダンに住み着いたってなると、手がかりがないんだよな』


 本来のダンジョンの理から外れてしまった以上、現在のダンジョンの様子から、居場所を予想するしかない。


 そのために、他部隊や傭兵へ依頼が掛かったのだが、生還した彼らからの情報では、鬱蒼と茂る草木によって、常に道が変化するということ。

 つまり、方向感覚を失えば、帰ることのできなくなり、道を失ったなら、帰るために、道を塞ぐ木々を力ずくで排除するしかなくなる。


「よいしょ、っと……」


 邪魔な枝を退かしながら進む明日葉の後ろから、枝を支えれば、身軽に向こう側に潜り抜けていく。


「……ねぇ、アスハ。体調悪い?」

「え? 元気だよ?」


 不思議そうに首を傾げている明日葉に、カーフも同じように首を傾げてしまう。

 先程から、後ろで見ていたが、いつもなら軽々と退かしたり、折ったりできそうな枝を、少し重そうに退けていることがある。


 あの、ダンジョンの床を破壊するような明日葉が、この程度の枝が重いと思っているわけがない。


「今は、色々封印してるからだよ。ここのモンスターが、魔力にびっくりしないように」


 以前に、明日葉が魔力や加護を封印していると言っていたことがあった。

 普段の生活に支障が出るため、普段は半分の力も出ないように、封印していると。


「あのバカ力は、加護由来だから、加護を封印してると、どうしても、か弱くなっちゃうからねぇ…………か弱くなっちゃってねェ……!!」

「か弱い人は、ドアを壊したりしないんだよ」

「それはみんながか弱すぎるの」


 不貞腐れたように呟く明日葉は、また茂る蔓に手を掛けるが、後ろから伸びてきた腕が持ち上げる。


「……ありがと」

「どういたしまして。今のアスハなら、またボクが腕相撲、連勝できそうだね」

「やるかぁ!?」

「やらない。任務中だよ」


 ほらほら。と、背中を押すカーフに、明日葉は、カーフだ持ち上げる蔓の下を潜っていく。


 そうしながら、進んでいくと、ふと聞こえた人の声。


「アスハ! 今の声……!」

「……あっちかな」


 声のする方に向かえば、ひびの入った壁から、声が漏れてきているらしい。

 声を出している人は、おそらく向こう側にいるのだろう。


「アスハ、向こう側に人が――」


 言いかけて、少しだけ機嫌が悪そうに、顔を逸らしている明日葉に、言葉を詰まらせる。


 以前に、ダンジョンの壁だろうが、床だろうが、とにかく破壊していたが、今は、ここに住み着いたモンスターを倒すために、力を封印している状態だ。

 その状態で、壁を破壊することはできない。

 もしするなら、本来の目的である、モンスターの討伐が難しくなるし、何より近江達が危惧していた、他への影響が出てしまう。


「……いるみたいだから、ボクが見てくるね」

「え……カーフ、ひとりで?」

「うん。ボクなら、この隙間から、向こうに行けるからね。だから、アスハはここで待ってて」


 怪我をして動けない状態なのか、万全に動ける状態なのか、状況によって、彼らを助ける方法が変わってくる。

 まずは、状況を確認して来ようと、カーフは隙間を指させば、明日葉は相変わらず、不満そうな顔だ。


「とりあえず、状況を確認したら戻ってくるから。アスハは、ここで待ってて。変なことしないでね」

「しないけどさ……」


 まだ不満そうだが、カーフが隙間に体の形を変化させて、潜り込んでいく。


「絶対だよ? いいね?」

「わかったって!!」


 隙間に吸い込まれていったと思えば、すぐに念を押すために顔だけ戻ってきた、カーフの頭を、隙間に押し込んだ。


 隙間から、そっと手を放せば、戻ってこないカーフに、明日葉は少し寂しそうな顔をしながら、隙間から少し離れた場所に座る。

 壁の向こうから、変わらず声はしているけど、隙間から顔を出す様子は、まだない。


「…………ヒマ」


 明日葉はぽつりとつぶやくと、隙間に目をやったまま、こてんと横になった。

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